【投稿】補選の結果をめぐって 統一戦線論(24)

【投稿】補選の結果をめぐって 統一戦線論(24)

<<「ビリケン内閣」の再来>>
 5/16の衆院予算委員会で、民進党・山尾志桜里政調会長が安倍首相に対し、「女性活躍どころか“男尊女卑”政権だ」と批判し、「なぜ保育問題に前向きに取り組まないのか」と糾したところ、首相は「山尾委員は議会の運営ということについて少し勉強していただいたほうがいいと思います」とはねつけ、なんと「議会についてはですね、私は立法府、立法府の長であります」と開き直ったのである。立法府の長は衆議院議長であり、参議院議長である。首相は行政府の長であって、立法府の長ではない。三権分立の最低限の基本常識をさえ踏みにじって、いけしゃあしゃあとしている。噴飯ものである。「少し勉強していただいたほうがいい」のは、これほどの無知を晒けだした安倍首相本人であって、義務教育教科書を読み直して出直すべきであろう。すでに安倍首相は今年4/18のTPP特別委でも「私が立法府の長」と発言、その場で「立法府ではなく行政府」と指摘を受けていたのである。
 さらに翌5/17の参院予算委員会でも安倍首相は、安保法制採決時の議事録について質問を受けて、「立法府の私がお答えのしようがない」と回答、しかもその間違いを指摘する与党議員や閣僚さえいない。今年になって3回立て続けである。一向に正そうとする姿勢がないのである。
 2014年2月12日の国会で言い放った「(憲法解釈の)最高責任者は私です」という発言。さらに昨年3月20日のの参院予算委員会で口にした「我が軍」発言。そして今年3/21の防衛大学校での卒業式での「将来、諸君の中から、最高指揮官たる内閣総理大臣の片腕となって、その重要な意思決定を支える人材が出てきてくれることを、切に願います」「私は、最高指揮官として、諸君は、私の誇りであり、日本の誇りであります」と、自衛隊をまるで自分の“私兵”扱いとした発言。
 これらの発言に一貫しているものは、単なる言い間違いではない。あらゆる権力はわが手中にある、議会や司法などどうってことはない、立憲主義や三権分立など知ったことではない、それらを超然と踏みにじる、すでに現時点において、確信犯的な独裁者、独裁政権の姿勢である。
 1918年8月2日にシベリア出兵を宣言し、米騒動の責任をとって9月21日に総辞職した元帥陸軍大将・軍事参議官の寺内正毅内閣は、「内閣は衆議院多数党の代表者が組織すべきことを主張するのは、至尊の大権(天皇の大権)を干犯すると」と述べて、議会の干渉を排除した”超然”内閣の正当性を主張し、この内閣の「非立憲」から「ビリケン内閣」と呼ばれた、あの「ビリケン内閣」の再来が安倍内閣だともいえよう。

<<北海道5区補選の結果>>
 ところが、直近の世論調査では、このところこうした安倍内閣の危険で独裁的で暴走しかねない姿勢から低下していた安倍内閣の支持率が、総じて上昇気味である。読売新聞調査(5/13-15実施)では、安倍内閣の支持率は、前回(4/1-3)の50%からやや上昇して53%となったが、「支持率がやや上がったのは、熊本地震への対応や、オバマ氏の広島訪問という外交成果などに肯定的な見方が広がったためとみられる」としている。政党支持率は、自民党が前月比1.7ポイント増の25.6%で、3月に発足した民進党は同0.1ポイント増の4.3%とほぼ横ばい。以下、公明党4.1%、共産党1.7%である(5/15読売)。
 問題は、熊本・大分地震が4/14発生以来、いまだその深刻な影響を及ぼしている、その最中の4/24投開票の北海道5区補選の結果である。
 選挙終盤、野党統一候補が自公候補を上回ったと報じられた局面があったにもかかわらず、熊本地震が前例を見ない連鎖的・複合的・長期的な巨大地震であることが明らかになりつつあり、被害の拡大が川内原発や伊方原発にも波及しかねない時点から、与党陣営が盛り返しだしたのである。安倍政権が被災者支援にかこつけて危険極まりないオスプレイの派遣を米軍に要請したり、右往左往していたにもかかわらず、民進党は安倍政権の被災者支援に全面協力すると打ち出してしまったのである。
 北海道5区は、原発再稼動を目指す泊原発から80~100キロしか離れておらず、札幌市は避難受け入れ地域でもある。泊原発のわずか15km沖合に、長さ60-70kmの活断層があり、この地域には、長さ100km級の大活断層がいくつも存在する可能性、泊原発の直下で地震が起きる可能性すらが指摘されている。有権者の圧倒的多数は不安を抱えていたし、今も不安を抱えているのは間違いがない。それでも北海道電力は2017年度中の再稼働を視野に入れている。
 熊本地震の警告に直面して、何よりも訴えるべきことは、安倍内閣の原発再稼動固執路線を断固として糾弾し、それでも再稼働させるのかと訴え、再稼動をあきらめさせることであった。ところがその路線を放棄してしまったのである。「タイミングのいい地震」(おおさか維新の片山代表の発言)を利用した安倍政権、対決点をぼかしてしまった民進党と野党陣営。野党統一候補効果で本来上がるべきはずの投票率も上がらなかった(57.6%)。前回2014/12の投票率が過去最低だと問題になったが、今回の投票率はそれ以下の水準なのである。
 補選の結果は、自公・和田よしあき=135,842票に対し、野党統一・池田まき=123,517票、その差=12,325である。

