【投稿】原発企業「東芝」の破綻・それでも再稼働を擁護する司法

【投稿】原発企業「東芝」の破綻・それでも再稼働を擁護する司法
                            福井 杉本達也 

1 原発企業「東芝」の破綻
 1875年創業の巨大総合電機メーカーであり、かつては石坂泰三や土光敏夫といった経団連会長も輩出した「名門」東芝の破綻が目前に迫っている。東京府中市には原発など重電部門の東芝府中事業所(1968年発生した三億円事件の舞台)があるが、老舗の工場内は全面板張りで、加工部品が床に落ちても破損しないという贅沢な作りであった。東芝が巨額損失を抱えることとなったのは米国の原発子会社ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー(Westinghouse Electric Company LLC. 以下、旧WHと区別するため略称WEC))が発生させた損失が原因である。WECは3月29日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請をした。WECは、原子力関連の広範な製品の販売とその関連サービスを行う多国籍原子力関連企業である。核燃料、サービスとメンテナンス、制御と計測、原子炉の設計などを行っている。GEと並ぶ総合電機メーカーであった旧ウェスティングハウス・エレクトリック(旧WE)の一部で独立した原子力企業であったが、1997年に旧WEはCBSを購入し、自身がCBSコーポレーションとなり、以降はその商標を除いて多くの部門が売却され、1999年にはCBS本体も買収され消滅した。商業用原子力部門は1997年に英国核燃料会社(BNFL)に売却され、ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(WEC)として再度立ち上げられたものである(Wikipedia)。
 その後、東芝はBNFLから2006年にWECを約6,000億円で買収した。当時から「適正価格の2倍以上」「社運をかけた買収」と指摘されていた。東芝が3月29日に公表した2017年3月期決算見通しによると、最終(当期)損失が1兆100億円と見込まれている。結果、15年には東芝は1兆840億円の自己資本があったが、17年3月末はマイナス6,200億円になる見込みである。東芝は1年前の16年3月期決算で、WHCにからむ損失約2,500億円を処理しており、これを加えると、2年間で約1兆4,000億円の損失になる。買収から10年、2年間で1兆4,000億円もの損失を出し、東芝本体が破綻に追い込まれたことを考えると、だれが考えても「高値で買収した判断は大失敗だった」という結論になる(毎日経済プレミア:2017.4.9)。

2 旧WHもWECも軍需産業
 旧WHは「原子力艦船の動力炉製造企業」という軍需産業でもある。旧WH解体の過程で、防衛産業部門のウェスティングハウス・エレクトロニック・システムズは1996年にノースロップ・グラマンに30億ドルで売却されたといわれる(2011年ノースロップ・グラマンは造船部門を分離。艦船用原子炉については最新のGerald R. Ford級原子力空母に搭載されているA1B原子炉の開発メーカー・総合エンジニアリング会社のベクテル社に移ったのではないかともいわれる)。加圧水型原子炉は軍事用の原子炉を発電用の原子炉に転用したもので、設計は民生部門も軍事部門も基礎は同じである。1954年、原潜ノーチラスに搭載されたWH製の加圧水型原子炉による原子力推進はそれまでのディーゼル推進では水中行動の運用に大きな制約を受けていた潜水艦に革命的な変化をもたらした。また、1961年には世界初の原子力空母エンタープライズにもWH製の加圧水型原子炉を搭載した。つまり旧WH社の原子力技術は米国の軍事力の心臓部をなしている、米国の世界戦略のカギを握る軍需産業である。しかし、原子力艦船は建造にも維持・運用にも莫大なコストを要求されるため、予算も削減されてきた。そのため発注は不安定かつ不定期で、いまや本家旧WHは衰退・消滅し、WECは原子力に特化した特殊な経営となっている。民生部門がなければ軍事部門を単体で支えるのは困難である。しかし、米国は絶対にこの会社を手放さないし、その核心技術も絶対に譲渡はしない(参照:ブログ「鈴木頌の発言」2015.8.12)。東芝がWECを買収した際に軍事部門の独立性と機密保護について米国議会で問題になったが、米国政府は分社化しているので問題は生じないと「保障」した。つまり軍事部門については東芝の「支配権」は一切及ばない。親会社は子会社のやっていることを全くコントロール出来ない。(たんぽぽ舎:山崎久隆「破たんの一歩手前・東芝の損失はどこから生じたか」2017.3.28)。
 また、Sputnikによれば「WHは、世界最大の核燃料供給企業であり(その割合は世界市場の31%を占め)、また世界の様々な国々にある何十もの原子力発電所や関連施設の安全を保障する業務を請け負う世界最大の企業である。燃料供給あるいは原発の安全の脅威について言えば、事は社会的に極めて重要な問題であり、こうした企業の破産は、世界的影響を及ぼす主要問題の一つになる。それは当初から、破産を通じての原子力事業のある種の再編にある」(2017.4.12)と指摘している。もし、核燃料の供給が止まれば、現在、北朝鮮や中国あるいは大統領選真っ只中の韓国国民を恫喝するために西太平洋に展開中の米原潜・原子力空母で構成する“空母打撃群”は運用できない。燃料が燃え尽きる数年先にはただの洋上の鉄屑になってしまう。

