【投稿】迫られる内政・外交の転換と安倍政権
<<小泉「アブノーマル」>>
12/8、下村官房副長官はTBSのCS番組の収録で、「(小泉前首相がつくり上げた)与党と対立するという構図はアブノーマルだった」と述べた。その前日、12/7には、久間防衛庁長官が参院外交防衛委員会で、米国のイラクに対する武力行使について「日本は政府として支持すると公式に言ったわけではない。(小泉前)首相がマスコミに言ったということは聞いている」と述べ、イラク戦争支持は政府の公式見解ではなく、小泉前首相の個人的見解であるとの考えを示した。いずれも唯々諾々と付き従って来た当事者が、内外の情勢の風向きに不安を覚えたのであろう、小泉前首相のアブノーマルにすべての責任を転嫁しようという意図が見え透いた論調、アドバルーンを上げだした。
対イラク戦については、小泉内閣として、イラク戦争開戦を受けた03年3月20日、「わが国の同盟国である米国をはじめとする国々によるこの度のイラクに対する武力行使を支持する」との首相談話を閣議決定したのは厳然たる事実である。さすがにこの点を突かれると、久間氏は翌8日の記者会見で、「私の不勉強で、閣議決定を見過ごしていた。公式(見解)でなかったというのは私の間違いで認識不足だった」と述べ、発言を撤回した。ただし、久間氏自身が開戦を支持するかどうかを問われると、「あまりそういう気持ちがない」と語り、さらに、米国の開戦については「早まったのではないかという思いが、その時もしていた。個人としては今でもそう思っている」と改めて疑問を示し、「もう少しいい方法があったのではないか。終戦の処理の仕方をもう少し詰めておくべきだった」とまで述べている。
これに対し、肝心の安倍首相は、首相就任後の10/6の衆院予算委員会で「(イラクが大量破壊兵器を)恐らく持っているだろうということが当然政府としての判断の根拠だった」と述べ、政府の支持に「合理的な理由があった」と答弁しており、久間氏の発言については12/7、「再三の国連決議を破ってきたイラクに対しての武力行使に日本は支持をした。あの段階では問題なかった判断だったと思っている」と語っている。
<<首相の思考停止>>
しかし現段階ではどう判断するのか、これが問われているのに、ここに来ると途端に思考停止である。もちろん、反省なしである。防衛庁長官は現段階でも米国の開戦は疑問であると意思表示をしている。これは明らかな閣内不一致である。
その一方で政府は12/8、イラクで活動する航空自衛隊の派遣期間について、12/14までとなっている基本計画を変更し、来年7月31日まで延長することを閣議決定している。この空自の派兵延長は、米国を含め各国がイラク政策の転換を図る中で、本来あってしかるべき日本政府としての見直しや再検討もまったく論じられずに、いとも安易に自動延長として決定されたものである。ところがこれについても久間防衛庁長官は、自身の認識不足の不用意な発言との関連で、「(自衛隊はイラクに)戦争を支持するために、米軍を支援するために行っているのではないと強調したかった」と述べている。これも閣内不一致と言えよう。
しかし空自派兵の実態は、イラク南部のサマワ、タリルから首都バグダッドや北部アルビルまで輸送範囲を拡大し、その大半が武装米兵の人員と軍需物資で、「米軍の定期便」とまで言われ、米軍のイラクでの軍事作戦を支援している。
これはイラク派兵の大義が消えてしまった現在においてもなお、対米追随路線の基調を変えず、反省どころか、見直しさえしようとしない安倍政権の、世界の趨勢からすれば実に奇異な政治姿勢を示すものと言えよう。しかし安倍晋三という政治家の内閣にとっては、これまで小泉内閣によって敷かれてきたレール、憲法・教育基本法の改悪、防衛庁の防衛省への昇格、共謀罪の新設のためには、さらにはミサイル防衛から先制攻撃・核武装論の容認にまで突き進むためには、ブッシュの対テロ強硬路線が不可欠であり、ブッシュにこれを簡単に転換してもらっては困るのである。
しかしブッシュ政権は、ラムズフェルド国防長官の解任に踏み切り、そしてネオコン強硬路線の代表的人物であり、国連不要論まで唱えたボルトン国連大使の退場にまで追い込まれた。ブッシュ強硬路線は挫折し、対イラク、対イラン、対北朝鮮政策も、その強硬政策の転換が必至とならざるをえない。
<<支持率の急落>>
これは明らかに、日本の内政・外交に転換を迫るものといえよう。
まずは、イラクからの自衛隊撤退を明示すべきである。すでに英軍に次ぐ規模のイタリア軍は「間違った戦争」(首相)であったとして完全撤退し、韓国軍も撤退に動き始めている。ブレア英首相も退陣を表明し、転換を余儀なくされている。そして先制攻撃やミサイル防衛網の整備、核武装論の容認など、挑発的な緊張激化外交・重武装外交を停止し、平和外交・対話外交に全てを大転換すべきである。内外の動向は、こうした転換できないのであれば、総辞職すべき段階に来ていることを示している。
しかし、それにもかかわらず安倍内閣の右旋回・改憲路線では転換が図れない、思考停止状態を続けざるをえない、世界的に孤立しかねない、その矛盾の発現が、久間長官の発言であったと言えよう。
安倍内閣はむしろ、ブッシュ路線の転換がさらに顕在化しない今の内に、憲法改悪に至るあらゆる反動諸立法を強引に強行採決し、その右旋回・改憲路線を軌道に乗せようとしている。その意味ではきわめて特異で、小泉内閣以上にアブノーマル、危険な内閣であると言えよう。
だがその安倍内閣も、急速な支持率の低下に直面しだした。十一月下旬のマスコミ調査から軒なみ下落し、「支持する」が増えた調査は一つもない状態である。「安倍首相と蜜月関係」と評される産経・FNN調査(11/30、12/1実施)「政治に関する世論調査」でさえも、「支持」が内閣発足時の前回に比べ16・2ポイント下落の47・7%と50%を割りこんでいる。共同通信社が12/5-6両日に実施した全国緊急電話世論調査でも、安倍内閣の支持率は48・6%となり、前回調査(11月25、26両日)から7・9ポイント急落。9月の内閣発足直後の支持率は65・0%だったが、ここでも初めて50%を割り込んだ。
検索サイト「ヤフー」の「みんなの政治」で実施している安倍内閣の支持アンケートでは、11/28、「支持しない」に投票した割合が約87%になった。26日から始まったアンケートで、28日午後7時55分すぎの投票総数は1万2781票。「支持しない」が1万1089票(86・7%)と大多数を占め、「支持する」はわずかに1415票(11%)であった。
今こそ野党が世論を結集して安倍内閣を包囲・孤立させ、内外政策の大転換のイニシァティブをとるべきであろう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.349 2006年12月16日