【投稿】福島原発事故後8年・処理費用81兆円…日本は少しは現実に向き合えるのか

【投稿】福島原発事故後8年・処理費用81兆円…日本は少しは現実に向き合えるのか
福井 杉本達也

1 事故処理費用81兆円(日本経済研究センターの試算)
3月7日、日本経済研究センター(岩田一政理事長)は「続・福島第1原発事故の国民負担」と題して、総額で81兆円になるという試算を発表した。親会社の日経新聞ばかりでなく、他の新聞でも取り上げられ、かなりの反響を呼んでいる。81兆円の内訳は、「廃炉・汚染水処理」で51兆円、「賠償」が10兆円、「除染」を20兆円で計算している。ここで、「汚染水処理」については、現在120万トン、今後発生分80万トンの計200万トンとして、「トリチウム水の処理費(2000 万円/㌧、総量の 200 万トン)を含む。」としている。これを希釈して海洋放出した場合には11兆円という試算も同時に出している。試算では原発の「石棺」化や「水棺」化などの永久管理費用35兆円を含むとしているが、少なくとも数百年管理するには極めて過小な数字である。また、汚染水の海洋放出などもっての外であるが、政府の22兆円(2016年12月)という数字よりは現実的である。

2 8年間、何事もなかったかのように思考停止中の原発推進派
3月11日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した東京工業大学の澤田哲生助教(原子核工学)は「日本の場合は再処理をし、使えるプルトニウムやウランを取り除いてリサイクル、そこで残ったゴミだけを捨てる」、「もんじゅのような高速増殖炉を使い、そこに閉じ込められないカスだけにする」、「青森県六ヶ所の再処理施設…が、あと数年以内には動く」、「冷静な判断力を持っていくことが必要…感情論に陥らない」と述べている。また、作家の乙武洋匡氏は「3.11から8年も経つのだから、そろそろ原発が是か否かという問いの立て方は止めよう」、「メリット・デメリットを勘案しながら…トータルで考える議論に行かなければいけない」などとし、ジャーナリストの佐々木俊尚氏も「テクノロジーは進化するもの」、「現状では10万年かかったとしても、100年後には10年でできるようになっているかもしれない」「0か100かという議論はすべきではない」と答えている。
物理学の法則にしたがう放射性物質の半減期が数万年から10年になることなど未来永劫ない。澤田助教はもんじゅが廃炉になったことを知らないとでもいうのであろうか。この8年、政府(経産省・環境省などを含め)を含め、原発事故への対応は思考停止の状態にある。

3 完全に行き詰った放射性汚染水の「海洋放出」
上記、日本経済研究センターでも51兆円かかると試算されている高濃度の放射性物質を含む汚染水を、東電はALPS(アルプス)という放射能除去装置でろ過し、トリチウム以外の放射性物質は、ほぼ除去できていると主張してきた。しかし、処理水のうち、84%が基準を超えるトリチウム以外の放射性物質が含まれていた。このうち6万5000トンは、法令の100倍を超える放射性物質が含まれていた。また、一部のタンクでは、特に有害なストロンチウム90などが、基準の2万倍に当たる1リットル当たり60万ベクレル検出されている。流入する地下水を遮蔽する目的で凍土壁を設置したものの、汚染水は毎日130トンずつ増えている。政府・東電は浄化と防水のすべてに失敗したのである。原発敷地内は汚染水タンクで一杯であり、保管する場所がなくなってきている。田中俊一前規制委員長は、早い段階から、『薄めて海に流せば問題ない』と発言していた。しかし、全漁連は「海洋放出には反対、地上に保管すべき」と反対姿勢を明確にした(福井:2018.12.28)。もちろん、このような高濃度汚染水を太平洋に放出しようとすれば、西太平洋を漁場とする、韓国や台湾、ロシア、中国はもちろん米国も反対するであろう。いくら付け焼刃とはいえボルト締めの汚染水タンクを設置したり、現実的な矢板工法ではなく、効果も定かでない凍土壁で遮蔽しようとするなど、現実を直視せず、夢想しかしないツケが回ってきている。

4 高放射能汚染地域への帰還政策ー南相馬市で死亡率が増加
南相馬市の人口は2010年までは7万人を超えていたものが、2011年の事故で一旦1万人にまで減少し、その後、6万5千人に回復したものの、2017年には5万5千人にまで減少してきている。しかし、死亡者は2010年:819人だったものが、人口が1.5万人も減った2017年には逆に837人に増加している(住民票ベース:市外への避難者を含む)。南相馬市の10万人当たり死亡率は、2014年までは福島県の死亡率とほぼ同じだが、2015年で急増している。2014年から福島県の帰還政策が始まり、避難者が一斉に帰り始めた結果、死亡率の増加がもたらされたと解釈される。いったん避難した人が高放射能汚染地域に帰還する。そうすると死亡率が増加する。南相馬の場合だけでなく、他の市町村でもいったん避難した後に帰還した者にも同じような危険が迫っているのではないかと、矢ケ崎克馬琉球大学名誉教授は危惧する(矢ケ崎克馬:「南相馬市の死亡率増加は「帰還」の危険性を物語るのか︖」2019.1.20)。

