【翻訳】「アメリカは、修復を飛び越えて、壊されるかもしれない。」

Japan Times May 31, 2022
“America may be broken beyond repair”  
  Michelle Goldberg, the New York Times opinion columnist

「アメリカは、修復を飛び越えて、壊されるかもしれない。」

昨年リリースされた広告の中で、Arizona州の上院の共和党予備選挙の有力候補者である Mr. Blake Masters は、半自動の武器を、不吉な音楽が流れる中で、ゆらゆら揺らせて「これは短銃身のライフル(short-barreled rife) である。これは狩猟用ではない。人を殺すために設計されている。」と述べた。Mr. Masters にとっては、そのことは、銃が激増することを許すことに反対する議論ではなくて、むしろ、これら武器へのアクセスが何故に権利として重要であるかという認識である。さらに、「The Second Amendment は鴨の狩猟に関するものではない。」とも述べている。さらに、「それは、あなたの家族とあなたの国に関するものである。Mr. Joe Biden が Taliban に Afghanistan を渡した時、Taliban が最初にしたことは何でしょうか? Taliban は国民が保有している銃を取り上げた。」 銃は、この世界の見識では、行き過ぎた、やりすぎる政府 (“ Government overreach”) に対する保証者(物)である。そして、やりすぎる政府は、諸施策の中で銃の規制を試みる。

最近では、共和党員が個人の武器をあえて抑制しようとする人々に対して脅威に聞こえる何かを出版しても、ほとんど注目されない。 Florida州の代表である Mr. Randy Fine は、水曜日(May 25 か—訳者)にツイートしている。「私は、我々の大統領であると主張している、迷惑な人のニュースを持っている。我々の持っている銃を取り上げようとすればあなたは学ぶであろう。何故に the Second Amendment が最初の時点で草起されたのかということを。」

少なくとも国家レベルにおいては、民主党員が暴動/反乱 (“insurrection”) の可能性を保持している、ある政党 (“a party”) [ 共和党のことか—訳者] の協力に頼っている限りは、銃についてのいかなる試みも不可能であろう。Texas州における児童の大量殺戮* は、この動きをほとんど変えてはいない。
* 訳者注:5/24 Texas, Uvalde, Robb primary school で起こった殺人事件。
           児童 19人、教師2 人が死亡、負傷者 17人を出している。

共和党員は、民主党員達が銃所持の背後の事情のチェックのような、もっとも緩い法案を通させることには何の反対意図も持っていない。そして民主党上院議員の Mr. Joe Manchin & Mr. Kyrsten Sinema が議事妨害法案の修正を拒否する限りは、共和党員は、国の政策への拒否権を保持している。増加していてしばしば起こっている大量銃撃の犠牲者たちは、恐ろしい内戦における被害に相並んでいる。最も民主党員の中には、それを認めることに応じない人もいるが、一人で戦わせておけばいい。

2016年の選挙の期間、上品ぶったTrump の言葉が繰り返された。その時、彼は言った。”Second Amendment people” (「修正第二条を信奉する人々」と訳すべきか。— 訳者)は、a President, Hillary Clinton が最高裁判所の判事を任命することを防止することが出来るかもしれない、と。 かっては、何かと隠された暴力のほのめかしであったものが、意味を変えて来ている。とりわけ、1月6日*以降、さらなる単刀直入の脅威として。
Pro Publica** が報じているように、The Oath Keepers militia ***の 10 数名のメンバーが首都の攻撃に関連して逮捕された。しかし、このことは、この組織が、「共和党内での一つの勢力に進化してゆくのを」阻止していない。
訳者注:* 1月6日 : 昨年、2021. Jan 6.
    前年の大統領選挙で不正があったと訴えて、Trump支持の人々    
    は大挙、国会議事堂に押し寄せ乱入した。10人近くの死者を出している。
刑事事件として未だ調査、告訴中。
    ** Pro Publica : 2007 年設立の米国の報道機関で非営利、独立系                       
             で公益を目的とした調査報道を行う。
    *** The Oath Keepers militia : 2009年米国 Nevada で設立された
            American far – right, anti – government militia.
            米国憲法を守ると主張。

