【投稿】浮上する日本問題 

【投稿】浮上する日本問題 

<収束する「北朝鮮危機」>
 4月30日、約2か月間続いた米韓合同軍事演習が終了した。演習期間中、核戦争をも辞さないような姿勢をとり続けた北朝鮮も、開城工業団地問題や韓国系アメリカ人の拘束という「交渉カード」を持ちながら、ミサイルを撤去するなど、なし崩し的に臨戦態勢を解除している。
 この間、北朝鮮のパフォーマンスに呼応する形で、日本政府は今にも朝鮮半島で武力衝突が発生するかの様に、弾道ミサイルの迎撃態勢を常態化させ、マスコミもこれに追随し、盛んに危機キャンペーンを繰り広げ、日本は「半島危機祭り」の様相を呈した。
 とりわけ「スカッド」や「ムスダン」など中距離弾道ミサイルに関しては、北朝鮮東側沿岸に配備されたことから、発射は確実視され、「Xデー」は-金日成誕生日の4月15日などと、勝手に指定する始末であった。
 ただ、安倍政権は本気で北朝鮮への構えを考えていなかったことは明らかであり、これを軍拡-改憲の口実に利用したのである。
 「危機」が継続中の4月下旬、麻生副総理ら安倍内閣の閣僚4人が相次いで靖国神社を参拝し、中国、韓国の厳しい反発を招いた。本当に北朝鮮を脅威と認識していれば、日中韓の連携を自ら破壊する暴挙には出なかったであろう。
北朝鮮に対しては「中韓は頼みにならないので神頼み=戦勝祈願に行った」とでもいうのだろうか。
 関係国の一連の動きの中で際立ったのは安倍政権の異常さであり、北朝鮮危機が一応の収束に向かう一方で、日本問題が浮き彫りになってきたと言えよう。

<暴走する安倍政権>
 日本政府が、不誠実、不透明な対応を重ねている間に、東アジアを巡る政治状況は大きく変化した。閣僚、とりわけ麻生副総理の靖国参拝により、日中歴訪を予定していた韓国の尹炳世外相が訪日を中止した。
 4月24日予定通り中国を訪れた尹外相は王毅外相と会談、中韓ホットラインの開設や、経済関係の一層の拡大に加え、政治レベルでの関係強化を図ることを合意した。3時間にわたる会談の中で日本問題も議題になったことは想像に難くない。
 これについて日本政府は「外相の来日予定は固まってはいなかった」などと開き直る始末であり、あまつさえ安倍総理は同日の参議院予算委員会の答弁で「どんな脅しにも屈しない。閣僚の参拝の自由は守る」などと中国、韓国の懸念をヤクザの因縁かのように貶めた。
 また時を同じくして、自民党の教育再生実行本部は教科書検定基準の「近隣諸国条項は役割を終えた」として見直しを提言、中国、韓国への配慮は不要と宣言した。
安倍総理は前日の23日には同委員会で「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と述べ、1995年の村山談話を事実上否定しており、一連の発言の前には北朝鮮の暴言も霞もうというものである。

<アメリカもあきれる>
 こうした安倍政権の暴走にはオバマ政権も懸念を強めている。4月22日国務省は記者会見で日韓双方に冷静な対応を呼びかける一方、25日には同省が非公式ながら外交ルートを通じて、「歴史問題に関する安倍内閣の言動が中韓を刺激し、東アジア情勢の混乱を生じさせかねない」旨を伝え、日本政府に自制を求めていたことが明らかになった。
 5月1日には、アメリカ連邦議会調査局が報告書で安倍総理を「強硬なナショナリスト」と指摘、閣僚の靖国参拝し対して中国、韓国から批判を浴びており、東アジア地域の安定を揺るがし、アメリカの利益を損なうおそれがある、と懸念を明らかにした。
 さらに同報告書は安倍総理について、過去の日本帝国主義による侵略や、アジア諸国の犠牲を否定する歴史修正主義を信奉、と指摘するなど、今後の外国政策の展開にも疑義を呈している。要は正しい歴史認識と国際感覚が欠如していると指摘しているということだ。
中国、韓国のみならず「強固な同盟国」のアメリカからも、厳しい視線が浴びせられるなか、4月28日の主権回復記念式典で「君主主権回復祈念」ともいうべき「天皇陛下万歳」を絶唱した、安倍総理や閣僚はこぞって外遊に出かけた。しかしその間も重要人物からの問題発言が相次いだ。