<<「善戦」でいいのか?>>
 前回2014年12月の総選挙は故・町村信孝前衆院議長の約13万1000に対し、それぞれ独自候補であった民主・共産両候補の合計は約12万6000、その差=5000であった。その差は、肉薄どころか、倍以上開いたのである。ただし、前回の民主の票のうち、基礎票が約2万5000とされる新党大地は、今回は与党陣営に寝返っている。そのまま自公陣営に鞍替えしていれば、5万票以上の大差がついてもおかしくなかったともいえる。しかし実際には、新党大地の出口調査での支持率は、空白で、限りなく0に近かったのである。「本来なら圧勝しないといけなかった」(自民党幹部)にもかかわらず、与党陣営は大地の支持層を取り込めず、新党大地の豹変もほとんど支持されず、逆に、野党共闘の上積み効果は4万票以上だったともいえよう。
 しかし、野党統一候補であるにもかかわらず、投票率を上昇させることができず、それでも自民党候補者の得票は前回選より増加し、逆に野党統一候補者の得票は前回・民主党と共産党の各候補者の獲得得票合計より減らし、票差が大きく開いた現実は直視すべきであろう。これを「補選はあと一歩だったが、野党と市民が一つにまとまれば自民党を倒すことができるとの希望の火をともした」「野党・市民の共同が力発揮した」「共同の力 自公を追い込む」と楽観視していては危険である。
 確かに、共同通信の出口調査では、無党派層の7割が統一候補を支持し、民進党支持者の95.5%が統一候補に投票し、民進と共産とを離間させる反共攻撃は無党派層にも通用しなかったし、「共産と組んだら民進支持の保守層が逃げていく」という現象も起きなかったのである。その意味では善戦である。しかし、野党統一陣営のそれぞれが獲得していた過去の実績を上回ることが出来なかったのである。
 さらに、すでに「出口調査」で明らかになっていることであるが、投票選択では一位が社保、二位に景気の順で、安全保障はわずか10%にすぎない。共産党が主張する「選挙戦の対決構図」は空回りし、「戦争法を廃止」を最大の対決争点とすることは出来なかったのである。根底には、安倍内閣の危険極まりない政治姿勢への拒否感が蓄積されていても、その具体的な現れである熊本地震への対応や、原発再稼動問題を不問にしていたのでは、有権者から見放されてしまうのである。

<<共産党の対応の矛盾>>
 さらに指摘されねばならないのは、統一候補、統一戦線に対する共産党の姿勢である。野党統一候補となった池田氏は無所属で立候補したが、共産党が本来民主党の候補者であった池田氏の無所属立候補を頑強に求め、その結果、「無所属で出馬したため、党公認の和田氏陣営が2台認められた選挙カーが1台しか使えないなど運動に制約があったことも響いたのではないか。共産党が候補を取り下げ、野党共闘が実現したのは告示約2カ月前の2月中旬。池田氏を支援した市民団体からは「もっと早く野党が手を組めば、違う結果になったはず」と恨み節も聞かれたよ。」(4/26、北海道新聞)という事態に追い込んだことである。
 共産党は、安保関連法廃止という一点で共闘と言いながら、最後まで、池田氏が民主党(当時)会派に入ることに対してさえ反対し、決裂寸前の事態に、共産党の友好団体であるはずの道労連(北海道労働組合総連合)からも、共産党に対し、池田氏の民主党会派入りを認めよという声明まで出されて、ようやく会派要求を取り下げたのであった。こうした経過が敗因の重要な一因であることは間違いないといえよう。ぬぐいがたいセクト主義が、大きなマイナスの役割を果たしたのである。
 同じ補選でも、京都3区では、民進党の泉健太氏に対しては、裏ではともかく、表では共闘を拒否され、それでも共産党の独自候補を一方的に降ろし、自主投票というかたちで実質上、泉候補を支援したのである。保守系の泉健太氏よりも、野党共闘に積極的で、より革新系の池田真紀氏の方が共産党に有利と見れば、セクト主義を押し通そうとする。せっかくの良い候補者をセクト主義的に囲い込もうとする、この共産党の対応の矛盾も、今回の補選はさらけ出してしまったのである。
 いよいよ参院選を目前に控え、32ある「1人区」すべてで民進、共産、社民、生活4党による候補者一本化が実現する見通しが現実のものとなってきている。香川選挙区では民進党が独自候補の擁立を断念し、共産党の候補予定者への一本化が決められようとしている。安倍政権の目論見を阻止するためにも、今回の補選の結果を冷静かつ真剣に総括することが望まれる。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.462 2016年5月28日

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