【投稿】ノルドストリーム破壊と欧州の分割支配--経済危機論(93)

<<「ありがとう、アメリカ」>>
9/26、月曜日、ロシアの天然ガスをバルト海を通じてドイツ・欧州に供給するノルドストリーム1および ノルドストリーム2、この二本の海底パイプラインが何者か、あるいはいずれかの軍事組織、軍事作戦によって、同じ日に同時に発生、デンマークの海域で爆破された。爆発は巨大で、「前例のない」損傷が発生、数百億ドル規模の基幹的なインフラストラクチャーが「意図的な行動」(デンマーク・フレデリクセン首相)によって破壊されたのである。その規模からして、軍事作戦であったことが明らかである。

この破壊工作が行われた当時、どちらのパイプラインもヨーロッパにガスを供給してはいなかったが、送出圧力を保持した状態であったがために、爆発によるガス漏れは、爆風から、直径 1 km にわたるガスが海上に噴出し、過去最大規模のメタンガスの放出と、それによる大規模で深刻な環境汚染の進行が憂慮されている(9/29 ワシントンポスト)。

ガス漏れは、デンマーク当局によると、ノルドストリー

ム2が10/1に、ノルドストリーム1は10/2になってようやくおさまったという

この破壊工作にいち早く反応したのが、元ポーランド外相で現・欧州議会議員であるシコルスキー氏で、「ありがとう、アメリカ」”Thank you, USA “とキャプションをつけて、海底からガスが上がっている海面の写真を載せ、アメリカへの感謝を表明したツイートを投稿している(現在は、削除されている)。いち早く、最も露骨にアメリカの関与を明らかにしたものであった。シコルスキー氏は、9/28、「ノルドストリームが麻痺したことを嬉しく思います。ポーランドにとってはいいことだ。」ともツイートしている

慌てた米欧側、その大手メディアは一斉に、ロシアがパイプラインを爆破したと非難したのであるが、そのような論調は今や急速に崩壊、ニューヨーク・タイムズでさえ、 ロシア爆破説を出せなくなってしまっている。

アメリカのジャーナリストであるMax Blumenthalは、この破壊行為を「何百万人ものヨーロッパ人を凍てつく冬に運命づける、アメリカの国家テロ行為」と断言している。

しかも、この「意図的な行動」が発生した同じ海域、同じ場所、デンマークの東海岸沖の島、ボーンホルムの海岸近くで、バルト海作戦(BALTOPS 22)と名付けられた米・英・NATO諸国の軍事演習が開催されていたという事実が明らかとなっている。この軍事演習には、水陸両用作戦能力、砲術、対潜水艦、防空、地雷除去作戦、爆発物処理、無人水中車両の演習が含まれていたのである。スウェーデン軍と常駐 NATO 海上グループの演習が終了したのは、ノルドストリーム爆破が実行されたほんの少し前の9/4であったと発表されている(米海軍News September 2022)。

<<「途方もない機会」>>
そもそもロシアにはノルドストリームパイプラインを破壊する動機も利益もなく、ドイツ、フランス、オランダの株主とともにパイプラインの半分を所有しており、パイプラインは、ウクライナでのNATOとの停戦が成立した場合、ヨーロッパとの経済関係を再構築するというモスクワの計画の中心に位置していることから、自社のパイプラインを爆破する理由は存在しないのである。

「途方もない機会」

9/30、ブリンケン米国務長官は、カナダのトップ外交官との共同記者会見で、ノルドストリームパイプラインの損傷と混乱に触れて、「これはまたとてつもない機会でもあります。これは、ロシアのエネルギーへの依存を完全に取り除き、ウラジーミル・プーチンから彼の帝国の計画を前進させる手段としてのエネルギーの兵器化を奪う絶好の機会です。これは非常に重要なことであり、今後数年間にとてつもなく大きな戦略的機会を提供します」と。興奮を抑えきれないのか、「途方もない機会」、「ヨーロッパのエネルギー危機」という言葉を3回以上も繰り返し、強調したのであった。
ブリンケン氏は、米国が今や「ヨーロッパへの LNG [液化天然ガス] の主要な供給者」になっていることを強調し、バイデン政権はヨーロッパの指導者が「需要を減らし」、「開発を加速できるようにするのに役立っている」とも強調したのであった。
これは露骨な米政権の本音の吐露と言えよう。すでに3週間前、ロシアのプーチン大統領はサマルカンドでの記者会見で、ドイツがロシアへの経済制裁を解除すれば、ロシアはドイツへの天然ガス供給を再開する用意があると述べたばかりであった。プーチン氏は、「ガスプロムとロシアは、これまでにも、そしてこれからも、協定や契約に基づくすべての義務を、これまで一度も失敗することなく、履行していく」と表明している。
 9/28には、サウジアラビア政府が、ロシア・ウクライナ危機解決への支援を表明し、和平と引き換えにウクライナがロシアに領土を割譲するというサウジ主導の和平交渉を提案している。
こうした和平や和解に目を向けさせてはならない、ヨーロッパがロシアの天然ガスの代わりにアメリカの天然ガス輸入にもっと依存するように仕向けること、それこそが、最初からウクライナ戦争におけるアメリカの主要な目的であったことを明らかにしている。ロシア・中国を挑発し、軍事紛争の罠を仕掛け、エネルギー主導のロシアとドイツの和解の可能性を破壊し、ヨーロッパを分割支配する、進行する経済危機を冷戦・挑発路線で乗り切る、しかしそうはうまくはいかない事態への焦り、危機感こそが、今回のノルドストリーム破壊作戦となってしまったのだとも言えよう。
(生駒 敬)

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