【投稿】何故今リニア新幹線か-原発再稼働を側面から支援するJR東海

【投稿】何故今リニア新幹線か-原発再稼働を側面から支援するJR東海
                                福井 杉本達也 

1 「オリンピックまでにリニア新幹線を」とはしゃぐ官房長官・マスコミ
 9月18日JR東海は2027年に名古屋まで開業するリニア中央新幹線の詳細ルートを公表し、環境影響評価準備書を沿線自治体に提出した。13年度中に国の認可を得、来年度にも単独で工事着工したいというのである。工費は品川-名古屋間で5兆4千3百億円、大阪全面開業までで9兆円もかかるという。これに菅官房長官は「五輪には海外から多くの人々が日本を訪れる。我が国を代表する技術・リニアに部分的に乗っていただければ」(日経:2013.9.19)と語り、経団連の米倉会長は「東京五輪までに名古屋まででも、乗れるようになればいい」(朝日:9.19)とさらに踏み込んだ発言をしている。ところが、当事者のJR東海山田佳臣社長の発言は「どうみても2ケタの年数はかかる。鉄腕アトムが一緒に掘ってくれれば別かもしれないが」と語り、かなり慎重である。リニアの全長286キロの86%もが地下を通るためである。中でも南アルプスを貫通する25キロのトンネルは最難関である(朝日:同上)。

2 原発数基分の電力を消費するリニア
 現東海新幹線は1964年・東京オリンピックに合わせて開業した。しかし、リニア新幹線はどう考えても9月7日に決定した7年後の2020年オリンピックには間に合いそうにもない。 ではなぜ今リニア新幹線なのか。JR東海はJR東日本のような自前の発電所を持っていない。新幹線に必要な電力の全ては電力会社から供給を受ける必要がある。目的は浜岡原発・柏崎刈羽原発の再稼働にある。リニア新幹線は大量に電力を使う(リニアの超電導は電気抵抗ゼロの技術だか、電気消費は減るどころか増えるリニアは車輪走行をしない。強力な超電導磁石で車体を地上から10センチ浮上させ、時速500Kmで地表を「飛ぶ」超電導磁石はリニアの各車両には搭載されている。そして、リニアが走る両脇の壁に設置したコイルに電流を流すとコイルが電磁石となり、車両の超電導磁石との間で吸引と反発が同時に起こり車両が動く超電導とは、極低温では電気抵抗がゼロになり電流が回路内を永久に流れる現象を言うが、リニアではその実現のため、各車両に、液体ヘリウムでマイナス269度にまで冷却する冷凍庫を設置し、超電導磁石を格納する)。JR東海の公式発表では「リニアの消費電力は東海道新幹線の約3倍」であるという。しかし、伊藤洋山梨県立大学教授が、乗客一人を運ぶエネルギーを基に計算した結果、「リニアには原発4基分の電力が必要」と推計する。JR東海がリニアのために原発を稼動させると公に明言したことはない。だが、リニアと原発の関係は否定できない。というのは、山梨県のリニア実験線の主な電力供給先は東京電力・柏崎刈羽原発(新潟県)89年に山梨県への実験線誘致が決まった後、実験線に電力を供給する東山梨変電所に柏崎原発からの高圧線が敷設されている(樫田秀樹:「夢の『リニア新幹線』は第二の原発か」)。
 JR東海の公式発表では、JR東海が2011年5月に発表したリニアの電力消費量は 約27万KW(東京―名古屋開業時、ピーク時:5本/時間、所要時間:40分 約74万KW(東京―大阪開業時、ピーク時:8本/時間、所要時間:67分 時速500km走行時の1列車(16両編成)の想定消費電力は、約3.5万KW であるが、「3.5万KWとは平坦地走行中」と説明している。つまり、1時間あたりリニアが走行に使う平均的な電力ということである。問題は最も電力を要する発進時の最大電力=ピーク時の電力を明らかにしていない。しかし、磁気浮上に至るまでの加速時の消費電力(KW)がバカ喰いである。磁気浮上するまでの数分間の瞬間電力KWがドイツのトランスラピットと極端に変わらないと仮定すると瞬間最大電力(KW)は50名定員1両あたり10000KW。東海道新幹線の定員100名16両編成に合わせると、リニアモーターカー1編成32両の瞬間最大電力は32万KW。東京=名古屋間を上下線5本ずつ、計10本走らせたとして、浮上前加速状態が3本重複した場合「32万KW×3本=96万KW」(OKWAVE:リニアモーターカーの消費電力)との計算になる。大阪まで全線開通となると最低この倍は必要となる。やはり原発数基分の電力が必要となる。

