【本の紹介】金融緩和でデフレ脱却はできるのか

【本の紹介】金融緩和でデフレ脱却はできるのか

★ 金融緩和の罠         萱野 稔人編 集英社新書   2013-04-22
★ 金融緩和で日本は破綻する 野口 悠紀雄 ダイヤモンド社 2013-01-31 

 アベノミクスと言われる安倍政権の経済政策だが、その中心にいるのが「リフレ論者」達である。彼らの主張は、「金融緩和によって通貨流通量を増やせば、インフレになって、デフレから脱却できる」というのだ。
 白川前日銀総裁は、安倍政権発足時に、インフレターゲット論を受入れた。続いて日銀総裁に就任した黒田総裁は、4月4日に行われた金融政策決定会合で、「異次元金融緩和」策を決定し、市中の国債買入を増やすこと、短期国債だけでなく長期国債も対象とするとした。
 安倍政権発足以前の、民主党政権が解散総選挙を明言した時点が今回の円安の出発点である。総選挙での公約で、自民党が金融緩和策や大型補正予算など、拡大政策を打ち出し、選挙では政権交代が起こるのが確実となった時点から円安が進行する。
 そして、円安と同時に、株式市場もそれに反応し、輸出企業を中心に株高が進行した。
 書店には、「今が投資のチャンス」「乗り遅れるな」のような投資本が溢れ出し、あたかもアベノミクスの成果でもあるような印象を与えている。
 しかし、本当にアベノミクスによって日本経済を立て直すことができるのか。アベノミクス礼賛本が溢れるなか、アベノミクス批判本の中でも注目すべき2冊を紹介してみたい。
 
 <金融緩和でデフレ脱却はできない>
 「金融緩和の罠」は、萱野稔人氏と3人のエコノミストとの対談集である。
 ます、登場するのが、「デフレの正体」の著者、藻谷浩介氏である。氏の従来の主張を整理すれば、長く続く日本のデフレ(小売消費高の逓減と価格の下落傾向)の原因が、90年代から始まる「生産年齢人口の減少」による購買力の低下であり、賃金の下落が一層拍車をかけて、モノの値段が下がり続けているということであろうか。
 対談の中で、藻谷氏は、「何よりも最大の問題は、金融緩和の始まった90年代後半以降の日本の景気低迷は貨幣供給量の不足が引き起こしているわけではないということです。足りないのはモノの需要です。今の日本では貨幣を増やしてもモノの需要を増やすことができません。・・・・リフレ理論は、そもそも『供給されたお金はかならず消費にまわる』という前提に立って構築された理論です」が、「ところが日本の現実は、企業も家計も金融機関も資本収支は黒字で、政府だけが赤字です。つまり、企業も家計も金融機関も、投資しても消費しても使い切れないお金を余して、国債を買っているわけです。リフレ論者が検証もせずに当然とみなしている前提が事実としては崩れてしまっているのです。」
 結論として「対処策をまとめると、①給料アップなど、高齢富裕層の貯蓄を若者の給与にまわすあらゆる努力、②女性の就労を促進し女性経営者を増やすこと、そして③外国人観光客の消費を伸ばすこと」だという。
 
 <積極緩和の長期化がもたらす副作用>
 次は、河野龍太郎氏との対談である。民主党政権時代に河野氏を日銀審議委員として起用するという国会同意人事案が自公・みんなの党の反対で否決されたその人であり、金融緩和に反対という主張をしてこられている。
 1995年から開始されている金融緩和政策、その長期化による副作用について、氏は「ひとつに、クラウディング・アウトの助長と言う問題がある。それは、本来財政支出の増大が引き起こす金利上昇による弊害のことを言います。国が財政政策によって借金を増大させると、金利が上昇し、そのせいで民間が迷惑をこうむる。つまり資本コストが上がるので、民間消費や設備投資が抑制される、それがクラウディング・アウトです。」
 「いま、日銀はゼロ金利政策をおこなうと同時に、資産買入等の基金を通じて、国債を大量に購入していますよね。ゼロ金利政策や国債買い入れ政策を長期化・固定化することが、資源配分をゆがめて成長分野への資金供給を抑制し、実質的にクラウディング・アウトと同じ状況を発生させてしまうんです」として、金融機関では、リスクをとって成長分野に投資をするより、国債を購入するほうが有利だ、という状況に陥っていると指摘される。
 さらに、金融緩和によって世界中でバブルが引き起こされる危険性について述べられている。サブプライム・ローン問題を契機に、主要各国が大胆な金融緩和を始めた。それが新興国に波及し、バブル的状況を作りだし、また原油や小麦大豆などのコモディティのバブルを引き起こした。「大国には極端な金融緩和をしないというルールづくりが必要になってくる。いずれにしても日本が考えることは、為替介入や金融緩和による単純な円高是正ではありません・・・。」と。
 
 <金融緩和で日本は破綻する>
 次の本は、野口悠紀雄氏の「金融緩和で日本は破綻する」である。
 野口氏が、前書きで強調するのは、次の点である。まず、これまでの金融緩和策が、実体経済を活性化させることができなかったということ。そして、国債の日銀引き受けは、インフレになるが、それにより資本逃避が生まれ、もはやコントロールはできない。円安とインフレの悪循環が生じ、日本経済が急速に破壊される危険性が高い。そして日本経済の活性化は、金融緩和や財政拡大では解決せず、構造改革によるしか方法はない、これが本書の結論と言える。
 私が注目するのは、「包括的な金融緩和策」導入の真の目的分析だ。
 「08年9月にリーマン危機が発生し、税収が激減した。これによって、国債の発行額が急増したのである。それまでは、毎年30兆円を超えることがかく、06,07年度には20兆円台まで減少していた新規国債発行額が、09年度にはいきなり50兆円になった。国債の供給が急増した反面で、需要面では大きな変化がなかった。貸付はそれまで減少してきたものの、景気が回復すれば増える可能性もある。これによる国債価格の暴落と長期金利の高騰を防ぐことが『包括的な金融緩和策』の隠された真の目的だ。」との指摘である。
 日本のゼロ金利政策は、経済や企業の投資のためではない。国債の暴落と長期金利の高騰によって国家財政が破綻する(している?)のを隠蔽しようとしているのだ。
 
 <バブルは必ず破綻する>
 世の中は、安倍バブルに酔っている。円安の進行と株高で、安倍政権の支持率も70%を維持している。しかし、この急激な変化こそがバブルであろう。海外からの投資ファンドが、日本をターゲットにしている。アベノミクスの化けの皮が剥がれる時が必ず来る。
 紹介した本の内容をすべて容認しているわけではないが、少なくとも現在の「超・異次元緩和策」の問題点を解明している点を評価して、紹介させていただいた。(2013-05-13佐野秀夫) 

 【出典】 アサート No.426 2013年5月18日

カテゴリー: 書評, 経済 パーマリンク