Northern California の保守的な地方の Shasta County において、militia と提携した勢力が、行政政務官の委員会で多数を占めた。これは、運動のメンバーが、全国的に展開できる青写真と見なしているもののようである。 The New York Times は報じている。即ち、全国いたるところに「彼 — meaning Trump— を権力から追い払った人々に対抗して、正当と認められるものとしての力の行使について、right-wingな共和党員達は話し合っている」、と。 このような同じ考えの共和党員が、公共の安全保障について、民主党議員と共同作業するのを期待することは、愚の骨頂である。

恐ろしい予期に反する結末、ぞっとするような恐怖のラチェット、これらは、アメリカが無分別な暴力に包囲されればされるほど、American-right の準軍事的勢力が強化される、という現実である。 銃の売買は、大量銃撃 (“mass shooting”) の後に、増加する傾向にある。
共和党員達は、Texas, Uvalde における大量殺戮に対して、教師を武装させ、学校を強化せよ、との要望を倍増させることで、答えていた。 連邦主義者 (“The Federalist”) の、ある論文では、以下のことが議論されていた。 即ち、両親は home-school * をしなければならない。 そうすれば子供たちは、 制御された環境 — そこでは銃は自身の防御の為に安全に保持されるし、不使用の時はロックされる — 」で学習することが出来る。 もしあなたがそう呼ぶなら、それは社会の未来図である。 そこでは、各々の家族は、一つの要塞 (“fortress”) である。
         訳者注:* home-school
              学校に通学せずに、家庭に拠点を置いて学習すること。

銃は米国の子供達の死亡の主要な原因となっている。多くの保守的な人々は、このことは自由の表現に支払う対価であるとみなしている。我々の慣行/制度では、選挙に勝つか否かで、これら保守的な人々に、不釣り合いな権限を与えている。 議事妨害は、上院をほとんど無力にしている。Mr. Trump — 彼は国民の選挙で負けた — は、隠し持った武器を保持することを制限する New York 州の法規を、覆すこともできる最高裁の判事の任命ができた。小さな民主的改革への道程を見ることは増々むつかしくなっている。

進歩的な人々 (“liberals”) の間では、絶望的な感情が大部分を占めている。たとえ、人々がこれら殺されたすべての子供たちの名前を記憶するとしても、最も一般的心情は、「再びあってはならない。」(“never again”)ということではない。 何事も変わっていくことはない、というつらい自認 ( bitter acknowledgement) である。 アメリカはあまりにも病的になっていて、壊されている。それは、おそらく修復を飛び越えている。

二年前、反トランプの保守的な Mr. David French は、合衆国の崩壊の可能性に警鐘を鳴らして、”Divided We Fall” (分割された我々は落ちてゆく)とのタイトルの本を出版した。
この本は、この国の溶解がいかにして起こるか、というシナリオをイメージした二つの章を含んでいる。一つは、California のある学校での mass shooting についてで、この事件について州の人々は、「白熱の怒りで」(“with white-hot rages”) 反発した。Mr. French は、the Second Amendment に抗して、連邦法適応拒否の危機や、民主党支持者の多い州の連邦離脱に至る怒り狂った州の政治家を思い描いていた。
彼はそのことを、警告を促す物語として描いたが、しかし、Texas, Uvaldeの小学校での
銃乱射事件の後、この章を再び読み返してみて、この現実に比べて、怖い光景には感じない。
Mr. French のシナリオにおいては、残虐行為は、人々を動けなくするよりは、むしろ人々を活気付ける効果を出している。彼らは戦う決意をしていて、打ち負かすことを放棄していない。彼らは大胆さと希望を持っている。

現実の悪夢は、無政府主義者のテロの繰り返しがアメリカ政治にもたらす屈折点ではない。それは起こらない。 悪夢は、我々が簡単に躓き、事態が段々と悪化してゆくことに無力であることである。

                  ( 訳: 芋森 )   [ 完 ]

カテゴリー: 翻訳 パーマリンク