【投稿】福島第一原発の高濃度汚染水の海洋流出

【投稿】福島第一原発の高濃度汚染水の海洋流出
      —チェルノブイリ原発事故の3倍の規模になる—
                          福井 杉本達也 

1 政府も東電も国民も危機感が薄いが『現状は非常事態』
 東京発8月5日のロイターは「東京電力が汚染水の流出防止に取り組む同社の福島第1原子力発電所で生じた放射能汚染地下水について、原子力規制当局の関係者は5日、事態は「非常事態」にあるとの認識を示した。原子力規制庁の金城慎司・東京電力福島第1原子力発電所事故対策室長はロイターに対し、法定基準を超えた水量の汚染された地下水が、地中の遮水壁を突破し、地表に向かっているとした上で、東電の地下水くみ上げ計画は一時しのぎにしかならないとの見方を示した。金城室長はこう語る。東電の『危機感は薄い。だから東電のみに任せておけない。現状は非常事態と見る』」と報じた。今まさに、福島第一原発敷地全体が津波ではなく汚染水の中に水没しつつある。これまで地中にあり2年5か月もの間太平洋に垂れ流し続けられてきた高濃度汚染水が地中壁が海側だけに造られたことによって、どんどん水位が上昇し、今や地表にまで染み出そうとしている。3号機海側では、地上の放射線量は上昇し、地表面で8.5ミリシーベルト(mSv)/時。上空の空間線量も1.8mSv/Hと、数時間作業をしただけで年間の制限値の20mSvを超えることとなってきている(東電HP:「福島第一サーベイマップ平成25年8月2日 12:00現在」)。汚染水が地中にある間は、1~2mの地層によって放射線を遮蔽されてきたが、地表に染み出してしまえばあたり一面放射能で汚染され、1~4号機の核燃料プールからの燃料抜き出しどころか近づくことさえできず、冷却水の投入などの管理放棄=再び崩壊熱による温度上昇=爆発・原子炉崩壊=今度こそ日本消滅というストーリーさえ描かざるを得ない。

2 チェルノブイリ事故の3倍の放射能汚染になる可能性
 いったいどのくらいの汚染水が海に流出しているか。経済産業省は推定300トン/日という数字を出している(原発敷地への地下水の流入が1000トン/日、このうち600トンが海にそのまま流れ、400トンが原発の建屋内に入り、そのうちの300トンが建屋の地下で高濃度の汚染水と混ざり合い汚染されてそのまま海に流出していると推計:日経:2013.8.8)。この数字は今年・今頃始まったものではない。当初、2011年3月19日未明・東京消防庁が3号機核燃料プールの冷却のために大量の海水を投入した時点より始まっている。それから2年5か月ともなれば270,000トン近くの汚染水が海に垂れ流しされていることとなる。東電は23.5億ベクレル(Bq)/l(=雰囲気線量としては500mSv/H=1日も被曝すれば死亡する量(ブログ「院長の独り言」)2013.7.28、肉厚10~20mmの鋼管の非破壊検査に使われる放射線源イリジウム192=370億Bqと比較すれば、いかに凄まじい放射線量であるか)の高濃度汚染水が建屋トレンチ内にあると発表しているから、この量が1.1万トン、さらに建屋内に7.5万トンとしているので(東洋経済:2013.8.3)、地下に溜まっている高濃度汚染水は10^17(10の17乗=10京)Bq(=100PBq)オーダーの放射能量となる。2011年6月2日現在で東電が発表した各建屋内に漏洩した滞留水の放射能の推定量は総計で717PBq(717×10の15乗Bq Wikipedia)、このうち半減期8日間のヨウ素131はほぼ無くなっていおり、Cs(セシウム)134の半減期が2年なので半減していると仮定してCS134とCs137の合計は210PBqであり(7月27日の東電の調査分析ではCs134とCs137は同割合であるが)、ほぼ計算は合う。チェルノブイリ原発事故では放射性セシウムは最大で85PBqという推計であり(Wikipedia)、もし、福島第一の滞留汚染水が全量海に流れ出た場合には、大気中放出量の10倍(20PBq:東電推計値2012.5.24)=チェルノブイリ原発事故の3倍の放射能汚染になる。当初、政府はチェルノブイリ事故の1/10レベルと発表したが、国際的批判を交わすための全くのまやかしである。原発3基分であるから当然といえば当然であるが、しかもまだ放射能は原子炉からダダ漏れ状態にあり今後とも増加していくということである。

