【投稿】 安倍首相の大嘘とナチスの手口 —汚染水虚言の深刻な泥沼—
<<「憤りを禁じ得ない」>>
9/20、福島原発事故で全域が避難区域に指定されている福島県浪江町の町議会は、東京電力福島第1原発の汚染水問題を巡り、安倍晋三首相が国際オリンピック委員会(IOC)総会で「福島について、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況はコントロールされています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」「健康問題については今までも現在も将来も全く問題ない」などと発言したことについて、「事実に反する重大な問題がある」とする抗議の意見書を全会一致で可決した。意見書は、首相の発言は全く事実に基づいておらず、原発から1日推計300トンの汚染水が流出している「深刻な事態」であり、これは「非常事態」であり、「『コントロール』『(港湾内で)完全にブロック』などされていない」と厳しく指摘し、安倍首相が「健康への問題は全くない」と発言したことに対しては、浪江町だけで震災関連死が290人を超えるとし、首相に「避難生活の息苦しい日々を知らないのなら、現場の声を真摯に聞くべきだ」と訴え、「(首相の)無責任な発言に強く抗議する」と明言、「福島を軽視する政府、東電に憤りを禁じ得ない」と心底からの怒りを表明している。
意見書はまた、民主党政権時代に出した「事故収束宣言」を早急に撤回し、原発からの汚染水漏れを、国が自らの国民に対する責任として、直接、解決するよう求めている。町議会は同日、首相や環境相、経済産業相ら政府関係者8人宛てに意見書を発送している。安倍内閣はこれにどう応えるのか、厳しく問われている。
<<「真実は嘘の不倶戴天の敵」>>
当初この暴言ともいえる大嘘は、経産省や原子力村にていよく丸め込まれた安倍首相が事態の深刻さを何も知らずに乗せられて発言したのかとも思われたが、嘘とわかっていながら嘘を突き通す確信犯なのである。
首相がこの大嘘を発言したのは、9/7のアルゼンチン・ブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会の五輪招致プレゼンテーションの場であった。その直後から国内外から多くの疑問の声が沸き起こり、9/13には東電自身が「今の状態はコントロール出来ていないと我々は考えている」(山下和彦フェロー)としており、いくらでも検証できたのであるが、プレゼンから2週間近く経った9/19、安倍首相はわざわざ福島第一原発を訪れ、汚染は「港湾内に完全にブロックされており」「健康問題については、今までも、現在も、そして将来も、まったく問題ない」はずなのに、ものものしい防護服で身を完全ガードするしかない重装備の姿を晒しながら、放射能汚染水漏れの現場を視察し、そこでも改めて汚染水の影響が一定範囲内で「完全にブロックされている」といけしゃあしゃあと述べたのである。
しかも、首相は、現地をごく短時間、たった2時間半しか視察しておらず、東京から同行した海外メディアと大手マスコミの「安倍番」記者とだけ会見し、被災を受けた浪江町の町民だけではなく、地元の報道機関とさえも会見を行わなかったのである。そしてその翌日に浪江町町議会全会一致の抗議の意見書を突き付けられたのである。
こうした安倍首相の意図的な言動に明らかになったことは、「もしあなたが十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう」というナチス・ドイツ宣伝大臣ヨゼフ・ゲッベルスのあの卑劣な手口なのである。ゲッベルスは1936年のベルリンオリンピックを一大宣伝ショーとして演出の総指揮を取り、現在の形式の聖火リレーはこのベルリンオリンピックから始まっているという。そのゲッベルスの手口をそのまま安倍首相は引き継ごうとしているといえよう。そして麻生副総理のヒットラーの「あの手口を学んだらどうかね」発言が、その提言通り、安倍首相の発言と行動に現れている。
ゲッベルスは「嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう」と述べた直後に、「嘘によって生じる政治的、経済的、軍事的な結果から人々を保護する国家を維持している限り、あなたは嘘を使える。よって、国家のために全ての力を反対意見の抑圧に用いることは極めて重要だ。真実は嘘の不倶戴天の敵であり、したがって、真実は国家の最大の敵だ。」と述べている。
「あなたは嘘を使える。よって、国家のために全ての力を反対意見の抑圧に用いることは極めて重要だ」という次のナチスの手口が、安倍首相がこだわる憲法改悪であり、秘密保全法であり、国家安全保障基本法であり、すべての人権規定を自民党改憲草案に明記されている「公益及び公の秩序」によって「反対意見の抑圧に用い」て、破壊し、真実を覆い隠すことなのであろう。
<<「国家最大の敵」>>
だがこうした目論見は、厳しい現実と真実の前に破綻せざるを得ないであろう。
安倍首相がいくら覆い隠そうとしても隠しきれないフクシマの現実と真実が厳然として立ちはだかっているからである。
