【投稿】「慰安婦」問題・日韓合意と共産党(続)
<<「厚顔極まる神経」>>
名護市辺野古への新基地建設をめぐり、安倍政権が工事の中止に追い込まれた、3/4に成立した代執行訴訟の和解条項。これには県側との「円満解決」に向けた協議をすることが盛り込まれていたのであるが、わずか3日後の3/7に、国は協議の段取りを一切踏まずに、埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事の処分に対し、石井啓一国土交通相は是正を指示した。
3/8付け琉球新報・社説は、「辺野古是正指示 独善と強権に対抗しよう」と題して、冒頭、「分かりやすく構図を描こう」、「仲介者に促され、もめ事は話し合いで解決することを目指すと約束してみせる。だが、舌の根も乾かぬうちに相手方に短刀を突き付け、あるいは足を踏み付けながら、こちらに従えと威圧する。それでいて、世間には笑顔を見せて善人ぶる。そんな厚顔極まる神経を持っているとしか思えない。時代劇に出てくる悪代官の話ではない。沖縄を組み敷こうとする現代の為政者だから始末に負えない。」と厳しく指弾している。
この構図は、「慰安婦」問題をめぐる日韓合意とそっくりそのままである。
仲介者(アメリカ)に促され、もめ事(「慰安婦」問題)は話し合いで解決することを目指すと約束してみせる(日韓合意)。だが、舌の根も乾かぬうちに相手方に短刀を突き付け、あるいは足を踏み付けながら、こちらに従えと威圧する(「最終的・不可逆的解決」「蒸し返すな」)。
同じ3/7、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)は日本への勧告を公表した。委員会を代表して記者会見したジャハン委員(バングラデシュ)は慰安婦問題の日韓合意に言及し、12月の日韓合意については「被害者中心の立場に立ったものではない」として、「我々の最終見解は(慰安婦問題を)まだ解決されていない問題だと見なしている」と発言。最終見解の慰安婦に関する記述は、2009年の前回審査で9行だったが、今回は1ページ強と大幅に増加。日本がこれまでの審査で出された勧告を依然として実行していないとして「遺憾の意」を表明、日韓合意に元慰安婦たちが関与し、その意向が反映されるべきだとの考えを示し、同時に「指導者や当局者が責任を軽くみる発言をし、被害者に再び心的な傷を負わせるような行為を控える」といった新たな勧告、学校の教科書で慰安婦問題を取り上げることも求めている。これに対し、岸田文雄外相がすぐさま「国際社会の受け止めとはかけ離れている」と述べるなど、反発を表明している。
<<「元慰安婦自身からも疑問が投げかけられたのは重大」>>
しかしさらに、3/10、「戦時性暴力」の問題で中心的な役割を果たしているゼイド・ラアド・フセイン国連人権高等弁務官がスイスのジュネーブで開かれた国連人権理事会の年次演説で、慰安婦被害者を「第2次世界大戦当時、日本軍の性奴隷生存女性」と規定し、慰安婦問題が日本政府の戦争犯罪であり、国の犯罪であることに注意を喚起し、「関連当局者がこの勇敢で尊厳のある女性たちに寄り添っていくのが極めて重要である」とし「最終的には彼女たちだけが、真の補償を受けたかどうかを判断できる」と強調。「最終的かつ不可逆的に解決する」とした日韓合意について、「国連の人権関係者はもとより、元慰安婦自身からも疑問が投げかけられたのは重大。結局、真の償いを受けたかどうかは彼女たちだけが決められる」と述べ、日韓両政府間の合意があったとしても、直接の苦しい経験をした慰安婦被害者が認めない限り、この問題は解決できないことをあらためて指摘したのである。
そして韓国国会外交統一委員会の羅卿ウォン(ナ・ギョンウォン)委員長は3/8、日本の議会に慰安婦合意の誠実な履行を強調する書簡を送り、その中で、国連女子差別撤廃委員会から慰安婦問題についての声明があったことに言及し、「日本政府は合意当時とは違い、軍と官憲による慰安婦の強制連行を否認するなど、慰安婦問題に対する責任から逃れようとする姿を見せている」として、「日本政府が慰安婦動員の強制性を否定していることに対して懸念と遺憾を表明する」と伝えている。
こうした国際社会の日韓合意に対する厳しい見解は、日韓合意を「前進」と評価する共産党のしんぶん赤旗も報道せざるを得ない。3/9同紙は、「民法の女性差別撤廃 再勧告 国連委 「慰安婦」問題で遺憾表明」と題する報道記事で、「日本軍「慰安婦」問題については、被害者への補償、加害者処罰、教育を含む「永続的な解決」など、同委員会をはじめ国際諸機関からの勧告が実施されていないと遺憾を表明。日韓合意も、「被害者中心の対応」が全面的には行われていないと指摘しています。被害者の権利を認識し、被害の回復と同時に、公人や政治家の「加害を否定する発言」の防止を求めました。」と報じている。しかし自らの党のこれに対する姿勢についてはまったく述べられてはいない。
<<「指摘を受け止め本気の改善を」>>
それからやっと3/20に至って、しんぶん赤旗は「女性差別是正勧告 指摘を受け止め本気の改善を」と題する「主張」を掲載。その中で「国連女性差別撤廃条約にもとづく日本政府の実施状況について、今年2月、国連女性差別撤廃委員会(ジュネーブで開催)で検討がおこなわれ、今月7日に、同委員会は、日本についての評価と勧告を盛り込んだ文書(「総括所見」)を発表しました。とりわけ今回の審議で日本政府は、日本軍「慰安婦」をめぐる問題で異常な姿を示しました。日本政府代表団(団長・杉山晋輔外務審議官)は、“強制連行はなかった”“性奴隷という表現は事実に反する”“条約批准以前の問題だ。報告は必要ない”などの主張を居丈高に展開しました。女性差別撤廃委員からの厳しい批判とともに、審議をジュネーブで傍聴した日本のNGOから、「安倍政権下での異常な事態」という声が出されたのは当然です。」と述べている。
しかしそこでは、国際社会から厳しく批判されている日韓合意の評価は完全に抜け落ちている。やはり、昨年12/29の共産党・志位委員長の談話(「問題解決に向けての前進と評価できる。」)がら抜け出られないのであろう。
前号で紹介した醍醐聰さんの「日本共産党が今回の日韓合意後も、正しい見地に立って「慰安婦問題」の解決に貢献する運動に取り組むには、合意を「前進」と評価した12月29日の志位談話を撤回することが不可欠である。あの談話の誤りに頬かむりしたまま、合意後に示された韓国の世論、元「慰安婦」の意思とつじつまを合わせようとするから、我田引水の強弁に陥るのである。」という指摘、そして「日本共産党への4つの質問」に対して共産党はいまだ何も応えていないのである。「指摘を受け止め本気の改善を」なすべきなのは、安倍政権ばかりか、結果として安倍政権をつけあがらせ、免罪している共産党にも問われているのである。やはり、遅きに失しても早急に路線を転換すべきであろう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.460 2016年3月26日