3 国際的批判は避けられない―海洋投棄は「海洋法に関する国際連合条約」違反
 8月7日の政府の「原子力災害対策本部会議」では、安倍首相は「東電のみに任せるのではなく国として対策を講じる必要がある」とし、税金を投入して対策に乗り出すという。 この対策は鹿島建設が提案した方式で「地下凍土方式の陸側止水壁建設」(地中をマイナス30℃の塩化カルシウムなどの凍結材を循環させることによって凍らせて水が通らない遮水壁を作る)と見られるが、400億円の建設費と、凍土を維持するために莫大な電力が必要とされ、しかも建設に2年も要すると見られる(福井:2013.8.8)。ニッチモサッチモ行かなくなった茂木経産相は同会議の中で汚染水の「基準値以下の海洋放出」の検討を指示した。
 政府は陸上からの汚染水の放出は船舶等からの『投棄』ではないので、放射性物質の海洋投棄の禁止を定めた『ロンドン条約』(廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約)には違反しないと強弁しているが(川田龍平参議院議員の質問主意書に対する答弁:2013.7.2)、『海洋法に関する国際連合条約』の194条「海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための措置」の第2項では「いずれの国も、自国の管轄又は管理の下における活動が他の国及びその環境に対し汚染による損害を生じさせないように行われること並びに自国の管轄又は管理の下における事件又は活動から生ずる汚染がこの条約に従って自国が主権的権利を行使する区域を越えて拡大しないことを確保するためにすべての必要な措置をとる。」とされ、明確な条約違反である。特に、同条3項では放射性物質のような「a.毒性の又は有害な物質(特に持続性のもの)の陸にある発生源からの放出、大気からの若しくは大気を通ずる放出又は投棄による放出」をできる限り最小にするための措置をとることを定めている。
 要するに政府はこの2年5ヶ月、同条約に違反することを知りながら、国際的な非難を浴びることを恐れていたため、密かに大量の放射性汚染水を海洋に垂れ流し続けていたことになる。しかし、どうにもならなくなり東電がギブアップしたので、今回改めて発表しただけである。因みにこの高濃度汚染水全量が福島県沖の大震災の震源域・東西500km×南北500km×深さ1kmの水域に流出したと仮定すると、その膨大な水量をも平均約1Bq/kgで汚染する量であり、厚労省の飲料水中の放射性物質の基準値:10Bq/kgの1/10にもなる。

4 国民負担はとりあえず250兆円―それ以上も
 では、放射性物質の拡散防止や賠償などのためどのくらいの予算を使う必要があるのか。チェルノブイリの事故処理対策では、ロシアは国家予算の1%、被害の大きいベラルーシは20%、地元ウクライナは10%を費やしている。日本の人口密度及び原発4基分という放射性物質の総量から考えた場合、日本は国家予算の10%=10兆円/年 程度の負担は避けられまい。長谷川幸洋は「シンクタンクの試算などで賠償と除染、廃炉費用だけで少なくとも数10兆円、最大250兆円にも上りそうな見通し」(「ニュースの深層」:2012.11.9)を述べている。東電の2012年度の売上高は約6兆円であるから、売り上げの1.7倍もの費用を払える訳がない。「東電融資に奔走―8.5%以上の値上げ必要―原発再稼働なしの試算示す」(朝日:2013.8.14)というが、費用を賄うには現在の電気料金の3倍の値上げが必要である(電気料金:標準家庭で8,000円/月が24,000円にもなる)。朝日新聞の記事は東電の負担が総額で10兆円を超すとしているが、ごまかし以外のないものでもない。250兆円なら、国民1人当たり200万円の借金である(財務省は6月末の国の借金を国民1人当たり792万円と発表したが)。
 これまで、政府は水俣病のチッソ方式(水俣病の原因企業・チッソに対する金融支援措置として、公害企業としてのチッソの原因者負担の原則を堅持しつつ、チッソが経常利益から水俣病患者への補償金を支払ったあと、熊本県による認定患者への補償金支払いのための県債、水俣湾公害防止事業に伴うチッソ負担金の立替のための県債部分について可能な範囲内で県に貸付金返済を行い、返済が出来ない分を国が一般会計からの補助していた。(2011 年のチッソ分社化まで))で、本来過剰債務の倒産企業を外見上生きながらえさせて、国家は前面に立たずに(国家無誤謬神話の元)放射能対策・賠償を行おうとしてきた。だから遮水壁もまともに作らず、被災者への賠償も値切り(もちろん放射線量の高い地域からの自主避難は認めず)、甲状腺などの被曝健康診断もおざなりにしているのである。しかし、売上6兆円の企業に何ができるのか。仮に純利益が1兆円あったとしても250年かかる。政府は何もしないでそっと垂れ流しを見て見ぬふりをしようとしてきた。「再稼働」などという寝言を言っている場合ではない。その破綻が目に見える形で国際的に明らかになったのが今回の海洋への汚染水流出である。もうすぐ(事故3年後には)高濃度の汚染水が米国西海岸やカナダに漂着する。ロシア―オホーツク海やベーリング海も汚染される。中国・ASEAN-東シナ海や南シナ海も危ない(You Tube シミュレーション「太平洋放射能汚染10年間予想図」)。日本は国際的に袋叩きにあうしかない。 

 【出典】 アサート No.429 2013年8月24日

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 パーマリンク