5 一般公衆に年間線量限度20mSvという非常識な被曝線量を強いている日本政府
現在、政府は一般公衆に対して、年間線量限度20mSvという非常識な被曝線量を強いているが、ICRPの一般公衆への人工放射線の年間線量限度の変遷では、1953年勧告:15mSv/年 、1956年勧告:5mSv/年、1985年勧告:1mSv/年(例外は認める)、1986年のチェルノブイリ原発事故を経験後の1990年勧告:1mSv/年(例外は認めない)と、健康被害の現実を踏まえて減少させている。日本の対応は異常である。政府はこうした高汚染地域に住民を帰還させようとしている。今年4月にも原発所在町である大熊町の一部の避難指示を解除するという。東京大学大学院教授の小佐古敏荘氏が、2011年4月30日、涙ながらに内閣官房参与を辞任したが、その辞任理由は「法と正義」の原則に則しておらず、「国際常識とヒューマニズム」にも反しているという抗議であった。政府の行為は多数の国民を危険な汚染地区に閉じ込め放射線被爆させようという壮大な人体実験場であり、基本的人権の無視である。

6 増える小児甲状腺がん:214人(あるいは更に多く273人にも)
2018年12月27日、第33回福島県「県民健康調査」検討委員会が開かれ、甲状腺検査3順目の結果が発表された。悪性または悪性の疑いが前回から3人増えたとし、避難区域等が設定された13市町村 は罹患率が0.064%(検査 34,558人21中人) 避難区域外の中通り 0.031%(検査152,697人45中人)で、13市町村は2倍の罹患率となった。当初、小児甲状腺がんは非常に稀な病気であり、人口100万人当たり2,3人と見積もられていたが、結果は1万人当たり7人と非常に高い罹患率となっている。しかし、委員会の見解は「事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断 して、放射線の影響とは考えにくいと評価する。」というものであり、あくまでも放射線の影響を認めない犯罪的な姿勢を貫いている(参照「めげ猫「タマ」の日記」2018.12.27)。
これとは別に2015年7月にスタートした「甲状腺サポート事業」で県の甲状腺検査を受け、2次検査で結節性病変などが見つかり、保険診療となった患者に対して医療費を支給する制度があるが、今年3月までに医療費を受給した患者233人のうち、手術後に甲状腺がんではなかった5人を除くすべてが甲状腺がん患者であることが福島県議会の答弁で判明した。検討委員会のデータと合算すると273人となり、これまで公表されていた人数を大幅に上回ることとなる(OurPlanetTV:2018,12,14)。小児甲状腺がんの主要な原因は ヨウ素131 による内部被曝であり、外部被曝の寄与は小さい。ヨウ素131は半減期が8日であり、事故直後、政府は事故を小さく見せようと調査を意識的に行わなかったため、ヨウ素131の被曝線量を確認できない。確認できないことを“奇貨”として甲状腺がんとの因果関係を否定しようとしているのである。犯罪国家そのものである。

7 溶融した核燃料(デブリ)を取り出しできるかのように情報操作する政府・東電
東電は2月13日、福島第一2号機の溶融した核燃料(デブリ)をつかみ持ち上げることに成功したと発表したが、東電の廃炉責任者の小野明氏は「デブリを全て取り出すことはかなり難しい」と日経のインタビューに正直に答えている(日経:2019.3.5)。作業員に膨大な被曝をさせて、極一部のデブリを取り出すことは可能かもしれないが、そのような行為は大量虐殺行為である。出来もしないことを工程計画とし,あたかも出来るかのような幻想を振りまいているに過ぎない。犯罪のアリバイ工作である。

8 露骨な世論操作-インターネット上のダウンロード規制法の頓挫
インターネット上の違法ダウンロード規制を強化する著作権法改正案が市民の猛反発を受け、今国会への提出見送りに追い込まれた。改正案は、音楽と映像に限っていた違法ダウンロードの対象を漫画や論文、写真などあらゆるコンテンツに拡大。個人ブログ、SNSからのダウンロードや画像保存なども規制対象とし、悪質なケースは刑事罰を課すことが柱となっていた。これまで原発関係においても、過去の専門家や政治家の論文や発言・マスコミの写真などが繰り返しネット上で取り上げられ、真偽が確認されていた。福島第一原発事故の3号機の核爆発の写真や御用学者の山下俊一福島県立医科大学副学長の発言、安倍首相の「アンダーコントロール」発言の録画などもその一例である。こうした行為を違法だとして全てを規制されると、まともな議論は封殺されてしまう。完全なる秘密国家・犯罪国家の完成となる。事故後8年、被害が大きすぎて隠そうにも隠し切れない世界最悪の原発事故を必死で隠し通そうとする政府を野放しにするのか、国民の真価が国際的にも問われている。「都合悪きことのなければ詳細に報じられゆく隣国の事故」(歌人:俵万智「海と船」)。

【出典】 アサート No.496 2019年3月

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 パーマリンク

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