市大学生唯物論研究会 No11 75.3.3 (後に「原則」と改称)
「知識と労働」第10号を巡って、小野論文の問題点(市大唯物論研究会 No11)
【1】二つの路線 二つの立場
「知識と労働」10号をめぐって「混乱」が生じている。
しかし、もっと深く洞察する人には、生じているのは決して「混乱」などではなく、明確に区別された二つの思想的立場、二つの路線、二つの潮流の間の非和解的な対立と闘争であることがわかるだろう。すなわち、小野論文を先頭として、マルクス主義の諸原則への重大な修正、日和見主義、改良主義の「沼地」へ行こうとする人々と、マルクス主義の原則性、党派性の旗を守り、けわしい道をいかに苦しくとも、一歩一歩よじのぼって行こうとする人々との間の思想的決べつである。問題は、極めて原則的に提起されており、ここには中間の道は絶対にありえない。
諸君、公然と論争に参加しよう。
冒頭、小野論文は、明確に一つの政治的立場を表明した論文であり、一個の政治論文である。なぜなら、それは、当面の危機の評価と戦術と、一定のスローガンを提起し、それを大衆の行動と結びつけようとしているからである。以下、小野論文の基本的傾向を示すいくつかの問題点を提起し、討論のための材料とすることとする。
【2】危機の評価
小野論文の危機の評価について次の点が問題とされなければならない。
(1)危機緩和論
小野「われわれマルクス主義者は、右にみてきたような資本主義の全般的危機深化の諸現象を、ひとつひとつの総体的な過程として把えるものであるが、この危機の激化を待望したり、それをさらに激化させることに関心をもっているのではない。われわれは断じて危機待望論者ではない。」
ベルンシュタイン「我々はやがて期待されるべきブルジョア社会の崩壊に直面しているという見解、及び社会民主党はこのように直面している社会的大危機を期待することによって、その戦術を適応させ、また従属されなければならないという見解には、私は反対せざるをえない。」
レーニン「個々の政治的経済的危機という意味でも、また資本主義体制の完全な破滅という意味でも」「資本主義が崩壊に向かっている」。「革命家は、革命の到来以前にこれを予見し、その不可避性を意識し、その必然性を大衆におしえ、革命への道と革命のやり方を大衆に説明する」義務がある。
ソ連邦科学アカデミー 世界経済国際関係研究所テーゼ
「資本主義の全般的危機は、この社会体制の力によっては一時的にすら克服することは出来ない。この危機は社会主義革命によってしか解決されない」
(2)現在の日本の危機が、日本資本主義の内的矛盾、基本的矛盾から説明されず、もっぱら外的要因、石油不足とメジャーの石油価格引上げに求められていること。
小野「このように日本の経済にとって戦略的意義を持っていた原油の輸入が今後アタマウチ、ないしよくても微増状態におち入る(ママ)ならば、日本産業の成長が止まるとまでは言い切れないにしても、それが全体としてひどく純化することはまちがいない・・・・石油が必要なほど買えねば、景気回復も経済成長も全くオジャンである。」「石油帝国の最重要な物的基礎が失われようとしている。それとともに国際石油会社が第3世界の産油国を掠奪してきた”安い石油”の上に築かれてきた先進資本主義諸国の成長経済の基礎が崩れ、これらの国の経済状態には”暗い見通し”が避けられなくなった。
ベルンシュタイン「一般的恐慌なるものは・・・予想外の外部的出来事によって何時でも起こり得るものではあるが、もしそれによってひき起こされないものとすれば、このような恐慌が・・・発生するということを推論すべき確固たる根拠がない。
【3】改良と革命
改良と革命の関係についての小野論文の基本的傾向は次の点に集約される。
小野「われわれは、資本主義が最終的に清算されるまでは、一切の状態が改善されえないとするような考え方にはくみしない」「社会発展のたえがたい桎梏となっているこれらの諸関係を一つ一つ取除いていくこと、それは・・・世界的規模での帝国主義の後退がいよいよ明白になりつつあるとき、そのことは完全に可能になっている。・・・小さな改良、まだるっこい危機対策、上べだけの独占規制策であっても・・・・僅かばかりの譲歩であっても、もしそれが広範な大衆的圧力の介入の下にかちとられる場合には、反独占、民主勢力の介入の下にかちとられる場合には、反独占、民主勢力の結束の強化、その政治的力量の増大をもたらし、より重要で本質的な反独占改革実現への途をきりひらくことになる」
