【投稿】維新が制した大阪ダブル選 統一戦線論(18)
<<最も喜んだ安倍政権>>
11/22投開票の大阪府知事・大阪市長のダブル選、どちらも橋下大阪市長が率いる大阪維新の会が制する結果となった。非常に残念な事態である。
この結果に最も喜んでいるのは、安倍首相であろう。安倍政権は官邸が中心となって、大阪の自民党推薦の候補ではなく、大阪維新の会の候補者を側面、あるいは全面支援していたのである。安倍首相は、安保法制審議の真っ只中にもかかわらず、9/4に大阪入りした際、大阪の公明党の議員や幹部とわざわざ会談し、「橋下大阪市長と和解してもらえませんか。橋下さんや松井一郎大阪府知事が国政進出する際にも、公明党の力添えが必要なのです。」(「週刊現代」9/26-10/3合併号)と要請、圧力をかけていたことが暴露されている。大阪の自民党は安倍首相の介入によって、完全なねじれ状態に追い込まれ、よく抵抗したとはいえ、立候補者の擁立も遅れ、一体となって闘う体制がそもそも崩されていたのである。
そして、選挙戦に入るや公明党の佐藤茂樹大阪府本部代表は記者団に「どちらかにくみするのではなく、民意で選ばれたリーダーと、合意形成をしていく姿勢で臨みたい」などと大阪「維新」に公然と秋波を送った(11/2)。公明党は明らかに、衆参両選挙での橋下「維新」側からの対立候補擁立の脅しに屈して、維新との裏取引で「中立」、「自主投票」を装い、維新の勝利に手を貸す選択をしたのである。
大阪維新の会の側も意図的、かつ本心の吐露でもあろう、安倍政権へのすりより路線をいっそう明確にした。首相の応援団を自任する橋下氏が、集団的自衛権の行使について「安倍さんは、どれだけ批判があっても実行する」(「産経」10/15付)と安保法制(戦争法)の強行成立などの強権的な“実行力”を絶賛し、松井氏も「安倍政権とは価値観が合う」「憲法改正を進めるのは協力できる」(「日経」10/1付)などと露骨に安倍暴走政治との一体性を誇示、安倍独裁政治の過激な別動隊としての橋下「維新」の役割を買って出ている。安倍首相が、自党候補の勝利ではなく、「維新」候補の勝利をこそもっとも喜んでいる所以でもある。
<<『ふにゃぎもとさん』>>
選挙の争点は、本来は、つい半年前、5/17の住民投票で反対多数・否決となった「大阪都」構想の再提案の是非であった。そもそも、橋下氏は「都構想の住民投票は1回しかやらない」「賛成多数にならなかった場合には都構想を断念する」「今回が大阪の問題を解決する最後のチャンスです。2度目の住民投票の予定はありません」と明言し、退路を断ったかのように見せかけて、票をかき集める、嘘八百の手口で世論誘導をしたにもかかわらず、少数差とはいえ敗北した。その結果、橋下氏は「政界引退」表明に追い込まれたのであった。しかしその「政界引退」表明もまったくの大嘘であった。
この手口は、安倍首相のアベノミクスの大嘘、福島原発事故汚染水「アンダーコントロール」の大嘘、そして「アベノミクス第二ステージ」の大ボラ、とまったくの相似形である。両者の独裁的、強権的政治姿勢も瓜二つである。
そこで選挙戦では、このような政治姿勢を問われたのでは不利である。そこで橋下「維新」は論点を完全にすり替えた。大阪都構想の再提案ではなく、大阪「副首都」構想に「ヴァージョンアップ」したとごまかし、力点は、反維新のオール大阪共闘体制へのデマ・中傷路線に徹底したのである。「自民・共産・民主が共闘」→「暗黒の大阪に逆戻り!」「過去に戻すか、前に進めるか」とビラに大書し、橋下氏は「共産と組んだ大阪自民はろくでもない。維新をつぶすために、悪魔と一緒になって禁断の果実をかじってしまった」と連日連呼したのである。そしてついには、市長の対立候補である柳本氏を、橋下氏は「あの人は非常に紳士なんですけど、長い話で結論を言わない。テレビ討論でも、ふにゃふにゃふにゃふにゃ言ってる間にCMになっちゃう」とこき下ろし、「柳本さんと言うと僕が名前を広めてるみたいだから、これからは『ふにゃぎもとさん』と呼びます」などと、お粗末極まりない個人攻撃に終始していたのである。これが橋下「維新」選挙の実態であった。
