【投稿】核戦争を煽る危険な火遊び 統一戦線論(35)
<<米空軍トップ「戦闘態勢だ!」>>
4/15は北朝鮮にとって、金日成・生誕105年の「最大の祝日」であり、なおかつ「切迫する朝鮮半島情勢の鍵となる一日」と表現される、緊張の激化と戦争勃発の危険に満ち満ちた一日であった。平壌の金日成広場で大規模な軍事パレードが展開され、この日に合わせた6回目の核実験強行が警戒されていた。
4/13の米NBCテレビは、実験強行準備が探知されれば、米軍が通常兵器による「先制攻撃」を行う準備に入った、巡航ミサイル「トマホーク」を発射できる駆逐艦が近海に展開し、米領グアムの基地で重爆撃機も出撃態勢を整えている、と報じた。すでに米軍は、原子力空母カール・ビンソンを中心とする空母打撃群を朝鮮半島近くに向かわせたと公表しており、2つの上陸準備戦隊の上陸兵力4400人を集結させていた。4/14には、米空軍トップのゴールドフィン参謀総長が自らのツイッターで、沖縄の米空軍嘉手納基地の滑走路にF15戦闘機などが多数整列した写真を掲載して存在を誇示し、「戦闘態勢だ!」と強調する、興奮に満ちた異常で異例な事態があらわになった。
こうした米軍の動きに対して、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は「わが革命的に強力な軍は、敵部隊のあらゆる動きに目を光らせており、われわれの核の照準は韓国と太平洋区域の米国の侵略的基地だけでなく、米国本土にも向いている」と指摘し、米国による先制攻撃の兆候があれば米国に核攻撃すると警告した。中国の王毅外相は4/14、朝鮮半島情勢が取り返しのつかない事態に陥るのを防ぐ必要があるとの見解を示した。トランプ、キム・ジョンウン、両者の互いの冷静さを欠いた危険な挑発的姿勢からすれば、まさに一触即発の事態であった。
しかし4/15当日は、軍事パレードは行われたが、60社200人とも言われる外国メディアが招待され、金正恩朝鮮労働党委員長がわざわざ何度も公の場に姿を現し、崔竜海党副委員長が「米国が挑発を仕掛ければ」という前提条件を付け、「全面戦には全面戦で、核戦争には我々式の核打撃で対応する」と述べると同時に、「我々は平和を愛する」とも演説して、衝突回避と対話姿勢への一端を表明したと言えよう。固唾をのんで世界は注視をしたが、この日に関しては、危機は回避されたのである。
<<「アクション映画のスター気分」>>
しかし、熱核戦争にも発展しかねない危険な情勢は依然として収まる気配はない。最大の問題は、トランプ米大統領の情緒不安定な挑発的・好戦的姿勢である。4/14の韓国・ハンギョレ新聞は「トランプ外交の耐えがたい軽さ」と表現している。
アメリカの俳優のロバート・デ・ニーロがその姿を端的に指摘している。「僕にはトランプが俳優になりたくて挫折した男のように見えるんだ。そんな彼が今や、アクション映画のスター気分なんだ。タフな白人男がイスラム教徒やメキシコ人、中国人ら悪人たちを敵に回して勇敢に戦う--そんな彼の思いが現実になってしまったんだから、恐ろしいことだよ。」(「トランプは俳優のなり損ないさ」ロバート・デ・ニーロ、月刊『文芸春秋』2017年5月号、インタビュー)
問題は、トランプ個人にとどまらず、米軍幹部総体までもが、この際、冒険的先制攻撃の戦端を開くことに、次はいつか、今か今かと待ち構え、乗り出さんとしていることである。深刻な不安と恐怖を全世界に拡散させており、オバマ政権時代とは明らかに異なっている。
すでに米軍は、4/6、突如シリア中部ホムス近郊のシュアイラート空軍基地に対し「トマホーク」ミサイル59 発を発射している。トランプ大統領は、シリア空軍が4/4、シリア北西部、イドリブ県の反政府武装勢力を攻撃した際、「恐ろしい化学兵器で罪のない市民を攻撃した」と断定し、シリアの虐殺を止めるための措置だとした。しかしこの攻撃は米国の自衛行動ではなく、国連安全保障理事会の決議によるものでもない。ましてや国際的な調査を尽くさず、証拠も示さないままのあまりに乱暴で無責任な軍事行動である。宣戦を布告していない国への国際法違反の、明らかな「侵略行為」である。スウェーデンの「人権医師」(swedhr.org)は、シリア政府軍による攻撃の疑いで救助されたビデオを分析した結果、ビデオが偽造品であることを明らかにしている。