第一に、首相がオリンピックプレゼンで、「事実」を見ていただきたいと大見得を切りながら、「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の、0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」と述べたことからして、全くの大嘘なのである。
7月以来、汚染水漏れが次々に発覚、8月19日には、貯水タンクから、当初「少なくとも120リットル」と推定していたものが、実は毎日300トンもの高濃度汚染水が大量に漏洩したことが発覚、この高濃度汚染水は、1リットルあたり8000万ベクレルにも達し、原子力規制委員会は、8/21、この事故を国際原子力事象評価尺度(INES)の「レベル3(重大な異常事象)」に該当すると発表せざるを得なくなったのである。
さらに東電自身が、9/1、一日あたり港湾内の海水の44%が港湾外の海水と交換されていることを明らかにした。つまり「0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」はずの港湾内の汚染水は毎日半量近くが外洋へ、太平洋へと垂れ流されており、首相の発言は完全に覆されてしまっているのである。しかも港湾内だけではなく、貯水タンクから漏れ出た汚染水が側溝から港湾外の直接外洋に太平洋に垂れ流されていることまで明らかになっている。
そして9/18には、国際原子力機関(IAEA)の科学フォーラムで、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究官が東京電力福島第1原発の汚染水問題について、原発北側の放水口から放射性物質のセシウム137とストロンチウム90が1日計約600億ベクレル、外洋(原発港湾外)に放出されていると報告している。歴史的に見ても、これほど大量の高濃度の汚染水が長期間漏れ続けている事態は過去に例がないのである。
さらに当然ではあるがトレンチに大量に流れ込んでいる高濃度汚染水を含めこうした放射能汚染水が、地下水に到達していたことまで明らかになっており、漏洩している場所を確認、特定することすらできない、汚染の規模は計り知れず、従って歯止めをかけるすべさえ立てられない、東電はもちろん、原子力規制委員会も、経産省もどこも、誰も汚染水の全体像を把握できていないのが真実なのである。
第2の嘘は、「食品の安全基準は世界で一番厳しい」という、全くでたらめな嘘である。現在、日本政府の食品中の放射性物質に関する基準値は、食品からの被曝線量の上限を年間1ミリシーベルとし、野菜や米などの一般食品は1キロあたり100ベクレル、牛乳や乳児用の食品は1キロあたり50ベクレル、飲料水は1キロあたり10ベクレルであるが、チェルノブイリ原発事故後のウクライナでは、パンは1キロあたり20ベクレル、野菜は1キロあたり40ベクレル、飲料水は1キロあたり2ベクレルと、日本の数倍も厳しい基準値を導入している。こんなことは調べればすぐにでも分かる嘘なのに、平然と嘘をまかり通らせようとしている。
第3の嘘は、「食品や水からの被曝量は、日本のどの地域においても、100分の1である」という大嘘である。「0.3平方キロメートルの港内」ではこれまで1キロあたりのセシウムが71万ベクレルというアイナメが見つかっているが、その港の外の20キロ先で捕れたアイナメからも2万5800ベクレルが検出されている。そして東北地方全域で基準値を超える食品が多数報告、確認されており、「福島県二本松市でも、家庭菜園の野菜などを食べ、市民の3%がセシウムで内部被ばくしている。」(木村真三・独協医大准教授、9/9付毎日新聞)現実を全く無視する、これまた大嘘なのである。
さらに重大な第4の大嘘は、「健康問題については、今までも、現在も、そして将来も、まったく問題ない」と述べたことである。これほど福島県民を傷つける大嘘はないといえよう。8/20、福島市で開かれた県民健康管理調査検討委員会の席で2012年度の検査結果の中間報告がなされ、前回6月には12人だった甲状腺がんと確定診断された子供の数が、今回、新たに6人増えて計18人になったことが明らかになっている。子供の甲状腺がんの罹患率は、100万人に1人といわれており、福島県の人口が約200万人、そのうち今回の調査の対象の子どもたちは約36万人、明らかに人数が異常に多く、この事態を「今までも、現在も、そして将来も、まったく問題ない」と嘘をつき通す安倍首相の神経の底知れぬ異常さこそが際立っているといえよう。
こうして真実を「国家最大の敵」とすることとなった安倍首相は、もはやこうした大嘘を撤回も修正もできないところに自らを追い込み、深刻な泥沼にはまり込んでしまったといえよう。
安倍首相に「人々は最後にはその嘘を信じるだろう」という淡い期待を抱かせない、こうした虚構が崩れ、挫折せざるを得ない、広範で粘り強い闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.430 2013年9月28日