【投稿】英スナク政権の歴史的大敗--経済危機論(142)

<<労働党にとっては「空虚な勝利」>>
7/4に実施された英総選挙、リシ・スナク首相の英保守党は、過去最低記録であった97年の165議席をも下回る121議席に転落(解散前345議席)、保守党の議席数は史上最小となり、完全な歴史的大敗を喫している。得票率は約23%で、同党史上これまた最低である。国防大臣、教育大臣、下院議長、さらにはリズ・トラス元首相まで落選、スナク政権では合計8人の大臣が敗北し、保守党の重鎮たちは軒並み敗北、まさに「壊滅」した、とまで表現されている。スナク首相は敗北を認め、「英国国民は今夜、厳しい判決を下した。学ぶべきこと、反省すべきことは多く、敗北の責任は私にある」と述べている。

一方、対する労働党は、412議席(解散前206)獲得見込みで、倍増であり、表面上は、圧勝である。しかし実態は、保守党の「自壊」によるお寒い「圧勝」である。史上最低の投票率、15年近く続いた保守党政権に対する広範な不満ととりわけ保守党党首スナク氏の圧倒的不人気、そして小選挙区制に救われたお寒い勝利なのである。
第一に、労働党の得票率は、伸びておらず、35%未満にととどまる見込みである。2017年に保守党がブレグジット後初の選挙で再

選を果たしたとき、労働党は40%の得票率を獲得している。労働党の得票率は現党首・スターマー氏の下では、2017年のジェレミー・コービン氏や2005年のブレア氏よりも低い、のである。

擁護団体「We Deserve Better」は木曜日の選挙後の声明で、「これは労働党にとって空虚な勝利だ。労働党は、英国政治史上最も不人気な新政権として政権を握り、単独過半数政権としては最低の得票率となった」と述べた。労働党が勝利したのは保守党の崩壊によるもので、スターマー氏や彼の保守党寄りの政策への熱意によるものではない」と。

<<労働党党首スターマー氏の「正体」>>
スターマー氏は、労働党党首就任以来、「最も軽微な内部反対意見に対する容赦ない弾圧」を行ってきた人物として知られている。「彼は前任者を追放し、左派候補の国会議員選挙への立候補を阻止し、さまざまな社会主義団体を禁止し、政治家がピケラインに参加することを禁じ、党首選挙に反民主的な規則を導入した。また、息苦しいレベルのイデオロギー的一致を要求した」、「NATOを批判する議員は即座に追放され、イスラエルの行動に反対する議員は冷笑的に反ユダヤ主義と非難される。」「この粛清により、労働党は保守党の鏡像となった。大企業にへつらい、国内では緊縮財政、海外では軍国主義を主張する党だ」と同氏は付け加えた。スターマー氏は、抗議活動に前例のない制限を設け、活動家を監禁しやすくする治安維持法を維持するつもりだと述べている。同氏は、環境活動家を「軽蔑すべき」「哀れな」と評し、彼らに厳しい刑罰を科すと誓っている。記念碑を破壊した抗議活動家らに10年の懲役刑を科すという提案さえ支持している」(以上、7/3付けニューヨークタイムズ紙論説「英国次期首相の正体」より。)

 しかも、現党首スターマー氏は親イスラエル路線から、党内で捏造された反ユダヤ主義「危機」への対応をめぐって前党首コービン氏を労働党から追放したことで、多くの労働党支持者の怒りを買っており、なおかつ、昨年コービン氏は、労働党の統治機関から2024年の選挙で党候補として立候補することを禁じられ、1983年以来保持してきたイズリントン・ノース選挙区の議席を独立派の候補として立候補。この左派議員の座を奪うために雇われた英国の民間医療業界のベンチャーキャピタリスト、地元の労働党議員プラフル・ナルガンド氏に7,000票以上の差をつけて勝利を維持したのである。
コービン氏は勝利宣言を労働党へのメッセージとして使い、自身の勝利を「反対意見を抑圧すれば必ず結果が出るという新政権への警告」であると呼び、「平等、正義、平和の理念は永遠である」と述べている。「今夜、我々は祝う。明日、我々は団結する」とコービン氏は述べた。「我々が解き放ったエネルギーは無駄にならない。我々はあらゆる年齢、背景、信仰で構成された運動だ。全国の人々とともに、そして人々のために勝利できる運動だ」
そして実際に、別のの親ガザ派無所属、レスター南部のシ

ョカット・アダム氏は、労働党の影の労働年金大臣ジョン・アシュワース氏をセンセーショナルに破り、さらに、若い英国系パレスチナ人女性のリアン・モハマド氏は、イルフォード北部で影の保健大臣ウェス・ストリーティング氏をわずか500票差で勝利し、親パレスチナ派無所属の候補者も、ブラックバーンで労働党から勝利している。

このスターマー氏自身、自らのホルボーン・アンド・セント・パンクラス選挙区で2019年に勝利した得票数のわずか半分しか獲得できず、ガザ支持派の独立候補アンドリュー・ファインスタイン氏が7,300票以上を獲得して2位となり、極めて異例の得票減少を被っているのである。労働党が支持基盤の声に耳を傾けなければ、親パレスチナ派や反緊縮・反新自由主義系の無所属候補に票を奪われ続けることが明瞭なのである。

欧州における、新自由主義の戦争支持派政党、再軍備、財政緊縮、米国とNATOの政策を支持し、産業空洞化を支持する政治勢力は、政治的経済的危機をより一層激化させ、敗北せざるを得ないのである。「極右」とされる政党の最近の台頭は、米国/NATOによる対ロシアウクライナ支援、特にその支援がヨーロッパ経済に及ぼす影響に対する国民の広範な反対を反映しているのである。
(生駒 敬)

 

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