【訳出】南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94

【訳出】南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94
     
          (international New York Times 記事 on July 20, 2015 )

“Yoichiro Nambu, physicist awarded Nobel Prize, dies at 94”
[ 南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94 ]
                             by Mr. William Grimes

 南部陽一郎氏、シカゴ大学の粒子物理学者、彼の ”spontaneous symmetry breaking “ (「自発的対称性の破れ」理論)として知られている現象の数理論的描写が、subatomic particles (「原子の構成粒子」)の相互作用の説明の一助となり、”Higgs boson” (「ヒッグス粒子」)または”God particle” (「神の粒子」)の存在予測に貢献し、自らを2008年のノーベル物理学賞に結実させた同氏は、7月5日大阪で亡くなられた。94歳であった。
 大阪大学、そこでは彼は傑出した教授であった、は17日(金)に公表した。
1950年代後半、南部教授は”super-conductivity” (「超電導現象」)の研究を始めた。その現象とは、超低温において、電流が突然に抵抗なく流れる。 彼は、”spontaneous symmetry breaking “「自発的対称性の破れ」理論 (以降 “SSB” と称する。) ― 科学者たちが原子の構成粒子レベルで気付き始めた”symmetric” (対称性)から”asymmetric”(非対称)状態への変化 ― が、物質がいかにして超電導状態になるか、のよりよい説明になるに違いないと判断した。 彼はこの現象の特徴を描写するために数理的モデルを発展させた。そして、急いで彼の関心を原子構成粒子群の分野 (“the world of subatomic particles”) に振り向けて行った。1960年になって、彼は “Standard Model” (以下「標準モデル」と称する)(1*) および “the unified theory” (以下「統一理論」と称する)(2*) ― そこでは物理学者は、自然界における4つの基本的力の内3つを説明してきた。即ち”strong”「強さ」、”weak”「弱さ」そして”electromagnetic”「電磁力」― の基礎/土台となる “SSB” の数理的描写の論文を出版した。4つ目 ”gravity” (「重力」) は「標準モデル」には、未だ編み入れられていない。

「“SSB” は一種の知性の集まり、心理の集まり、そして物質成分の集まりより生じる。」
 
ノーベル賞を受賞した後、シカゴでの講演で南部博士は述べている。彼は一つの寓話を示した。即ち、人々の集団が広場に集まった時、普通は人々は、まちまちの方向を見ている。しかし、そのうちの一人が、ある一方向を見始めると他の人々も同様に同じ方向を見ることが、時として起こる。「これが、”a broken symmetry” (「破れた対称性」)であると彼は言った。 彼の理論は、例えば、弱い核の力を保持した素粒子が、いかにして、質量を獲得するかの説明の一助となった。 そして「弱い力」と「電磁気力」の統一理論の発展・展開に寄与している。
Mr. Peter Higgs, Mr. Francois Englert 及びその他の学者たちは、南部理論を用いて1960年代に、 “the Higgs boson”(「ヒッグス粒子」) (3*)の存在を予測した。そしてその粒子は2012年に発見された。2004年 雑誌「物理学の世界」とのインタビューで Mr. Higgsは、「私の名前はこの分野において、第一人者となっているが、いかにして “fermion”(「フェルミ粒子」) (4*)の集まりが、超電導状態の物質におけるエネルギーの破れ目の形成に相似する方法において、作り出されるかを示した人は南部教授であった。」と語った。
南部博士は、”quarks”(「クウォーク」) (5*)の研究で認められた、小林誠教授と 益川敏英教授と共にノーベル物理学賞を受賞して、賞金の半分を受け取り、残り半分はお二人(小林/益川両教授)で分け合った。
 「科学者の中には、すべての分野の動きを方向付ける人がいる。南部博士はそのような偉大な人の一人であった。」シカゴ大学の教授であった Mr. Peter Freund (6*)はあるインタビューで述べている。
 南部博士は、1921年1月18日に東京で生まれ、その後福井に移り住んで成長した。彼の科学への関心は、父親が買い与えた科学雑誌によって呼び起こされた。「自然科学における基礎となる諸問題を研究する一つの手段である物理学を、私は好きになった。」と受賞後のシカゴ大学の新聞(”news service”)で述べている。1942年、東京帝国大学で修士号 (“master’s decree”)を得たが、すぐに召集されて陸軍のレーダー実験室に配属された。
1946年、彼は研究者として大学に戻り、1952年博士号を取得した。1950年から1956年まで彼は、大阪市立大学の教授であった。その間の二年間、彼は米国New Jersey 州Princetonにある”the Institute for Advanced Study”(「先進科学研究機構」)にて核物理学者の Mr. J Robert Oppenheimerと過ごしている。その機会に彼は、勇気を出して、その機構の有力な会員であったMr. Albert Einsteinに自己紹介している。
 シカゴ大学との関係は1954年に始まり、その後 “research associate”(「研究員」)として同大学に勤めている。1958年に教授に就任し、1974年から1977年の間、同大学の物理学部の部長となり、1991年に退職した。
 彼の受賞は、多くの物理学者の間で、遅きに資した、と受け取られている。「その一端は、彼は大変控え目であり、派手に自己宣伝しないこと、の為であろう。」と Mr. Jeffrey Harvey,シカゴ大学におけるEnrico Fermiの研究で有名な物理学者が語っている。「現実の世界では、人々はノーベル賞の為に働きかける。しかし彼はそのような人ではなかった。」と。
 南部博士は、その後も粒子物理学の研究を続け、きわめて重要な貢献をしている。1965年に、Mr.Moo-Young Han,現在 Duke Universityに在籍、と共に研究して、quantum chromodynamics( 「量子色力学」) の最新理論の先駆者になるまでになっていた。その理論は、「陽子」と「中性子」を縛り「原子核」にしている原子の力を解き証し説明している。
 「彼は”magician”(手品師/奇術師)であった。」Freund教授は述べている。「彼は帽子の中から兎を一匹、また一匹と取り出したであろう。そして突然その兎たちは整列して、あなた方が以前見たこともないダンスを始めたであろう。そこで彼は、あなた方が決して思いつくことができないアイディアを得たのだ。」
                              訳:芋森  [ 了 ]