シリア政府は、わずか数週間前に、化学兵器禁止機関に、兵器用の有毒化学物質が、シリア国内で、聖戦戦士ネットワークによって移動されていると通知したと主張している。さらにこの巡航ミサイルによる攻撃の前日に、マイク・ポンペオCIA長官は分析部門の評価に基づき、アサド大統領は致死性毒ガスの放出に責任はなさそうだとドナルド・トランプ大統領に説明していたという。そんな警告もお構いなしに、ネオコンやシリア反政府勢力と連携した謀略行為と偽情報に踊らされて突っ走ってしまうトランプ政権ならびに軍部は、最低限の冷静ささえ失っているのであろう。シリアに対するミサイルの集中攻撃後、ホワイト・ハウス報道官ショーン・スパイサーは“これはシリアのみならず、全世界に対して信号を送ったのだ”と開き直っている。トランプ政権は、世界に対してこれから何をしでかすのか予測しがたいならず者国家だという現実を見せつけているのである。
<<安倍政権の「駆けつけ参戦」>>
さらに米軍は、シリア攻撃から一週間後の4/13、実戦使用は初めてという、核兵器以外では最強の爆弾“すべての爆弾の母”(The Mother of All Bombs)と呼ばれる「大規模爆風爆弾(MOAB)」をアフガニスタンで投下した。重量2万1600ポンドのこの爆弾は、TNT換算で約11トンの威力に匹敵し、爆風による影響半径は1マイルに及ぶという。これは明らかに、単純な戦術目的ではなく、今後はこれをも実戦使用する「大量破壊兵器」の武力誇示を企図したものである。米テンプル大学メディア・コミュニケーション教授で、アフガニスタンから帰ったばかりの米国の軍事的・経済的戦争の終結を目指す運動を行う団体「Voices for Creative Nonviolence(創造的非暴力の声)」の共同コーディネーター、キャシー・ケリーは、現地の一般市民はこんな攻撃を行う母親がいるものか、母親への侮辱であると怒る様子を報告している(DemocracyNow 2017/4/14)。
ところが安倍首相は、米軍が突如シリアを空爆した翌4/7にはすぐさま、電話会談でトランプ支持を明確にした。「東アジアでも大量破壊兵器の脅威は深刻さを増している。その中で、国際秩序の維持と、同盟国と世界の平和と安全に対するトランプ大統領の強いコミットメントを日本は高く評価する。」として、「米国政府の決意を支持する」と表明した。トランプ政権の違法な侵略行為を何ら検証することなく、大量破壊兵器の使用を躊躇しない、“武力行使を排除しない”トランプ政権の「決意」の支持を明確にしたのである。今さら確認するまでもないが、安倍首相は、完全にトランプ大統領の言いなりなのである。単に言いなりなだけではなく、むしろ危機を煽る悪質なものである。4/13の参院外交防衛委員会では、北朝鮮のミサイル開発について、「(化学兵器の)サリンを弾頭につけて着弾させる能力をすでに保有している可能性がある」と指摘し、恐怖を煽り、「先制攻撃」の必要性を暗示する、対話による外交努力、話し合いなどすっ飛ばして武力制圧することに期待をかける、明らかな悪乗りである。そして実際に、4/11には「東シナ海、日本海に入ってくるカールビンソンの空母打撃群に、(海自の)護衛艦を数隻派遣する」ことが明らかになった。まさに積極的な駆けつけ参戦である。外務省は4/11から、「韓国への滞在・渡航を予定している方、すでに滞在中の方は最新の情報に注意してください」と警戒情報、海外安全情報を流しだしている。
そして、緊張を激化させ、領土紛争や民族主義的な対立をあおり、戦争挑発に民心を総動員する、それに反対する勢力を黙り込ませる、そのためにも安倍政権にとっては共謀罪の制定強行が必要不可欠なのである。すでに沖縄では、プレ「共謀罪」捜査が先取りされて、沖縄平和運動センターの山城博治議長らの異常ともいえる長期勾留や接見禁止措置が平然と行われ、米軍基地建設反対運動を、共謀罪にいう犯罪組織に見立てているともいえよう。
この危険極まりない事態に、日本の反戦・平和勢力、全野党は、事態の推移を傍観するのではなく、第二の朝鮮戦争、地球規模の熱核戦争に発展しかねない人類的危機に対して、早急に明確な反戦・平和の共同のアピールを発し、共同行動・統一戦線を大胆に拡大、強化することが求められている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.473 2017年4月22日