【投稿】4号機プールからの核燃料取り出し開始は「廃炉への第一歩」ではない
福井 杉本達也
1.危険な福島第一4号機からの使用済み核燃料取り出し
4号機のプールに入っている燃料体は全部で1,533本、うち水で遮蔽をしなければ大量の放射線を出して周囲の人々に致死量の放射線を浴びせる使用済み燃料は1,331体、新燃料は202体ある。この取り出し作業は、4号機の建屋が爆発で破壊され、強度が著しく不足することとなったため、わざわざ建屋の外側から「使用済燃料取出し用カバー」の設置工事を行い、この桁構造物に移送用クレーンを取り付けて行われる。
移送作業は、燃料プールの中に移送用容器を入れるところから始まる。容器は全長5.5m・直径2.1m・重量は91トンもあり、従来から福島第一原発の構内で使用済み燃料輸送に使われていたものである。この中に一度に22体の燃料を詰めて移送する。吊り上げる際にプール内の瓦礫などに引っかけるなどの危険性もある。容器の密閉作業も全部水中で行わなければならない(最低でも水面下1.6mで)。32mの高さからの落下時の衝撃に耐えられるかどうか。誤って落下した場合、内容物が飛散することも想定しなければならない。
燃料体が露出した場合、そこから強力な放射線が発散し、4号機周辺の空間線量は致死レベルになる。規制委は10月30日に取り出しを認可したものの、実証試験が行われていないということで11月18日に取り出しが延期された。
2.それでも使用済み核燃料を取り出さなければならない
4号機は定期検査中だったにもかかわらず、4階部分と5階部分で2度の爆発を起こした。東電は3号機からの水素が空調配管を伝って4号機建屋で爆発したというが(2011.11.10東電)、1度崩壊した隙間だらけの建屋で2度目の水素爆発が起こるとは考えにくい(「3号機から逆流した水素のみで4号機原子炉建屋が爆発性雰囲気にまで到達するかどうかには慎重に検討する必要があり、かつ、いまだ立証されていない」(『国会事故調報告書』、また、東電はいまだに4号機の爆発の映像を公開していない)。米軍の無人偵察機は4号機プールに水がない(2011.3.16米議会証言)としたが、運よく隣の原子炉の上部(ウエル)が水で満たされておりウエルとプールを隔てた壁が何らかの衝撃で破壊されたことでプールに水が流入し3号機のような水蒸気爆発を伴った核爆発はまぬかれ(しかもむきだしの原子炉3基分相当)、日本は首都圏からの5,000万人避難・東西分断という状況にはならなかった。4号機プールの発熱は事故から2年半経って、崩壊熱自身はかなり減って、510KW/h程度となっている(東電:「福島第一原子力発電所1~4号機に対する『中期的安全確保の考え方』に関する経済産業省原子力安全・保安院への報告について」)。KW/hをKcal/hに直すと860Kcalになる。4号機プールの水温23度(11.12現在)の1,400トンの水を蒸発させるには(+77°+潜熱539°で)、1,400,000÷(510×860÷616)=1,966÷24=82日となる。燃料棒の体数が多いため1~3号機の原子炉や燃料プールと比較すると最も危ない施設ではあるが、冷却水の循環が止まれば明日にでも爆発するというものではなく、地震等がなければ十分対応する時間はある。
4号機プールからの燃料棒の移送は危険な作業ではあるが、放置しておけば日本は壊滅するため、やらねばならないのは確かである。4号機プールは、爆発によって建屋が壊されて宙吊りのような状態になっている。大きな地震でプールが崩れ落ち、中に水を蓄えることができないような状態になれば、燃料が爆発することになり、使用済み核燃料が建屋周辺に撒き散らされれば福島第一原発の敷地内は完全に放射能に汚染され人が近づくことはできず福島第一原発は制御不能となる。少しでも危険の少ないところに一刻も早く移さなければいけない。使用済み燃料はプールの底から空気中に吊り上げると、周辺の人がバタバタと死んでしまうというほどの放射能性物質を持っている(燃料棒直近では2,600シーベルト)。1年~数年の長丁場で、大きな地震が起きない保証はない。原発の最大の恐怖は原子炉ではなく、大量の放射性物質が格納容器にも守られずに1カ所に集まった燃料プールである。そして無事に1,533体を運び終えても、問題が解決したわけではない。1~3号機のプールにはさらに計約1,500体の燃料がある。しかし、溶けたデブリを回収するすべはない。チェルノブイリのような石棺しか道はないであろう。東電は13日、破損した4号機の燃料棒3体について取り出しは困難との発表をした。これは燃料棒全ての回収は不可能だという伏線である。だが、5割であろうが7割であろうが回収しなければならない。さらに、燃料を運び出した先の「共用プール」には、6千体以上の燃料棒で満たされたままとなっている。
3.取り出した使用済み燃料をどうするか
