【投稿】民主党政権の総括—「民主党政権 失敗の検証」を読んで
昨年12月の総選挙から、まもなく1年が経とうとしている。選挙結果は圧倒的な敗北であり、再び、自民党政権が誕生し、かなり意気消沈したというのが、素朴な感想であった。以来、選挙総括や、民主党分析の書物もいくつか出版されてきたが、正直、まともに読むこともなかった。一方、アベノミクスという経済拡大策をもって登場した安倍政権だったが、そろそろ陰りが出始めるとともに、滑り出しは、安全運転だった政権運営も、特定秘密保護法や、原発再稼動問題など、旧来の自民党色が目立ち始め、支持率も低下の傾向にある中、そろそろ民主党問題を考えようかなと、感じ始めていた。
そんな折、本書「民主党政権 失敗の検証–日本政治は何を生かすか」(中公新書)を手にした。民主党議員、政権時の政務官経験者などに、丁寧にインタビューを行うと共に、項目別に整理され、記載されているなど、一読して見て、中々まとまっているという印象であった。本書の紹介を行いながら、私の関心の高い点を通じて「民主党失敗の検証」をしてみたい。
本書の構成は、以下の通りである。
序章 民主党の歩みと三年三ヵ月の政権
第一章 マニュフェスト–なぜ実現できなかったのか
第二章 政治主導--頓挫した「五策」
第三章 経済と財政–変革への挑戦と挫折
第四章 外交・安保–理念追求から現実路線へ
第五章 子ども手当–チルドレン・ファーストの蹉跌
第六章 政権・党運営–小沢一郎だけが原因か
第七章 選挙戦略–大勝と惨敗を生んだジレンマ
終章 改革政党であれ、政権担当能力を磨け
「はじめ」の項では、「民主党政権はどこで間違ったのか。それは誰の、どういう責任によるものなのか。そこから何を教訓として導き出すべきか。この報告書は、そのような問題関心に正面から応えることを目的としている。」と語られている。全体を通じて、政治的に客観的な立場から取り組まれたと読み取ることができる内容になっている。
<マニュフェストと財源問題>
「消えた年金」問題などを通じて、すでに自民党(自公)政権を国民は見限っていたが、民主党の2009マニュフェストは、子ども手当や農家への戸別補償制度、高速道路無料化、ガソリン暫定税率の廃止など、直接給付や減税政策が多く盛り込まれていた。
マニュフェストでは、無駄の排除、埋蔵金の活用、税制見直し等で、16.8兆円を捻出し、施策の財源に充当するとされていた。しかし、2012年11月に発表されたマニュフェストの進捗報告によると、初年度は、埋蔵金活用等で、9.8兆円を確保したものの、次年度以降は、6.9兆円、4.4兆円と、財源を確保することができなかった。
暫定税率の廃止は、早々と撤回されたが、「マニュフェストの後退」「国民への裏切り」「公約違反」の非難が浴びせられることとなった。
本書では、マニュフェストが党内で共有されていなかったという指摘がある。それは、個々の政策の理解という以上に、マニュフェストの作成過程において、少数の首脳部が作成したこと、さらに2009総選挙で大量に増えた新人議員の中で顕著であったという。
さらに、個々の政策が、どのような社会をめざすのかというコアな戦略の中に位置づけられていたのか、という点も指摘されている。それは、第五章の子ども手当問題でも取り上げられている。給付金額のみが一人歩きし、(当初16000円案が、小沢が26000円に上げた、という指摘もあるが)、総体としての子ども育成、働き盛りの若年家庭支援の施策との整合性も不十分になり、民主党政権時代に、保育所が増えたという印象も残せなかった。
<小沢の評価>
2003年に小沢の自由党が民主党に合流し、それまでの都市型市民の改革政党というイメージから、保守的階層や地方の票も党の視野に入ると共に、自民党の中枢で「国政」を知り抜いていると意味で、民主党の幅が広がったことは事実であった。
本書では、特に項を裂いているわけではないが、随所に小沢の果たした役割、そして功罪に触れられている。私が特に注目するのは、政権交代を準備した2007年参議院選挙での役割であろうか。小泉選挙で大勝した自民党は、旧来の支持層をから規制緩和や「改革」中心、都市型政党への傾向を強めた。そこを見抜いた小沢は、参議院選挙戦術においても、地方の1人区での戦いを重視し、地方の疲弊を取り上げて1人区で大勝し、2007参議院での民主党勝利を実現したという。しかし、政権交代後は、むしろ「政治とカネ」の象徴のように、民主党の足を引っ張ることになるのだが。
