【投稿】統一教会を巡る問題と隠された狙い
福井 杉本達也
1 突然に問題とされ始めた「自民党と統一教会の関係」への違和感
安倍晋三元首相を銃撃したとされる山上徹也容疑者が犯行の動機として安倍氏と統一教会との関係を口にしたという奈良県警のリークから、突然のようにして自民党と統一教会の関係が問題視され始めた。しかし、ここには「なぜ今」という違和感がある。周知のように、人気アイドル歌手だった桜田淳子が韓国で統一教会の合同結婚式を行ったことがマスコミで大きく取り上げられたのは1992年であり、霊感商法が摘発されたのは2009年である。途中、オウム真理教事件があったとはいえ、この間、統一教会に関してマスコミは何も取材しなかったのか。何も問題はなかったのか。
片岡亮氏は「2006年、ある情報番組の出演で、一般ニュースにコメントする仕事の際、制作サイドから『これらを口にするときは内容に気をつけてほしい』と渡されたリストがあった。そこには広告代理店の電通、創価学会、朝鮮総連、ディズニー、ジャニーズ、食品環境ホルモン、コンビニ弁当など、多数のワードが並び、そこに統一教会もあった。」「2012年、第2次安倍政権になると、さらに統一教会がらみの記事は激減。2014年に週刊新潮が山谷えり子国家公安委員長と統一教会の関係を記事にした程度になっていた」と書いている(「現代ビジネス」2022.8.2)。
2 奈良県警のリークから始まった
奈良県警は安倍元首相銃撃事件の当初からリークによって世論形成を図ろうと試みており、朝日新聞は「宗教団体に恨み、容疑者『安倍氏とのつながり』」という見出しで、「県瞥によると、山上容疑者は『特定の団体に恨みがあり、安倍民とつながりがあると思い込んで犯行に及んだ』という趣旨の供述をしている。」(朝日:2022.7.9)と、事件当日から積極的に「統一教会」を全面に出している。本来ならば、警備の不手際での県警本部長の謝罪会見がすぐに行われるべきところである。奈良県警から情報を得たマスコミは、その日から教会信者といわれる山上容疑者の母親の出身大学である大阪のS大学の同級生宅を執拗に取材している。全く異様な展開と言わざるを得ない。そこには、奈良県警(当然、上部組織としての警察庁)の当初から(事件前から)の筋書きによって、「統一教会」を銃撃事件の煙幕に使うという意図が感じられる。
3 ほとんど報道されない銃撃事件
9月27日の安倍元首相の国葬のベタ報道においては、一部関連で、山上容疑者の「銃撃事件」が報道され、怪しげな“手製銃”のアップ画面も出されたが、それ以外ではほとんど報道されることはなくなった。8月25日に中村格警察庁長官と鬼塚友章奈良県警本部長の警備の不備による引責辞任会見報道があった程度である。検察は、「鑑定留置で、事件当時の精神状態の調査が続いている。…鑑定結果を踏まえて、刑事責任能力の有無を見極め」起訴するかどうか判断する(日経:2022.9.8)と、犯行に使われた弾丸が見つからないといった事件の矛盾点を追究されては困るという姿勢がありありで、精神鑑定期限の11月29日までは今後も事件を掘り下げる報道はほとんどないと思われる。
4 統一教会とは
統一教会は米CIAとKCIAによって作られた宗教団体を装った政治団体である。統一教会は1954年に韓国で文鮮明が創設、日本では59年から伝道が開始された。1964年・宗教法人の認可を獲得、68年には「国際勝共連合」を設立している。右翼の大物・笹川良一(旧船舶振興会=現日本財団)は1970年、政治団体「国際勝共連合」のイベントに参加したアメリカ統一教会幹部に胸を叩きながら「私は文(鮮明)氏の犬だ」と語った。1974年5月、文鮮明が東京・帝国ホテルで開いた「希望の日晩餐会」は、岸信介元首相が名誉実行委員長を務め、約2000人が集り、自民党国会議員40人が出席した。岸派閥の後継者で当時の福田赳夫蔵相は「アジアに偉大なる指導者現る。その名は文鮮明である。」とスピーチ、文と抱擁を交わした。福田は1976年に首相となり、その福田の派閥後継者が安倍晋三元首相の父親である安倍晋太郎である。「霊感商法」や高額献金が社会問題化したのは、1980年代後半である。霊感商法対策連絡会に寄せられた被害相談は計3万4537件、被害額は約1237億円にのぼるという。2009年には警察が大規模な摘発を行っている(日経:2022.9.2)。フリーライターの青葉やまと氏の記事によると、ニューヨークタイムズ紙は「1976年から2010年のあいだに日本の旧統一教会は、アメリカに36億ドル(4700億円)以上を送金しているという」(PREZIDENT Online 2022.8.1)。これが、「ワシントン・タイムズ」などのマスコミ対策資金や米国の政治工作・また日本にリターンされて、日本政界の工作に利用されていると思われる。
したがって、今回の安倍元首相暗殺を契機に突如浮上した統一教会を巡る問題は、米CIAの絡んだ事件であり、今日の米国の分裂した政治情勢が反映している。小沢一郎氏は「元々思想や理念が無いから、反日的な外国カルト団体とも平気で結びつく。自民党という利権を打破できなければ、日本は茹で蛙になって滅び行く」とツイートしたが(2022.9.27)、結びついているのは米CIA傘下の「外国カルト団体」である。日本は、戦後77年、このような属国状態を打破できていない。
5 米「台湾政策法案」と極東のウクライナ化
米上院外交要員会は9月14日、「台湾の防衛力強化を支援する『台湾政策法案』を超党派の賛成多数で可決した。これまで売却していた武器を『譲渡』でも供与できるようにする。盛り込まれた支援額は軍事演習を含め5年間で65億ドル(約9300億円)規模。」という。台湾政策法案は台湾を『主要な非北大西洋条約機構(NATO)同盟国』に指定する。台湾を『国』と同等に扱う」ものであり、イスラエルに適用している武器譲渡資金供給(FMF)を利用して無償の武器譲渡も可能となる(日経:2022.9.16)。9月29日付けの日経は「ウクライナはNATOなどの装備品や弾薬を活用し7カ月を超える長期戦が可能になった。自国備品などの保有だけでなく、米国や準同盟国との共通基準」を作ることが大事だと書いているが、米軍は正面に出ず、武器・弾薬を無制限に供給することで、台湾軍が中国軍と戦うという極東のウクライナ化を目指している。その場合、武器・弾薬・傭兵の兵站基地としての日本の役割は必須であり、何としても日本を極東のウクライナ化に巻き込まねば、シナリオは成立しない。ウクライナ問題に火をつけたネオコンのヌーランド米国務次官は7月25日に来日し山田外務審議官らと会談している。その後、韓国を訪問している。こうした極東のウクライナ化に韓国は拒否反応を示している。ペロシ米下院議長が訪台後に韓国を訪問したが、尹韓国大統領は「休暇中のため」と称して、ペロシ氏と会わなかった。韓国民主党の議員は「ペロシに会うのは米中対立という火の中に蓑を着て飛び込むようなものだ」と語っている(孫崎享:2022.7.6)。いま、その「蓑」を着つつあるのは日本である。統一教会を巡る問題は日本国内だけの問題ではなく、「外国勢力」である米国の政治的分裂の反映であると同時に、台湾関与への煙幕でもあり、また、9月27日の安倍国葬も9月29日の日中国交正常化50年の根本的な意義を薄める煙幕でもある。