レーニン「社会主義者は、その革命的活動を、改良主義的活動にすりかえない」「改良はプロレタリアートの革命的階級闘争の副産物である、ということである。全資本主義世界にとって、この関係はプロレタリアートの革命的戦術の基礎であり、イロハである」「われわれが賛成する改良の綱領は、かならず日和見主義者にも鉾先をむけているような綱領でなければならない。」
【4】日共の評価
(1) 政策そのものについては批判しないこと。
小野「よいことづくめのスローガンをならべ立てた『民主連合政府』
(2)政策の実現のために、議会主義を労働組合主義で補足していないのが「最大の弱点」として日共を批判している。
小野「日本共産党は国民の増大する不満を背景に近年中央と地方の議会にかなりの勢力を占めるに至ったが、労働運動との結合が弱い点を最大の弱点としている。」
要するに、小野論文によれば、日共は、政策や政治路線が誤っているのではなく、その政策の実現の手段だけが誤っているわけである。
【5】平和共存と労働運動
(1)小野論文によれば、エネルギー輸入をはじめとする東西貿易が十分に進展していないのは、「経済的条件というよりは」すなわち日本帝国主義の階級的本姓というよりは、政治的外交的な事情であり、その面での日本支配層の”優柔不断”と”臆病さ”である」自国のブルジョアジーへの信頼。
(2)小野論文は、アジア集団安保の実現を単に尖閣列島をはじめとする大陸ダナでの「わが国が必要とするエネルギー開発し確保する途」としてしかとらえられていない。明らかに自国帝国主義の擁護の立場。
(3)国際平和運動の原則となっている平和運動と労働運動の結合の視点が、また平和共存の前進を国内の革命的階級闘争の前進のために利用する立場が欠落し、平和共存を、単なる外交政策の「転換」として、ブルジョアジーないし、その一分派に「勧告」するだけにとどめようとし、大衆的平和運動をその付属物にしている。
これらの諸点については、”特集にあたって”およびデモクラート参照。
【6】石油危機
小野 メジャー「性悪説」、石油・エネルギー危機が、全般的危機の現段階における、帝国主義間のエネルギー資源再分割競争であり、帝国主義間の世界市場再分割競争の一環であるという指摘がされていない。ここでも自国の帝国主義擁護の立場。
**********************************************
以上から、小野論文の基本的特徴を簡単に次のようにまとめることができる。小野教授は、プロレタリアートには「小さな改良」、「僅かばかりの譲歩」を、ブルジョアジーには、対ソ「戦略」の転換による日本の帝国主義的地位の強化を、危機のいっそうの激化、崩壊、革命的闘争のかわりに、約束している、と。
しかもこのような論文のスタイルはかなり以前から小野教授にとって「骨がらみ」のものとなっていると。
小野論文から以上の内容、マルクス主義の原則の修正、日和見主義、改良主義を読みとることのできない人は、それを欲しない者だけであろう。
以上の諸点は、我々がどうしても見逃すことができない、氏の論文の問題点である。最初に述べた様に、これらはマルクス主義の根本原則に関するものであり、日本の共産主義運動再建の途上で避けて通ることのできない問題であると考える。我々の問題提起がマルクス主義の擁護と発展を願うすべての民主的学友の間で真剣な討議に付されることを願ってやまない。(T・K)
※ このビラのあとに、2枚のビラが撒かれたことを確認している。
「原則」No12 1975.3.16
「市大は如何に『マルクス主義』を教授しているか。」
(小野義彦教授批判、吉村励教授批判)
「原則」No14 1975.4.16
「マルクス主義の理論と党派性を打ち固めよ!」