【投稿】自民総裁選と沖縄知事選をめぐって 統一戦線論(52)
<<どちらも、逃げる>>
自民党総裁選をめぐる安倍首相と石破茂・元幹事長、沖縄知事選をめぐる佐喜眞淳前宜野湾市長と玉城デニー前衆議院議員、それぞれの候補者討論会、いずれも安倍首相、佐喜眞氏、両氏は、本質的な最大の争点を明らかにする政策討論から逃げまくる姑息な実態が浮かび上がった。
安倍首相は、石破氏の政策テーマごとの2、3時間の討論会の開催要求を拒否し、総花的な上っ面の討論会に3回だけ応じた。
佐喜眞氏も、当初自己の支持団体主催の討論会にだけ出席し、沖縄県政記者クラブ主催の立候補予定者討論会にはそっぽを向いて出席を断っていたが、批判の高まりに、「不参加は事務方の不手際によるもの」と釈明してやむなく応じた。
いざ開いてみると、安倍首相、佐喜眞氏、どちらも本質的な議論を避け、話をはぐらかし、論点のすり替えに徹した。安倍首相に至っては、「正直」と「ウソ」が問われた森友・加計学園をめぐる公文書の改ざん問題では、昨年の総選挙で「国民の審判を仰いだ」とすでに決着済みであるかのような開き直りである。公文書改ざんが明るみに出たのは今年に入ってからのことである。ウソを平気で平然と日常茶飯事のように垂れ流す安倍首相のファシスト的体質がここでも露呈されている。
佐喜眞氏も安倍首相とそっくり、瓜二つである。ウソとごまかし、すり替えである。佐喜真氏は、辺野古基地についての態度表明を徹底的に避け、あたかも「中立」でもあるかのように装い、逆に辺野古反対の主張を「県民を分断する」と批判。佐喜真氏は、玉城デニー氏から、佐喜真氏を含む県内全41市町村長が署名した、普天間基地の即時閉鎖・撤去、「(辺野古を含む)県内移設断念」を求めた「建白書」の精神を堅持するのか、放棄したのかと問われたのに対し、「その精神は十分理解している」としながら、しかし政府の方針に異を唱えたら「(普天間の)固定化を目指しているのかと言われかねない。われわれには限界がある」、「安全保障、基地は国が決める。われわれには限界がある」とついに新基地建設容認の本音を吐露してしまっている。地方自治そのものを自ら否定する、立候補資格すら疑われる論法である。沖縄県民を分断しようとしているのは、安倍政権なのであり、その手下、手先となることを宣言しているようなものである。
佐喜眞氏は、知事選の事務所びらきが那覇市で行われた8/24、記者団の囲み取材で「私はメンバーでもないし、現在でもメンバーでない」と、過去を含め改憲右翼団体の日本会議に所属した事実はないと強調している。ところが、宜野湾市長時代には「私も加盟している一人」と議会で明言しており、2014/5/10、日本会議沖縄県本部をはじめとする実行委員会が呼びかけた集会では、教育勅語を保育園児に唱和させ、佐喜真氏は「このような式典を行われたことを心よりお祝い申し上げる」と「閉会の辞」まで述べている。まさにこの右翼歴史修正主義の政治姿勢においても、安倍首相の森友学園・教育勅語唱和路線と瓜二つである。過去の自らの行動・発言を平然と否定し、ウソを垂れ流す点においても両者はまったく瓜二つなのである。
<<マヨネーズ並みの地盤に軍事基地?>>
この公開討論の中で、佐喜眞氏の地方自治権まで否定しかねないごまかしとすり替えに対して、玉城デニー氏は、沖縄県が行った辺野古埋め立て承認撤回について、建設予定地の超軟弱地盤の問題などを明確にし、「公有水面埋立法に基づき適正に判断して行われた。県の判断に国が従うのは至極当然のことだ」と主張。この沖縄県の埋め立て承認撤回に対し国が法的対抗策に出た場合、「あらゆる手段を講じて、新基地建設阻止に向けて断固たる対応をしていきたい」と表明し、その法的根拠を示し、「沖縄県の権限によって公有水面埋め立て法に基づき、法律に基づいた地方自治体がとったきちんとした手続き」であることを明らかにしている。
さらに玉城氏は、撤回以外に移設を止める方策についても「岩礁破砕の許可など様々な知事の許可がある。司法で解決させるという国の姿勢は本当に正しいのか、知事として明らかにしていきたい。米国民にも不条理を訴えていきたい」と述べ、「軟弱地盤や活断層の存在を鑑みると、現実的に辺野古移設は無謀であり、その事実を突き付ける」と、その主張は明確である。
そして決定的なのは、辺野古基地建設は無謀であるばかりか、そもそも不可能であるという厳然たる事実が浮かび上がってきていることである。北上田毅氏らが、沖縄防衛局が2014年から毎年実施している海上ボーリング調査の資料公開請求を拒否し続けてきたが、今年3月初め、初公開せざるを得なくなった。それによると、大浦湾埋め立て現場、水深30mの海底が厚さ40mにわたってマヨネーズ並みの超軟弱地盤であることが明らかにされている(岩波書店『世界』2018年10月号、北上田毅氏「マヨネーズ並みの地盤に軍事基地?」)。北上田氏は「たとえ政府の言いなりになる知事が誕生しても、この軟弱地盤問題を解決することは極めて困難であろう」と指摘している。しゃにむに基地建設に突き進む安倍政権の無謀な姿勢は、いかに虚勢を張ったとしても、いずれ遠からず破綻せざるを得ないのである。