<国際感覚の欠如>
 5月4日訪印中の麻生副総理は、ニューデリーでの講演で「過去1500年以上の長い間、中国との関係がスムーズにいった歴史はない」と仰天の歴史観を披露した。
 麻生副総理がどのような史実を持って、このような発言を行ったのか理解に苦しむが、漢字が苦手で総理時代に大恥をかいたから、漢字を発明し日本に伝えた中国に嫌悪感を抱いているのでは、と思われても仕方がないだろう。
 追い打ちをかけたのが猪瀬東京都知事である。4月の訪米中、オリンピック招致を巡り、トルコ批判からイスラム世界に対する誹謗中傷を述べていたことが、ニューヨーク・タイムズによって暴露された。
 猪瀬都知事は発言を認めざるを得なくなり謝罪したが、直後にトルコを訪問した安倍総理にとってはまことにタイミングの悪い「内患外遊」となった。国際的には安倍総理のみならず周辺にも排外主義者が跋扈していることが広く認知されたわけである。
 帰国した安倍総理は、背番号「96」のユニフォームを纏って浮かれるという、猪瀬都知事以上のIOC行動規範違反=スポーツの政治利用にうつつを抜かしていた。トルコで形ばかりの謝罪をしても、実は何もわかっていないという国際感覚の欠如はここでも発揮された。

<朴大統領は厚遇>
 こうした醜態を尻目に訪米した韓国の朴槿恵大統領は、日本への批判を展開した。5月7日のオバマ大統領との首脳会談で朴大統領は「日本は正しい歴史認識を持つべき」と安倍内閣に対する不満を露わにした。
 朴大統領は翌8日には上下両院合同会議で演説し、このなかで北東アジアでは歴史問題で国家間の衝突が絶えず、政治や安全保障での協力関係が進展しない「アジア・パラドックス」にあると指摘、「歴史に目を閉ざす者に未来は見えない」と、名指しは避けながらも日本政府を厳しく批判した。
 オバマ大統領や議会の反応は伝えられていないが、価値観を同じくする朴大統領の発言は説得力を持ったであろう。昼食をはさんでの首脳会談、共同記者会見、そして議会演説と2月の日米首脳会談と違いは歴然としている。
 さらに、朴大統領は民生分野での連携を推進する「北東アジア平和協力構想」を提言、同構想へのアメリカの参加を呼びかけ、北朝鮮参加の可能性にも言及した。
 東日本大震災と原発事故、さらには鳥インフルエンザ問題が惹起している現在、この地域での国際協力の進展が求められており、韓国の構想は適宜な提案と言える。
 本来なら原発事故の責任と防災技術の支援という観点から、日本がイニシアをとるべき課題であるが、安倍政権にはそうした発想も能力もない。中国包囲網に血道を上げる安倍政権は、インド、ベトナムへの飛行艇や巡視船の輸出、供与など軍事的技術の移転を進めようとしている。
 一縷の光明として5月5,6日北九州で、日中韓環境相会合が開かれたが、中国の環境相は欠席した。(これを非礼と論難する一方、会談したかも定かでない川口参議院環境委員長の中国滞在延長を「国益」と擁護するのは、安倍政権として論理矛盾であろう)

<空気読み始めた安倍総理>
 このように近隣諸国に対しては強硬な対外姿勢をとってきた安倍政権であるが、展望は開けていない。「自由と民主主義の価値観外交」と言いながら、今回の外遊は価値観に疑問符のつくロシア、中東であった。勇躍乗り込んだクレムリンでは北方領土交渉の再開は決まったものの着地点は見えていない。
 頼みのアメリカからも冷たい視線で見られていることにようやく気付いてきたのか、ここにきて安倍総理は軌道修正を図ろうとしているようだ。
 5月7日の参議院予算委員会では、「ネット右翼」などレイシストのヘイト・スピーチに関連して「極めて残念」と述べた。「支持層」に対する裏切り、トカゲの尻尾切りであろう。
 先の米韓首脳会談を罵っているのは世界中で北朝鮮とネトウヨぐらいである。同じと思われてはかなわないと考えたのか。引き続く翌8日の同委員会に於いては「アジアの方々に多大な損害と苦痛を与えた」と村山談話を踏襲した答弁を行った。安倍総理はこの先しばらくは本音を封印し沈静化を図るだろうが、油断はできない。
 参議院選挙までは残り少ない。今後は日本の民主勢力の手によって、安倍政権の暴走を封じ込める取り組みの強化を急がねばならない。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.426 2013年5月18日

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