3 東芝はどうなる
 もし東芝が1兆円の負債を抱えて倒産することになれば、WECはどうなるのだろうか。3月18日の日経新聞によれば、3月16日、本来の目的である日米経済協議の事前打ち合わせの為に訪米した世耕経産相と商務省のロス長官・エネルギー省のペリー長官との会談では、経済協議そっちのけで、米側の方から、親会社である「『東芝の財政的安定性は、米国にとって非常に重要だ』と言った。」「『東芝再建は民間の問題』(日本政府関係者)と冷淡に対応してきた日米両政府の姿勢はここに来て変化している。」「WHの野放図な売却を見過ごせば、核兵器の原料となるプルトニウムを扱う高度な技術が漏れ、ひいては安全保障戦略を揺るがしかねないとの懸念が米政府内にある。」(日経:「東芝再建日米巻き込む・技術流出・雇用に懸念」2017.3.18)と書き、もし東芝が救済されないままに、苦し紛れにWECを投げ売りし、それが例えば中国に流れでもしようものなら日本に政治的・経済的制裁を科すと脅されたということである。東芝は、WECの「全ての損失」を押し付けられ、東芝にとっても日本にとっても虎の子の半導体事業を分社化し、経営権を「丸ごと」海外企業に売却してWECの損失を埋めていくしかない。たぶんそれでも全く足りないので、政府が日本政策投資銀行などを使って“救済”していくシナリオしか描けないのではないか。

4 大津地裁の高浜3,4号再稼働差し止め決定を否定した大阪高裁
 3月28日、大阪高裁は2016年3月の高浜3、4号機再稼働を差し止めた勇気ある画期的な大津地裁の仮処分決定を取り消す決定を下した。高裁は 原発の新規制基準により「炉心の損傷等を防止する確実性は高度なものとなっている」とし、新規制基準を評価。「関電の地震動評価は詳細な評価に基づき保守的な条件設定の下でなされており、基準地震動は十分な大きさだ。地域的な特性も踏まえると本件原発が基準地震動に相当する大きさの地震動に襲われる可能性は非常に低く、連続して発生することはほぼあり得ない。連続して襲われたとしても、本件原発の安全性は確保されるといえる。」との決定をした。
 原発の耐震設計のための基準地震動では震源断層の面積から地震の規模を見積る北米の地震データに立脚した計算式が過小評価ではないかといわれている(福井:2016.6.19)。また、実際の地震動では新潟中越沖地震や岩手宮城内陸地震では1,690~2,000ガルの地震動が観測されており、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある。耐専スペクトルのバラツキをも考慮すれば、少なくとも2倍の偶然変動を考慮すべきだといわれている(長沢啓行:2015.11.30「クリフエッジ超え」)。これは原発の耐震の限界値(クリフエッジ)の倍の震動となる。いかなる原発構造物も破壊をまぬかれない。逆に言えば、倍の震動に堪えうる原発構造物を建設しようとすれば、建設費や既存原発の改修費が膨大なものとなり、電力会社や原発企業の破綻は免れないので、改修費から逆算したというのが正直なところである。
 WECはスリーマイル事故・原発テロ・福島事故などにも耐えうるような原発を米原子力規制委員会(NRC)などから求められ、非常時に自然循環で崩壊熱を除去できる「静的炉心冷却系」や原子炉一次系/二次系破断時に自然循環で格納容器を冷却する「静的格納容器冷却系」(Full Passive Safety System)などで、より安全な原発『AP1000TM』を目指したものの(東芝:「ウエスチングハウス社の活動の紹介」2014.5.16)、「机上の設計図は美しかったが、現場で実際に試してみると設計通りにできあがらない。確認作業や工事のやり直しが繰り返されて工期がずるずると伸び、想定以上にコストが膨れあがり」いつまでも完成しないため(小笠原啓「東芝粉飾の原点」『日経ビジネス』2017.3.13)経営破綻したのである。
 米NRCは少なくとも民生用の米原発の安全基準については利益重視ではなく「米国第一」の政策を取ろうとしている。一方、日本の原子力規制委員会には現在、地震動の専門家がおらず、十分な評価ができていない。しかし、政府は「新規制基準によって世界最高水準の安全性が確認された原発は順次再稼働」するとして再稼働を推し進め、また大阪高裁などの司法はそれを追認している。福島原発事故の経過を踏まえるならば、WEC設計のAP1000TMと比較しても、「静的炉心冷却系」もなくてどうして「炉心の損傷等を防止する確実性は高度なものとなっている」(大阪高裁)といえるのか。日本政府は「日本国民第一」ではなく、国民の安全を切り捨て、「米国第一」で米国の軍産複合体と原子力産業を守るために、山積する問題を残したまま、再稼働に突き進んでいる。

【出典】 アサート No.473 2017年4月22日

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