【投稿】底知れぬ金融不安–米政府の綱渡り続くが–

【投稿】底知れぬ金融不安–米政府の綱渡り続くが–

 先週の1週間は、サブプライムローン問題に端を発する経済不安が、金融システムそのものの機能停止の瀬戸際まで危機が現実化したという意味において、新たな段階に進んだと位置づけられる出来事の連続だった。
 この影響は、アメリカに止まらず欧米、アジアなど世界的規模に及んでいる。正に戦後最大のバブル崩壊の底深さを示したものと言えよう。
 2007年8月に表面化したサブプライム問題だったが、最初は、デフォルト(債務不履行)となった住宅ローン証券化商品の価値が減価し、これを購入していた投資銀行、証券会社、銀行などが決算期に巨額の引当金を計上することにより、大幅な減益決算などを余儀なくされた。これに先立ち、アメリカでは住宅バブルの崩壊が始まり、住宅価格の値崩れは、価格上昇を前提として組まれていた高金利高リスクのサブプライムローンの焦げ付き、新規住宅購入・建設の低迷から一層の住宅価格の下落が進むことになった。
 破綻の連鎖は、続いて、住宅ローンの保証会社であるモノラインの破綻の危機となって現れた。2008年3月には投資銀行であるベア・スターンズが経営危機に陥ったが、モルガン・スタンレイが買収することで、一旦危機は収まったかに見えた。
 また、中東やシンガポール、中国などの政府系投資機関が、自己資本不足に陥ったアメリカの証券・投資会社の増資要請に応じたことで、経営危機そのものについては、一息ついたと思われた時期もあった。この間、FRBは、一貫して従来のドル高路線を放棄し、5%を越えていた金利を2%まで引き下げてきた。さらに、住宅バブルの崩壊から個人消費が低迷し、景気減速を恐れたブッシュは、7兆円を越える所得税減税を実施したが、個人消費の減少を短期間止めることしかできなかった。四半期決算毎に、アメリカの金融機関は、デフォルトに伴う赤字予想を引き上げざるを得なかったのである。
 7月には、政府系住宅金融公社2社において、住宅ローンの焦げ付きの影響により、株価が45%下落し経営危機に陥った。同社が保障しているローン残高は、5.2兆ドルであって、同社の発行する債権は、世界各国の中央銀行も所有しており、これが破綻すれば、世界的な金融破綻の可能性があった。アメリカ政府は、急遽公的資金の投入を含めて資本増強する事を決定したが、市場の動揺はさらに深まることになった。(9月には、2社を政府管理することを決定)
 そして、先週1週間の出来事である。前週の末からリーマン身売りのニュースが溢れ、韓国政府系金融機関などの買収も囁かれていた。しかし、リーマンは、投資会社の中でも、飛びぬけてリスク性資産を抱えていたため、アメリカ政府にも見放され、民事再生・倒産を余儀なくされた。負債総額は6000億ドルを越える。
 さらに、同じ投資会社のメリル・リンチは、バンク・オブ・アメリカにおよそ500億ドルで事実上救済合併されることとなった。こうして、アメリカの主要投資会社は、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスを除いて、退場となった。投資会社は預金機能を持たないため、資産が減価し、資金供給が弱まれば忽ち窮地に立つことになる。先週は、不安の連鎖のため実際の銀行間の貸出金利(短期市場金利)が7%を越える事態となったという。
 さらに、先週アメリカ最大の保険会社AIGも、巨額のリスク性資産保障を負っているとして、株価が急落、経営危機に陥ったが、こちらは影響が多くの国民に及ぶとして、アメリカ政府が850億ドルのつなぎ融資を決定して、破綻を一旦免れることとなった。
 ドル資金が減少するという事態を受け、アメリカ・日本などの6つの中央銀行が協調してドル資金総額36兆円を市場に供給する事を決定。さらにアメリカ政府は、不良資産を公的資金で買い取る法案を議会に提案した。総額75兆円と言われる。さらに個人資産である投信型MMFの保障、株式の空売り規制を打ち出している。
 このように、先週1週間の出来事は、アメリカ発の金融破綻が、新たな段階に至ったと言えるのではないか。金融機関・企業間に疑心暗鬼が蔓延し、短期市場金利が急上昇するなど、信用収縮が起こっているのである。経営悪化した企業に資金が供給されないとなると破綻企業は一層増加する。すでにアメリカ地銀は昨年4行が破綻、今年になって12行が破綻しているのである。(200行近い地銀が破綻する予想もある)
 モラル・ハザード論など言ってはいられないほど、アメリカの金融不安は深刻である。公的資金の投入なくして危機の回避は不可能となっている。「市場がすべて」のアメリカ・スタンダードがこの有様である。対岸の火事ではない。市場原理主義・新自由主義の行き着く先をしっかり見つめる必要あるのではないか。(佐野秀夫)

 【出典】 アサート No.370 2008年9月27日

カテゴリー: 経済 パーマリンク