民主党政権の「失敗」と小沢の評価との関連は、さらに分析する必要があるだろう。
<政治主導は実現されなかった>
民主党結党時からのスローガンには、霞ヶ関批判が含まれていた。無駄な公共事業批判、自民党政治における官僚主導に対する批判であった。第二章では、官僚主導から政治主導は実現したのか、が取り上げられている。鳩山政権では、事務次官会議が廃止され、議員から100名余りが、大臣・副大臣・政務官として各省庁に配置されることとなった。
本書によると、各省庁でのこれら政務官の役割などが、省庁間で共有されることはなく、バラバラとなり、官僚の離反もあって、省庁の情報が官邸に伝わらなくなってしまい、逆に、政治主導が言葉倒れになったという。菅政権では、東日本大震災を受けて、事務次官も参加する「被災者生活支援各省庁連絡会議」が設置され、震災対策の進捗状況の共有をはかった。野田政権では、この会議が「各省庁連絡会議」として週1で開催され、事実上の事務次官会議の復活となった。
<首相の発言の重み>
政治主導の極みとして、首相・党代表の発言についても、民主党の混乱の原因を作ってきたと言う。普天間基地の移設問題について、鳩山は「最低でも県外」という発言を、選挙中に発言する。マニュフェストには、沖縄県民の基地負担の軽減云々までの叙述であった。この発言が、鳩山政権を揺さぶり、最終的に辞任にいたった。
菅は、2010年の参議院選挙を前に、唐突に消費増税の必要性に言及する。自民党案の10%も検討材料、という発言であった。2010参議院選挙で民主党は惨敗するのである。消費税増税問題は、マニュフェストには書かれていない。
これを引き継ぎ、野田政権は、「決める政治」だと小沢グループの離党など傷だらけになりつつ、3党合意による消費税増税を進めた。
唐突な首相(代表)の発言に、党内は後から付いていったようだが、果たして党の決定システムとして、妥当であったのか、どうかが検証されるべきだろう。
<地方議員の問題>
本書の中で、分析が不十分だと感じるのは、地方議員の問題である。私は、政権交代時に、民主党の足腰の弱さについて指摘し、政権を握っている間に、地方の体制を強化する、議員を増やす必要について書いたことがある。努力はされていたと思うが、現実には、おそらく微増に止まっているだろうし、大阪では、逆に民主党の混迷もあり、維新の会が躍進し、むしろ大幅に減らしている。旧来の社民党・民社党出身の議員以外に、新たな人材を確保することができなかったのではないか。国・地方を貫く政策目標が、一般的に「分権推進」以上に明確にできていなかったのである。
<二度の政権交代、次もあるか>
小泉選挙で大勝した自民党だったが、2007年の参議院選挙で民主党に敗北し、参議院では過半数を確保できず、政権運営に行き詰まり、2009年総選挙で政権の座を失った。今回も、当時の菅首相の下で戦われた2010年の参議院選挙で、民主党は自民党に敗北、ねじれ国会と言う状況を生み、2013年の総選挙で再び政権交代となっている。このパターンでいけば、2016年の参議院選挙が、一つのポイントになるのだろう。
小選挙区制の下で、大きく票の流れが変化し触れ幅によって、ある政党の一人勝ちという状況が生まれ、政権そのものが交代することとなった。
2009年の政権交代は、民主党の勝利であったのか、自民党の敗北であったのか、私たちは、むしろ「自民党の敗北」の側面を見ていた。決して、民主党に能力や力があると見てはいなかった。むしろ、少なくとも1994年の細川政権の退場以後、続いてきた自民党(自公)政権を、国民が見限り、民主党にやらせてみようと思ったに過ぎなかった。
それは、本書でも明らかにされているが、民主党に政権を担当する準備が出来ていたのか、また、政権を運営するための「党内システム」が考慮されていたのか、という議論にも行き着くのである。
本書は、民主党政権が残した成果についても、客観的に評価している。高校無償化や名前は変わったが、子ども手当の増額。NHKが報道した復興予算の無駄使いも、「事業仕分け」の中で生まれた「行政レビューシート」という事業明細の存在から明らかになったという。安倍政権が綱渡りの政策を続けている現在、本書が分析している「失敗の検証」を基にして、さらに議論が深まることが期待される。(2013-11-17佐野秀夫)
【出典】 アサート No.432 2013年11月23日