共用プールに移送した使用済み燃料は取りあえずそのままプール内で湿式貯蔵するしかない。その後、崩壊熱が空気冷却出来る程度までに下がった時点でキャスクに入れて乾式貯蔵=「中間貯蔵」することになろう。原子力委員会の依頼を受け検討してきた日本学術会議は2012年9月11日、「高レベル放射性廃棄物」を数十~数百年間「暫定保管」すべきだとの提言を出した(政府の用語としては「使用済み核燃料」=「高レベル放射性廃棄物」ではないが、学術会議は『高レベル放射性廃棄物』とは、使用済み核燃料を再処理した後に排出される高レベル放射性廃棄物のみならず、仮に使用済み核燃料の全量再処理が中止され、直接処分が併せて実施されることになった場合における使用済み核燃料も含む」と定義している)。
ところが、この学術会議の提言を全く無視するかのように、総合資源エネルギー調査会原子力小委員会放射性廃棄物WGではこれまで通り使用済み核燃料を再処理し、再処理後の放射性廃棄物を地中処分する案が検討されている。
8月7日のWGで、委員の朽木修氏(原子力安全研究協会)は放射性廃棄物の地中処分について「廃棄物自体が直接人間に影響を及ぼさないようにするために、非常に厚い岩の壁が本来的に持つ隔離機能で、数百メートルぐらいのものを使おうということになります。」「さらに閉じ込め機能を確実にするために、多重バリアシステムを構築する。」「工学バリアのところで全部が閉じ込められているということを確保したい。オーバーパックは1000年で壊れると。19cmの鉄が全部やられてしまう。ガラス固化体はだんだん溶けてしまう」 と仮定して設計するとする。朽木氏の説明によると、ガラス固化体1本=40kgの放射能は2×10^16(10の16乗)ベクレル(Bq)(福島第一事故で撒き散らされたセシウムに匹敵する)あるが、1000年後には2000分の1の10^12Bq程度に減少し、人工バリアが壊れても岩盤の中に閉じこめられているので人間の生活圏に出てくるまでには数万年かかりその頃には無視できる放射線量になるというのである。しかし、哲学者の加藤尚武氏は「地下の施設の理想的な設計図を作り、理想的な材料を用いて、手抜きのない工事をしたら、1000年間は安全であるのか。私は、それを証明できないと思う。『1000年の安全』を支えるにはさまざまなデータや科学法則が使われる。そのデータと科学法則そのものが、『1000年間有効』という保証がないなら『1000年間の安全設計』は絵に書いた餅で、実際に『1000年間の安全』を約束することはできない。」とし、度重なる地震で建築法規は改正に次ぐ改正を重ねているので、建築物本体の耐用年数よりも、その間の法規の有効年数の方が短く、今、工業的に作られているセメントは150年前に開発されたものであり、1000年間使ってみて安全を確かめたセメントは存在しないという(加藤:「核廃棄物の時間と国家の時間」『現代思想』201203)。コンクリートの寿命について、溝渕利明氏はせいぜい50年程度だと結論づけている(溝渕:『コンクリート崩壊』)。
4.選択肢は「暫定保管」しかない
高レベルの放射性廃棄物を地下深くに埋めて処分する技術を研究している北海道の幌延町の施設で地下350mにある実験用のトンネルを10月28日に報道陣に公開した。しかし、この施設は今年2月6日に大量の地下水が漏れ出し、地下水にはメタンガスが含まれ、濃度が基準の1%を超えたことから、現場にいた作業員24人は全員避難する事態となっていたものである(NHK:2013.2.14)。数十万年後も「大丈夫」と豪語しつつ、明日の地下トンネルの水漏れも保証できないのが現在の(あるいは将来の)工学の水準である。とするならば、やはり学術会議の提言するように「暫定保管」(政府用語では「中間貯蔵」=再処理を前提として「中間」という言葉を使っている)しか道はない。
福島第一原発事故で世界を震撼させたのは3号機燃料プールの水蒸気爆発を伴う核爆発であった。低濃縮ウランでも核爆発するという事実である。しかも、『核兵器』は、ほとんど注目されてこなかった核燃料プールというむきだしの原子炉にあったことである。日本の原発の使用済み燃料のほとんどは核燃料プールで湿式保存されている。しかし、水が介在して核爆発するというのであれば、我々は時限『核爆弾』の上に寝ているのと同じである。何らかの事故で電源が止まるか水がなくなれば時限爆弾のスイッチが入る。一刻も早く使用済み核燃料を乾式貯蔵に移行する必要がある。原発の再稼働を進めたい西川福井県知事は電力消費地との駆け引きから「中間貯蔵」は県外でと主張している。しかし、そう簡単に受け入れ先が決まるとは考えられない。となれば、いつまでも時限爆弾の上で寝なければならない。ではいったいどこに貯蔵するか。当面、原発敷地内しかないであろう。
【出典】 アサート No.432 2013年11月23日