【投稿】核武装能力保持の原発再稼働 しかし、「東芝粉飾」で核産業は終焉
福井 杉本達也
1 なぜ川内原発の再稼働を急いだのか
8月11日に九州電力の川内原発1号機が再稼働した。大飯原発以来2年ぶりに「原発ゼロ」ではなくなった。再稼働による問題の第1は川内原発1号機が運転開始から31年が経過した老朽炉(高経年炉)であることである。原子力規制員会は運転開始30年の高経年化対策に関する審査もろくろく行わず再稼働を認めてしまった。しかも、4年間も運転を停止していた原子炉をである。元東芝原子炉設計者の後藤正志氏は「4年も淀んだまま腐食が進んでいることがないとは言えません」(2015.8.18)と述べている。さっそく、8月20日には復水器配管(タービンを回した後の水蒸気を海水で冷却し水に戻す)に穴が開いていること明らかとなった。
問題の第2は規制委の新規制基準概要(2013 年7 月)において「①弁を開放して減圧、②可搬式注水設備(高性能消防ポンプ)により炉心への注水」との新規制基準は根本的な誤りである(川内原発民間規制委かごしま勧告)。「ECCS(緊急炉心冷却装置)を使用せず減圧したら原子炉の水は激しく蒸発して、燃料は空焚きになってしまいます。つまり、新規制基準による事故の深刻化です」(槌田敦 2015.8.11)。スリーマイル島事故、福島第一1,2号の再現である。『可搬式注水施設(高性能消防車)』では十分な注水量は確保できない。
8月19日、自民党内で原発を推進する「プロジェクトチーム」は原発の運転期間40年を見直さず、運転延長論を封印する提言をまとめた(日経:2015.8.20)。40年延長ができなければ、福井県内では、美浜3号は2016年、大飯1,2号は2019年、高浜3,4号も2025年には廃炉となる。敦賀2号も活断層が直下を走り廃炉必至である。残るは大飯3,4号のみとなる。3.11で打撃を受けた福島第二・巻・東海第2は廃炉必至、浜岡は東南海トラフ、青森大間、泊・志賀・島根も活断層を抱え、柏崎刈羽は泉田新潟県知事の強固な反対もある。全国でも動かせる原発は数少ない。
数少ない動かせる原発を再稼働させたのはなぜか。安保法制反対のSEALDsの学生を批判し金銭不祥事で自民党を形式上離党した武藤貴也議員は「いざとなったら、アメリカは日本を守らない…だからこそ、日本は自力で国を守れるように自主核武装を急ぐべきなのです。」(『月刊日本』2015.5)と述べている。高速増殖炉「もんじゅ」を廃炉にせず、青森六ヶ所村の民間再処理工場を国有化しでまでも維持しようとすることは、独自核武装にこそ真の目的があることが伺える。「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘をうけないように配慮する(外務省HP「”核”を求めた日本」報道において取り上げられた文書等に関する調査についての関連文書No.2「わが国の外交政策大綱」P71 1969.9.25)ことにある。
2 壊滅する世界の原発産業
3.11以降、独・シーメンスは原発事業から全面撤退した。また、今年6月には仏原発大手アレバが事実上倒産、仏電力公社の傘下にはいること(「=事実上の国有化による救済」が明らかとなった。アレバの場合フィンランドなどで受注したEPR(欧州加圧水型炉)が10年近くの建設の遅れにより大幅な赤字となったことが命取りとなった(朝日:2015.6.5)。また、三菱重工業は2012年に蒸気発生器の事故を起こしたカリフォルニア州サンオノフレ原発が廃炉となったことで、電力会社:エジソン社から9,300億円もの損害賠償の訴えを起こされている(朝日:2015.7.29)。仏コンサルタントの調査によると、2014年に着工した世界の原発はアルゼンチン・ベラルーシなど3基のみで、建設中は62基あるというが、うち5基は米国・ロシアなどの30年以上も建設が中断した計画が含まれており(福井:2015.8.20)、世界の原発産業はほぼ壊滅状態に陥ったと見てよい。
3 東芝「粉飾決算」はWH買収にある
東芝の「粉飾決算」に係るマスコミの報道は非常に甘い。日経・読売は当初から、会社側の言うなりに「不適切会計」という言葉を使っている。「不適切」は「不正」とは違う。朝日・毎日は「不正会計」としているが、はっきり「粉飾決算」と書くべきである。
1979年のスリーマイル島原発事故以降、原発建設が止まってしまい米国でお荷物となった米原発大手ウェスチングハウス(WH)。東芝は日立製作所と並び、ゼネラルエレクトリック社の加圧水型原発を手掛けており、沸騰水型を手掛けるWHとは基本技術が違う。その東芝が法外な額を提示して三菱重工を差し置き横から割り込んで2006年に買収した。その“法外な買収額”がのれん代(ブランド価値などとして、市場価値よりも高額で買収した(買わされた)価値を長期間に償却していくために資産として計上したもの)の償却問題がある。原発の事業環境悪化による事業価値減少で、のれん代(買収金額6,000億円のうち4,000億円)が特別損失になる。WH買収を発表した当時、そのとき約2000億円だった東芝の原子力事業が15年には約7000億円、20年には約9000億円に拡大すると喧伝した。米国会計基準を厳正に適用するならば即、「減損処理」すべきものである。連続赤字が続けば、巨額の繰延税金資産(税金の払い過ぎを後に取り戻せることを見越し、資産計上すること)を黒字が出た期の利益から償却することはできず、否定される可能性がある。そうなれば、自己資本はマイナスとなり、東芝の財務は危機的状態に陥る。(参照:ダイヤモンド:2015.7.27、7.30 古賀茂明「東芝の粉飾問題「報道の粉飾」:『週刊現代』2015.8.8) もちろん米国はせっかく東芝に押し付けたWHという不良債権を買い戻すことはあり得ない。東芝は、WHをめぐって前に進むことも、切り離すこともできず、福島第一の1号機及び3号機の事故処理の責任を任されていることもあり、倒産することさえ許されず、東電同様の「ヌエ」的状態で国家資金を使ってでも核技術力を維持し「不適切」に生きながらえることとなろう。
