【コラム】ひとりごと 人口減少で地方消滅とは?
○今年7月、「日本創成会議」(代表は増田寛也元岩手県知事、元総務大臣)は、このまま人口減少が継続すると2040年に896の自治体が消滅する(消滅可能性都市)、さらに523自治体は、2040年時点で人口1万人を切り、消滅可能性が高いとのレポートを自治体名入りで発表した。すでに2008年から、日本は死亡数が出産数を越えて、人口は減少する段階に入っているが、今回のレポートは、「消滅」というショッキングな規定、若年女性の人数を「人口再生産」の指標として取り上げた点、また、現状でも、都市部からの移住・定住者を呼び込む努力をしている自治体などの取り組みを軽視しているなどに批判も多く出てきている。○また、このレポートの発表と、安倍政権の「地方創生本部」などの取り組みが、妙にマッチングしている事実から、政府・省庁と連携した世論操作との面も否定できない。○中央公論誌で、6月号は「消滅する市町村523全リスト」、7月号には「すべての町は救えない」、などの特集を掲載してきたが、8月に出版された中公新書「地方消滅」では、これら一連のレポートが整理されており、この内容を見ると論点は明確になっているようにも思える。○新書の内容を、整理してみる。すでに、2008年から人口減少社会に入ったが、全国一律に人口が減少しているのではない。特に地方部で著しい。そして一貫して人口が増加しているのが、東京・首都圏である。それは、継続的に若者が特に首都圏・関東圏に仕事や進学で移動している傾向が続いているからである。そして、特殊出生率は、全国平均では1.43に回復しているものの、東京都のそれは1.13程度で、人口が集中する都市部で出生率が低下している。都市部の格差社会、出産育児環境の厳しい現実が反映している。さらに、人口の東京一極集中を「極点社会」と名づけ、今後、大量の高齢者を抱える、東京・首都圏の問題も指摘されている。○今後、出生率が回復するとしても、現在の人口減少は、40年から50年は続くので、現状の都市部への人口移動を食い止め、地方で生活する人々を増やす政策が必要だ、という内容になっている。○そして、人口減少への対応は、国家戦略として策定されるべきであり、従来の地方分権論を超えて、グランドデザインが描かれるべき、としており、ここから、「国家戦略」が、妙に前に出てくるのである。○当然ながら、高齢化は食糧事情、医療環境の改善、そして平和の問題も含めて、自然現象の側面が強いが、少子化は、全く別の要因があると私は考えている。長時間労働の解消や不安定雇用・低賃金政策の改善こそが、第1の課題であろう。しかし、本書の著者は、都市と地方の問題を前面に出して、論じ、何か新しい問題であるように演出しているのである。だから、地方の雇用対策や、都市部への人口流出防止策として、「地方拠点都市構想」のような「ダム機能論」が出てくるのである。30万人程度の地方都市に、広域自治体的な機能を持たせ、「すべての町は救わず」、拠点都市に重点的に財源を投入すべき、との結論に至るのである。国と地方の財源問題は後景に追いやられ、地方分権よりも、「国家戦略」だというのである。ここに違和感を感じるのである。○そして、何よりも、来年の統一地方選挙を前に、これらレポートに対応したかのように、「まち・ひと・しごと創生本部」なる戦略機能の組織(担当大臣は石破茂)が設置され、次年度予算では1兆円の特別枠を設けるなどなど、俄か作りの「選挙対策」として現出しつつある、という極めて政治的色合いの濃い構図に繋がっていくのである。○中公の「地方消滅」は、事実・現実としての人口減少問題に目を向けようという「善意」は感じるものの大きな流れとしては、何か政治的意図先行を感じざるを得ない。○現在総務省が実施している「地域起こし協力隊」という事業がある。40歳以下の都市の若者を2年間地方で雇用し、地域起こし事業に従事させるというもので、昨年度は930名余が対象となった。安倍は来年3000人に増員すると発言した。しかし、国の補助は、賃金分として一人200万円。月額16万6千円。地方は物価が安いとはいえ、低賃金労働者そのものであろう。当然、地方公務員の賃下げにも利用されそうである。○来年4月から予備校の代々木ゼミが、全国で20校を閉鎖、7校にするとの報道があった。大学進学を希望する学生の人数が激減し、浪人生も一時28万人も存在したのが現在は6万人、そして私学では定員割れ校も続出し、いわば、大学志望者全入時代となっているのが背景にあるという。少子化が現実に、着々と進行していると言えよう。○着々と進行する「人口減少」への対策は、まさに政治の対抗軸となりうるものである。しかし、野党の対応は、遅きに失しているのが現実である。(2014ー09ー22佐野)
【出典】 アサート No.442 2014年9月27日