(1*) 粒子物理学におけるStandard Model
 「標準モデル」、「標準模型」、「標準理論」とも称される
「強い力」「弱い力」「電磁気力」、この三つの基本的力の相互作用を記述するための理論の一つである。
(2*) the unified theory「統一理論」とも「大統一理論」とも称される
種々の相互作用力を一種類に統一する理論である。自然界の四つの力(「強い力」「弱い力」「電磁気力」プラス 「重力」)を全て統一することが到達点である

(3*)「ヒッグス粒子」)
もし、ヒッグス粒子が存在しなければ、宇宙を構成するすべての星や生命が生まれないことになるため、「神の粒子」とも呼ばれています。 お気に入り詳細を見る ヒッグス粒子は私たちの身の回りも含め、すべての宇宙空間を満たしている素粒子として、1964年にイギリスの物理学者、ピーター・ヒッグス氏が存在を予言しました。 お気に入り詳細を見る 私たちの宇宙は、1960年代以降、まとめられた現代物理学の標準理論で、17の素粒子から成り立っていると予言されました。 お気に入り詳細を見る これまでに、クォークやレプトンなど16については実験で確認されてきましたが、最後の1つ、ヒッグス粒子だけが見つかっていませんでお気に入り詳細を見る した。 ヒッグス粒子が担っている最も大きな役割は、宇宙のすべての物質に「質量」、つまり「重さ」を与えることです。2012年「ヒッグス粒子」はスイスにあるCERN(欧州原子核研究機構)おけるLHC(大型ハドロン衝突型加速器)計画によって見つかった。「ヒッグス粒子の可能性が極めて高い素粒子が見つかった」が正確で、実際はこれからヒッグス粒子かどうかを調べていきます。 ほぼ同じものが99.9999%以上の確率で存在していたから、「間違いない」と判断されている。

(4*) “fermion”(「フェルミ粒子」)
フェルミ粒子は、フェルミオン(Fermion)とも呼ばれるスピン角運動量の大きさが ħ (「換算プランク定数」。ħ は「エイチバー」と発音される。) の半整数 (1/2, 3/2, 5/2, …) 倍の量子力学的粒子であり、その代表は電子である。その名前は、イタリア=アメリカの物理学者エンリコ・フェルミ (Enrico Fermi) に由来する。

(5*) quark(「クォーク」)小林誠氏と益川敏英氏は、素粒子物理学の標準模型の枠組みで、素粒子を構成している基本粒子と考えられているクォークは、当時主流であった2世代4種類ではなく、3世代6種類以上存在することを予言しました。6種類のクォークの存在については1995年に実験的に確認され、CP対称性の破れについても2001年に実験的に検証され、小林誠氏と益川敏英氏両氏の理論が正しい理論であったことが実証されました。

(6*) Mr. Peter Freund – Wikipedia, the free encyclopedia
Peter George Oliver Freund (born 7 September 1936) is a professor emeritus of theoretical physics at the University of Chicago. He has made important contributions to particle physics and string theory. He is also active as a writer.

【出典】 アサート No.453 2015年8月29日

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