<<「火を付けて、消火に当たる放火犯」>>
米連邦準備制度理事会(FRB)は、9/20-21に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の0.75%引き上げ決定を明らかにした。通常の3倍となる大幅な引き上げで、6月以来、3会合連続の利上げとなり、次回11月の会合でも、大幅利上げを継続し、2022年末までに、追加で計1.25%引き上げる計画である。その結果、政策金利は年3.00~3.25%と、08年以来の高水準となる見通しである。
FRBのパウエル議長は、これによって失業率上昇と経済成長鈍化という代償が伴うことを示唆しつつ、それでも「インフレ抑制に向け手を緩めることはない。物価の安定なくして、経済は誰のためにも機能しない。仕事を成し遂げたと確信するまで続けるだろう」と断言している。
この発表を受けた9/21の米株式市場は、利上げが織り込み済みだったにもかかわらず、不安定な取引に追い込まれ、終盤大きく下落、主要株価3指数はいずれも1.7%超下落、優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比522.45ドル安の3万0183.78ドルで終了、ハイテク株中心のナスダック総合指数は204.86ポイント安の1万1220.19で引け、米国債市場では、政策金利に敏感な2年債利回りが2007
年以来の高水準に上昇し、景気後退(リセッション)のシグナルとされる逆イールド(長短金利の逆転)が進行する事態となっている。
インフレなど、一時的なことだと軽視し、ゼロ金利政策で投機バブル経済を煽り、マネーゲームにどんどん資金を提供し続けてきたてきたパウエル議長らが、「自ら火を付けた後に自発的に消火に当たって英雄を気取る放火犯のようにも見える。」(9/22 BloombergNews センター・アセット・マネジメントのJ・アベート
氏のコメント)とこき下ろされる事態である。
ところが、こうしたパウエル路線を「もっと推し進めろ」と激励し、奨励しているのが、億万長者マイケル・ブルームバーグが設立した BloombergNews で、9/21の社説は、連邦準備制度理事会に対し、さらなる解雇と賃下げの必要性を「理解していることを示す」ように促し、ブルームバーグの編集委員会が公然と、米中央銀行に対し、高騰するインフレを抑制するために「不況を引き起こす」意思があることを示すよう奨励しているのである。「この社説が、経済の生命線であり、不況の代償を負うことになる労働者、家族、地域社会について全く触れていないことに、私がどれほどショックを受けたか、想像してみてほしい。」とグラウンドワーク共同体のキャンペーン・パートナーシップ担当マネージングディレクターのクレア・グズダーはTwitter投稿で指摘している。
<<24年ぶりの円売り・ドル買い介入>>
9/22、米金利引き上げ発表とすぐさま連動した円安の進行に慌てた政府・日銀は、ついにドル売り円買いの為替介入を実施し、「伝家の宝刀」を24年ぶりに抜かざるを得ない事態に追い込まれた。日本政府が最後に円売り介入を行った2011年11月以来である。円は、対ドル145.50から142.50まで変動したが、日米協調介入とはなりようもなく、根本的な政策転換がない限り、せいぜい、円安のペースを遅らせる程度であることは目に見えている。
問題は、こうしたパウエル路線、利上げと緊縮、不況推進路線は、世界的な景気後退と同時不況の同期化を推し進める結果をもたらそうとしていることである。
問題のインフレであるが、8月の米消費者物価は予想を吹き飛ばし、27ヶ月連続上昇となった。エネルギー指数は23.8%上昇と、7月期の32.9%上昇に比べ上昇幅が縮小したが、食品指数は11.4%上昇と、1979年5月期以来12ヶ月ぶりの大幅上昇となり、家庭用食品指数は13.5%上昇と1979年3月期以来12ヶ月ぶりの大幅上昇を記録している。さらに注目すべきは、食料やエネルギーなどの不安定な項目を除いたコアCPIが前月比0.6%上昇(予想の+0.3%の倍)と予想を大きく上回ったことである。家賃のインフレ率は6.74%と、1980年代前半までさかのぼらないと確認できないほどの高水準に達している。実質賃金は、17か月連続の低下を記録している。
問われているのは、こうしたエネルギー価格の上昇、食品コストの上昇、サプライチェーンの縮小に起因する価格変動に、利上げ政策は何の役にも立たないことである。独占的市場支配と価格操作を規制する反独占政策こそが問われているのである。サプライチェーンの混乱は、無謀な反ロシア・反中国の制裁政策や緊張激化政策こそが問われているのである。
(生駒 敬)