【投稿】トランプ関税のエスカレーション--経済危機論(158)

<<4月2日「解放の日」Liberation Day in America >>
トランプ米大統領は、4月2日は「これはアメリカにおける解放記念日の始まりだ」と自らのSNSトゥルース・ソーシャルに投稿した(3/27)。米国は長年にわたり「世界のほぼすべての国にだまされてきた」と強弁し、「米国で製造されていないすべての自動車に25%の関税を課す」と新たな自動車関税の導入を打ち出し、鉄鋼・アルミに続く既存の関税キャンペーンを大幅に引き上げ、自動車と1カ月後にさらに自動車部品にも発効する関税が、米国にとって「解放の日」だとし(Liberation Day in America is coming soon)、この大統領令によって、「より多くの生産拠点が米国に移転する」と主張している。

 この新たな自動車関税は、中国からのすべての製品に20%の関税、すべての鉄鋼とアルミニウムの輸入に25%の関税など、すでに1月から実施されているより広範な貿易攻勢に続くものであり、進行中の関税・貿易戦争におけるさらなるエスカレーションである。トランプ大統領は3/27、欧州連合とカナダが報復措置で協力しないよう警告し、もし報復措置を取れば「現在計画されているよりもはるかに大きな」関税引き上げまでも言及している。
しかし、カナダのカーニー首相は、米国の関税はカナダの自動車労働者に対する「直接攻撃」であり、トランプの関税は「我々を傷つけるだろう」として、「我々は労働者、企業、そして国を守る」と断言し、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、Xに直ちに失望の投稿をしている。年間4740億ドルの自動車製品を輸出している他の主要同盟国との関係をも悪化させることは確実である。

このエスカレーションによって、すでに米国への乗用車輸出に2.5%の関税、小型トラックに25%の関税が課されていることから、乗用車の関税率は27.5%、小型トラックの関税率は50%に引き上げることを明らかにした。この新たな関税導入により、米国で購入される自動車の平均価格は 3,000 ドルから 10,000 ドル上昇すると予測されている。

このニュースが伝わるや、米国の大手GMとフォードの株価は3/27のニューヨーク証券取引所でそれぞれ7%と4%下落し、主要な外国ブランドの株価は3/28早朝、欧州とアジアの市場でそれぞれ2~4%下落を記録している。メルセデス・ベンツは3%以上、BMWとフォルクスワーゲンは2%以上、ポルシェAGは4%以上、コンチネンタルは2%、ステランティスは4%以上、ボルボ・カーは8%以上急落、アストン・マーティンは5%近く、トヨタは2%、日産は1.7%、ホンダは2.5%、それぞれ下落している。

そして米自動車メーカーは、実際には、カナダとメキシコから輸入される自動車部品に課税されることによって、海外の競合企業よりもさらに大きな打撃を受けるのが実態なのである。ここ数週間で大手自動車メーカーの時価総額は1000億ドル以上も減少している。

<<「不況ルーレットをプレイ」するトランプ>>
問題は、自動車産業の株価下落だけではない。それどころか、景気後退と成長鈍化、インフレ高進懸念をより一層高めたことにより、連鎖的に大手ハイテク企業が軒並み売られ、アップル2.7%、マイクロソフトは3%、アマゾンは4.3%、それぞれ下落。
 この1週間で、S&P500は1.5%下落(年初来5.1%下落)、ダウは1.0%下落(2.3%下落)、銀行株は1.9%下落(5.1%下落)、証券・ディーラー株は2.3%下落(0.9%上昇)。運輸株はほとんど変わらず(8.2%下落)。S&P400中型株は1.0%下落(6.6%下落)、小型株ラッセル2000は1.6%下落(9.3%下落)。ナスダック100は2.4%下落(8.2%下落)。半導体株は6.0%下落(14.0%下落)。バイオテクノロジー株は2.0%下落(0.6%下落)、等々。対照的なのは、金価格で、63ドル急騰し、HUI金指数は2.0%上昇(年初来実に30.4%の上昇)。金は1オンスあたり3,080ドルを超えて過去最高値を更新している。

 かくして、インフレ予測は再び上昇しており、トランプ関税こそが火に油を注ぐことになっている。フォックスニュースでさえ、「あまりにも多くの商品の価格が急騰している」とインフレについて警告している。
連邦準備制度理事会(FRB)の主要インフレ指標は2月に予想以上に上昇し、2024年1月以来最大の月間上昇率となり、12か月のインフレ率は2.8%となっている。そしてGDP予測も半分に削減されるかマイナスになり、失業率は増加すると予想され、一部の大企業は売上減少を予測する事態である。
3/28現在、 2025年第1四半期の実質GDP成長率の予測は-2.8%に落ち込んでいる。アトランタ連邦準備銀行は、米国の国内総生産(GDP)が現在3%近く減少するとの予測を発表している。

3/24のウォール・ストリート・ジャーナルの論説は、「トランプはアメリカ経済で不況ルーレットをプレイしている」と大統領を激しく

非難し、「トランプの行動はアメリカ経済を破滅に追い込むように設計されているようだ。これはまさにトランプ不況だろう」と論断している。

第二次トランプ政権発足以来の関税エスカレーションが、結果的には米国経済に明らかな逆効果をもたらしていること、さらには、世界的な政治的経済的危機のダイナミクスをより一層危険な領域に追い込む可能性が高まっていることが指摘されよう。ここでも、戦争政策に対してと同様、緊張を緩和する政治的経済的な政策の大転換こそが要請されている。
(生駒 敬)

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