<<「オール大阪」の共闘体制>>
それにもかかわらず、あるいはそれだからこそと言うべきか、橋下「維新」が勝利を制した。本来の争点が完全にぼかされ、うやむやにされてしまったのである。橋下「維新」の狙いもそこにあったと言えよう。都構想は、大阪市民にとってはすでに決着していた政策の蒸し返しであり、投票率が前回から10.41%も下がってしまった(市長選50.51%、府知事選は7.41%減の45.47%)のは、当然と言えよう。
そもそも「都構想」という政策自体が詐欺的であり、その実態は、政令指定都市である大阪市を解体し、その財源を大阪都に吸い上げ、橋下「維新」の投機的・カジノ的政策に流用する、それを独裁的・集権的に進める政治体制を構築することにある。その本質は、新自由主義政策であり、社会資本と福祉の切り捨て、あらゆる公的部門の民営化、格差と貧困と差別の拡大政策である。
反「維新」の「オール大阪」の共闘体制は、残念ながらこれと対決する政策を明確に対置し得なかった。独裁的・集権的政治手法には「NO!」の声を大きく結集しえたが、肝心の経済政策で、どちらもリニア新幹線の大阪延伸を冒頭に掲げるなど、違いを明確化できなかったのである。
それでもこの「オール大阪」の共闘体制には、これまでの政党間共闘とは違った、新しい統一戦線形成の芽生えが、希望が動き出している。その象徴は、この「オール大阪」の選挙戦に多くの学生、青年、若者が積極的に登場し、発言し、訴えていたことである。SADL(民主主義と生活を守る有志)に結集する若者が、各地域での「オール大阪」の政談演説会に積極的に参加し、会場を準備し、多種多様なプラカードやリーフレット、ビラを多く用意し、配布し、なおかつ演壇に立ち、一人ひとりが自らの見解を訴えていたことである。筆者が参加した投票日2日前の京橋駅頭での「オール大阪」の政談演説会では、登壇した若い女性が「私は自民党支持者ではありません。しかし今の橋下政治は許せません。住民福祉の増進を進める自治体、地元民に立脚した経済、一人ひとりが考え、みんなで作る大阪を望みます」と訴え、駅頭をうずめた多くの人々が声援と拍手で応えていたのである。(写真は、11/20京橋駅頭、筆者撮影)
<<「いま、大阪ではもう『同和』はありません」>>
共産党が独自候補を立てずに、この「オール大阪」に合流し、活発な活動を展開した意義は大きく評価されよう。
しかしその共産党は、橋下「維新」の社会資本切捨て・差別拡大政策では、橋下「維新」に同調してきたのである。人権資料博物館「リバティおおさか」への補助金全額カット、大阪市内10地区の市民交流センターの縮小・廃館政策、人権予算の大幅削減などでは、橋下「維新」をむしろ擁護、激励し、さらなるカットを要求して、橋下「維新」との統一戦線を形成してきたのである。共産党系の「民主主義と人権を守る府民連合」は、対大阪府交渉において「同和地区」「同和地区住民」は存在しないことを明言せよと迫り、今年1/21の対大阪府教育委員会との交渉では、府教委に「今、被差別部落なんてないよという言い方になると思います」と回答させて、大いなる成果と喜び、「いま、大阪ではもう『同和』はありません」と叫んでいる(『人権と部落問題』2015年6月号)事態である。
人権政策をめぐるこの共産党の差別助長政策は大阪の統一戦線形成・発展にとって大きなマイナス要因であり、橋下「維新」はこれを大いに助長・利用したことを、今次ダブル選挙の一つの教訓としなければならないといえよう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.456 2015年11月28日