4 「川内原発へのミサイル攻撃は?」秀逸な山本議員の質問と議論を避ける他の野党
映画『天空の蜂』が9月から全国でロードショー公開される。原発を標的としたテロを題材としている。原作はベストセラー作家:東野圭吾であり、20年前の作品であるが、核燃料プールの脆弱性、原発の安全神話など3.11を先取りしたテーマを扱っている。
7月29日の参院安保法制質疑は議論を避ける他の野党と比べ山本太郎議員の質問は秀逸であった。山本氏は、日本がミサイル攻撃を受けたときのシミュレーションや訓練を政府が行っていることを確認したうえで、鹿児島県の川内原発について、最大でどのぐらいの放射性物質放出を想定しているかをただした。これに対し、原子力規制委員会の田中俊一委員長は、原発へのミサイル攻撃の事態は想定しておらず、事故が起きたときに福島第一原発の事故の1000分の1以下の放射性セシウムが放出される想定だなどと、ごまかしの答弁をした。これに対して、山本氏は「要はシミュレーションしていないんだ」、「あまりにも酷くないですか」、「今回の法案、中身、仮定や想定を元にされてないですか?」、「都合のいいときだけ想定や仮定を連発しておいて、国防上ターゲットになりうる核施設に関しての想定、仮定できかねますって、これどんだけご都合主義ですか」(J-castニュース 2015.7.30)と切り捨てた。海岸に50基もの原発を並べて、集団的自衛権・ミサイル防衛を語る資格はない。隣国からミサイルが飛んでこないようにする外交努力こそ求められる。
田中委員長の「1000分の1」答弁はどこから出たのか。「1000分の1というのは何なのかなあと思ったのですが、あれは多分、格納容器が壊れないことが前提なのですね。格納容器が壊れると桁が違うし、福島どころじゃすまないのですね」(後藤正志 鹿児島県知事の『世界に冠たる規制』発言に対して 2015.8.18)。ようするに、ミサイル攻撃で格納容器が崩れないことを前提として発言しているが、そのようなことはあり得ない。1981年6月7日、イスラエル戦闘機はイラクの建設中の原子炉を破壊した。田中委員長も1984年の外務省の委託報告書「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」を知らないはずはない(参照:常石敬一『日本の原子力時代』 NNNドキュメント「2つの“マル秘”と再稼働 国はなぜ原発事故試算を隠したのか?」2015.8.23放映)。
5 「地元同意」と自治体の「責任」
高浜原発の再稼働にあたって、福井県の西川知事は「地元同意」は立地町である高浜町と福井県の同意だけでよいとしている。しかし、京都府舞鶴市松尾地区・杉山地区は高浜原発から5キロ圏内にある。今年2月には地区住民に対し原発事故があった場合甲状腺被曝を抑える安定ヨウ素剤を配布しており、原発事故による被害は高浜町境界や福井県境で収まるものではない。「地元同意」が絶対であるというのなら、武田邦彦氏が「『自分が決定権がある』というものについてはその決定によって他人が被害を受けたら、決定の権限に応じて責任を分担する必要がある。『決定権』というのは『責任』を伴うもので、日本人ならそのぐらいの覚悟はしてほしい。『自分は一般の国民だから何を決めても義務は生じない』というと『民主主義』の原則にも反する。(武田邦彦:2015.2.23)」と述べているように、舞鶴市や京都府・滋賀県は高浜町や福井県に対し、「地元同意」をして事故による被った全損害については高浜町と福井県が賠償するという一札を取るべきであろう。
国のワーキンググループにおいて原発事故時の避難にあたって、滋賀県(高島市等)・京都府内(福知山・綾部市等)などでの放射能汚染スクリーニング検査場の指定したことを福井県が明らかにしたが(福井:2015.2.25)、市体育館などの場所を決めただけで、検査器具もなければ、放射線技師も、除染場所もない。福島事故では多数の避難者が押しかけた。計測だけで1人5~10分はかかる。数百人も押し寄せればパンクである。冬季の事故で、除染のために高濃度汚染した避難者に冷水をぶっかければどのような事態を引き起こすかは明らかである。京都・滋賀の自治体労働者はこのような常識的な避難対策を整理し、問題点を抽出して福井県・高浜町にぶつけるべきである。避難対策は国や関電の責任だと言って「思考停止」していたのでは住民の命は守れない。福島事故の棄民政策から明らかなように、日本の国家は「無責任」をその本質としており、電力会社も同様である。しかし、自治体は住民の生命と財産を守るという「責任」から逃れることはできない。9月6日:京都・梅小路公園で「さよなら原発全国集会in京都」が行われる。京都も志賀も「地元」だというスローガンだけで命は守れない。「責任」をとる具体的詰めが求められる。
【出典】 アサート No.453 2015年8月29日