9/10に発表された玉城デニー氏の政策(「誇りある豊かな沖縄。新時代沖縄」)は、主要政策として、○「万国津梁(しんりょう)会議」(仮称)を設置、○「国際災害救援センター」(仮称)を設置、○「観光・環境協力税」(仮称)を導入、○「琉球歴史文化の日」を制定、○日米地位協定の抜本改定、主権の行使を求める、○「やんばるの森・いのちの水基金」(仮称)を創設、○中学生・高校生のバス通学無料化をすすめる、○公的施設への「放課後児童クラブ」設置を推進、○子育て世代包括支援センターを全市町村に設置、を掲げ、「県民の覚悟とともに貫く三つのNO」として、
1、辺野古新基地建設・オスプレイ配備 NO
2、不当な格差 NO
3、原発建設 NO
を明らかにしている。論点、政策に関する限り、明らかに玉城デニー氏が佐喜眞氏を大きく引き離している。佐喜眞陣営は、沖縄知事選の最大の争点である辺野古米軍基地建設問題には徹底した争点隠しで乗り切り、ウソとごまかし、デマ、自民・公明・維新の利益誘導・組織選挙にすべてをかけている。玉城・佐喜眞、両陣営の激しいつば競り合いが続いている。
<<「オール沖縄」の真価>>
一方、自民党総裁選は、すでに論戦に入る前から、ハト派を任じる岸田派が安倍首相に屈服した時点で、改憲・核武装という共通の主張からして、似た者同士のすれ違いの感が否めない。それにもかかわらず、石破氏の「正直、公正」というごく当たり前の主張に対して、自民党内から「安倍首相への個人攻撃だ!」と騒ぎまわる異常さは、噴飯ものと言えよう。
論点の一つである憲法9条改定に関しては、安倍首相の性急な9条改定論に対して、石破氏は「国民に理解してもらう努力が足りない」と、9条の早期改正に慎重な姿勢を示してはいる。
しかし同時に、石破氏は「必要なもの、急ぐものから憲法改正すべき」と主張し、具体的な改憲項目として参院選挙区の合区解消や緊急事態条項の創設を挙げている。問題は、この石破氏が「憲法に加える必要性がある」、「優先度が高い」とする緊急事態条項は、きわめて危険なものである、という認識の欠如である。自民党改憲草案の緊急事態条項は、国民の基本的人権を停止させ、権力を時の政府に一元化する全権委任条項が入っているのである。1933年、ナチス・ドイツのヒトラー政権の独裁体制の確立に道を開いた、あの全権委任法と本質的に変わらないものである。当然、安倍首相もこの緊急事態条項を憲法改定に押し込もうとしている。この際、災害に乗じて憲法改定を強行しようという意図も見え透いている。
『週刊金曜日』の編集委員である中島岳志氏は「将来の首相候補と目されている石破氏が、日米安保や歴史認識問題で首相に正面から異を唱える姿を見たい」と自民総裁選の論点に期待を表明されている(同誌 2018/8/31号)。しかし、たしかに無視できない両者の違いはあれども、あくまでも相対的であり、憲法改定に関しては戦術的、スケジュール的相違の範囲を出ていない。むしろ両者に危険な共通点をあぶりだし、問題点を明らかにすることがより重要であろう。
ただし、石破氏が、災害の大規模化、多発化に直面して「防災省の創設」を提唱し始め、菅官房長官らが直ちに否定的な姿勢を示していることからすれば、自衛隊をそっくりこの防災省に根本的に作り替えることこそが提起されるべきであろう。災害支援と平和に最も貢献するものとして、野党側からこそ提起されてしかるべきであろう。
いずれにしても自民総裁選は、事実上、今やいかなる「安倍圧勝」かに絞られてしまっている。
しかし、沖縄知事選は必死のつばぜり合いである。
沖縄県選出の参議院議員・会派「沖縄の風」幹事長の伊波洋一氏は、「玉城デニー候補には厳しい選挙だ。前回のオナガ候補は、なかいま候補に約10万票差だったが、下地みきお候補も約7万票獲得した。今回、下地みきお氏は相手側を応援するので3万票差になる。前回中立の公明も今回は相手側を応援する。昨年衆院比例で公明10万票以上、必死に取り組まなければ勝てない。」と訴えている(2018/9/14 ツィート)。
自公維側の有無を言わさぬ組織戦に対抗して闘うには、一丸となって闘う、そして草の根から統一戦線を構築する、そのような「オール沖縄」の真価をなんとしても発揮しなければならない。各党党首勢揃いによる街頭演説の順番問題でもめあったり、地道で冷静な集票活動、地域分担、各層対策、宣伝活動、その責任分担、集約等々について全く不明確なままでは、各党、組織バラバラの選挙戦に終始してしまい、本来有利な情勢を生かせないことは自明である。「オール沖縄」を支援する全国の「市民と野党の共闘」、統一戦線の真価が問われている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.490 2018年9月