3 架空の電力重要の作りだし
 今年の夏は猛暑であったにもかかわらず電力需要は伸びなかった。この間原発は大飯原発3,4号機235万KW(117.5万KW×2)が動いているだけであった。それも9月15日に定期検査のため停止した。再び原発の稼働は「ゼロ」になった。このままでは原発は必要がないといわれてしまう。この時期にリニア計画を発表したのは膨大な架空の電力需要を作りだし、原発の再稼働につなげたい思惑が動いていると言える。
 福島第一原発事故の直前まで、電力会社はガス会社に対抗し、オール電化住宅(IHクッキングヒーターやエコキュート)ということで新規の電気需要を作ろうとした。また、電気自動車が今後の自動車の主流になるというキャンペーンを張り、各地に無料で充電スタンドなるものを作った。しかし、価格が高く航続距離が短く、特に冬の暖房に余計な電力を消費するなど問題だらけであり実用化にはほど遠いものとなっている。さらに、「地球温暖化対策」という旗も色あせてしまった。日本政府は2013年度から京都議定書で約束した6%の温暖化ガスの削減目標から離脱し、政府の削減目標もなくなってしまった。「原発でCO2削減」という言葉は使えなくなった。原発の再稼働を進めるには新たな旗が必要なのである。

4 原発再稼働に向け旗を振るJR東海・葛西敬之会長
 JR東海の葛西敬之会長はかつての中曽根内閣時代の国鉄分割民営化・国労解体の立役者であり、安倍晋三応援団の1人で、嫌中・嫌韓・買弁でも安倍と一致している。葛西は8月3日、「日本原子力学会シニアネットワーク連絡会」の「原子力は信頼を回復できるか?」と題したシンポジウムにおいて基調講演を行い、「安全を過度に追求したら、経営のバランスを欠く」とし「原発の再稼動ができなければ、燃料費を圧縮できず、ジリ貧状態」なる。「これが経営の面からも原発再稼動を早急に行わなければならない理由だ。」とし、「『放射能への過剰な恐怖感』を民主党政権は生んだ」が、「人体に影響がある可能性は少ない。一歩踏み込んで『大丈夫だ』。」原発の「停止は長引くだろう。このまま国富が流失すれば、経済への悪影響は間もなく出てくる。」と述べた。さらに除染基準についても「現在、福島で年1ミリシーベルトまでの被ばくに抑えるとしている。これは実現不可能で…この基準の設定には、科学的根拠はない」とし、さらに賠償についても「基準を明確にせず、またすべてを東電に負わせるという形のために…無規律な状況に陥っている。何でも東電に補償させようとしている」と述べ、これを「是正しなければ、アベノミクスは原発、エネルギー政策で失速する。政権は英断を持って、悪しき政策を是正してほしい。」とアジっている(「アゴラ」2013.8.6)。
 葛西のいうように、汚染された地域の除染は不可能ではあるが、放射線被曝の年間1ミリシーベルトの設定には科学的根拠はあり、それを超す地域で長期間に亘り生活することは危険である。1ミリシーベルト以上の地域からは少なくとも子どもと若い親は一刻も早く避難すべきである。しかし、高齢者の場合には住み慣れた土地を離れたくない者もいるだろうし、地域を離れた場合、ストレスで病気が進行する者もいる。その場合チェルノブイリ事故で当時のソ連政府が取ったように、1~5ミリシーベルトの汚染地域は選択的避難地域とすべきであろう。もちろん現在日本政府が行っている5ミリシーベルトを超す地域に住まわせることは許されることではない。そして、その土地を離れざるを得なかった者には全て、住居を補償し、就職を斡旋すべきである。葛西は2011年9月に原子力損害賠償支援機構運営委員会委員に就任しているが、賠償について「何でも東電に補償させようとしている」という発言はとうてい許されるものではない。
 ところで、リニア新幹線に超電導磁石を収める冷凍機は1車両に2機搭載するというが、この搭載予定の『ギホードマクマホンサイクル冷凍機』は、まだ特許出願段階で開発途上であり、冷凍機にヘリウムガスやチッソを補充しないでは列車の複数回使用はできない。しかも、その冷凍機を冷やす電源は実験線では車内に積んだガスタービンエンジンによる電力であり、外部電源を使っての冷凍は今後の課題だというのである(樫田秀樹「疑問だらけのリニア新幹線」『世界』2012.9)。全くの噴飯物である。夏の電力需要も少ない、地球温暖化対策ともいえない、LNG発電・石炭火力発電の方が競争力あるとなると、原発再稼働を推進する側の旗色は悪くなる一方である。このため、オリンピックやリニア新幹線といった様々な目眩ましが今後ますます必要となるだろう。 

 【出典】 アサート No.430 2013年9月28日

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