【投稿】マネーゲームとシェールガス「革命」?
福井 杉本達也
1 ヘッジファンドの「演出」する“偽装”株高
5月8日の毎日・朝日・日経の朝刊一面トップ記事は「東証14,000円台回復」であった。我々は毎日NHKニュースの最後に本日の株価と為替相場を聞かされる。しかし、本当に必要なニュースなのであろうか。我々の中で毎日の株価の上げ下げに一喜一憂する者がどれだけいるのか。まして、50銭、1円の為替相場の変動に直接関係する者がどれだけいるのか。アダム・スミスは市場経済を「神の見えざる手」という表現で価格メカニズムの働きにより、需要と供給が自然に調節され、結果として社会全体において適切な資源配分が達成されることを説いたが、果たしてそうであろうか。
4月30日付の『ブルームバーグ』は国民的カジュアルウエアの代名詞になった「ユニクロ」株が業況の実態とかけ離れた投機的売買の温床になっていると指摘する。ファーストリテイリング の日経平均における構成ウエートは、26日時点で10.3% 。これは、同指数での時価総額比率1.4%と大きく乖離(かいり)し、ウエートから見た存在感は、東証1部の時価総額上位5社であるトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ホンダ、JT、NTTドコモの合計(5.2%)のおよそ2倍だ。ブルームバーグ・データによると、過去2年間の日経平均の上昇率51%に対する同社の寄与度は16%となっていると指摘する。日経平均の2年間の値上がりが約5,000円として1,600円である。異常というほかない。
ファーストリテイリングの株は柳井一族が2/3を保有しており、浮動株が極端に小さく実態はヘッジファンドが操る仕手株と化している(『東洋経済』2013.3.23)。「神の見えざる手」ならぬ「ヘッジファンドの手」が日経平均株価を操作しているのである。「ユニクロ」は就活学生の間では「ブラック企業」といわれている。繁忙期の労働時間は月間300時間を超え、入社後3年以内の離職率は46~53%にも上る(朝日:20130423 『東洋経済』2013.3.9)。「低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」と堂々と発言する会社の株で株高が「演出」され、それを官房長官が「ヨイショ」するアベノミクス相場とは国家的詐欺以外の何物でもない。
2 シェール「革命」?という詐欺
国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー展望2012年版』によれば米国のエネルギーは様変わりしており、シェールガス・シェールオイル「革命」により、2020年頃までにサウジアラビアを抜き世界最大の石油産出国になる。米国はエネルギーで自給自足できるようになるというものである。アメリカのメディアも日本の政府・メディアも盛んにこの話題を取り上げている。
確かに、2005年頃よりのシェールガス・オイル「革命」で米国のガス生産量は急激に拡大し、価格は1/3に下がってきている。しかし、今後世界最大の石油産出国となるというのは眉唾である。今年4月には資源開発会社のGMXリソシーズが破綻している(日経:2013.4.20)。シェールガスが本当にIAEの述べるような中身ならば、採掘企業が倒産することなどありえない。
ニューヨーク・タイムズは石油会社は、「故意に、不法なまでに採掘生産量と埋蔵量を多く見積もっている」とし、「地下の頁岩からのガスの抽出は石油会社がそうみせかけているよりももっと難しく、もっとコストがかかるはずであると指摘している(ナフィーズ・モサデク・アーメド「大いなるペテン・シェールガス」『ル・モンド』)。シェールガスは在来型ガスと比べて貯留槽は不均質で包蔵メカニズムは複雑である。「革命」?の技術は水平坑井(水平にガス井戸を掘る)・水圧破砕(貯留槽の岩石に人工的に割れ目をつくりガスの流路を形成)・マイクロサイミックス(微小地震を起こして破砕した岩石を分析・評価する)の三要素技術といわれるが、1井当たりの生産性は在来型のガス井と比べると1桁低いといわれる(伊原賢JOGMEC『石油・天然ガスレビュー』2011.1)。技術が複雑であればあるほどそれに要するコストは上昇する。シェールガスは超広大な地域に散在し、地中深くにある。鉱物資源が「資源」として採掘されるのは、濃縮されて鉱床になって存在し、アクセスしやすい場所に集中的に大量に存在していることである。シェールガスはこの対極にある。そのため巨額の投資が必要になり、大きなリスクを伴う。在来型ガスと比較すればそのコストは数倍も高いはずである。
経験上、シェールプレイの多くは急激な生産減退に見舞われてきている(Lucian Pugliaresi:JOGMEC『石油・天然ガスレビュー』2011.11)。雑誌『ネイチャー』によれば、シェールガス井の生産性は最初の1年の採掘で60~90%低下するという。ガス井が涸れてしまうと大急ぎで他の個所を採掘し生産量を維持し、資金返済に充当していく。このような自転車操業で数年間は人の目を欺くことができる(アーメド:同上)。
『フィナンシャル・タイムズ』はシェールガス企業が「自己資本を2倍、3倍、4倍さらに5倍も上回る額を使い果たして土地を購入し、井戸を掘り自分たちの計画を実現しようとした」と指摘している。ゴールドラッシュの資金繰りのためには、膨大な金額を「複雑で面倒な条件で」借りている。1バレル100$を超す国際的な石油・ガスの高騰により、有り余る膨大な資金がシェールガス開発に投入されることとなった。しかし、この投機資金は儲けがないと分かればすぐ撤退するものである。シェールガス開発の循環はガス価格の地域的な低下により早晩終わらざるを得ない。『フィナンシャル・タイムズ』は「シェールガス井の生産性の持続しない一時的性格を考慮して、掘削は続けられなければならない。シェールガス価格は高くなり、高騰すらして落ち着くだろう。過去の負債だけでなく現在の生産にかかる費用に充当するためである」と指摘する(アーメド:同上)。米国内の天然ガス価格が下落しているのは、シェールガス生産地が既存のガスパイプライン近く、新たなパイプライン敷設をあまり必要としないこと、カナダからの輸入ガス・メキシコ湾からのガス、在来型ガスと競合し、ガスが米国内に留まっていてはけ口がないことによって米国内で一時的な過剰生産になっていることによる。しかし、これを日本に液化して輸出しようとすれば、天然ガス液化プラント・港湾設備・LNGタンカーが必要となる。それはかなり高いものとなる。
3 シェールガスで「脱原発」は目眩まし
「シェール革命で日本は激変する」(『東洋経済』2013.2.16)、「シェールガス1兆円支援、政府・債務保証」(日経:2013.2.15)、「シェールガスが変える世界力学」(寺島実郎:『エコノミスト』2013.1.8)など、多くのメディア、「有識者」、「エコノミスト」が、シェールガスに対して過大な期待を煽っている。しかし、大騒ぎしているほどには、日本はシェールガス「革命」の恩恵を受けられない。政府・マスコミなどが米国のシェール「革命」を声高に叫ぶ背景には対ロシア戦略が見え隠れする。4月29日に安倍首相はプーチン大統領との首脳会談を行ったが、極東ウラジオストックのLNG基地の共同開発構想には「戦略的な消極姿勢」を決め込んだという(日経:4.30)。ロシアからのLNG輸入は2008年まではゼロだったものが、ここ数年で急激に増え最近では輸入額全体の1割を占めるまでになっている。今後の輸出余力から考えればロシアからの輸入しかない。原発の再稼働ができない状況の中で、LNG火力発電のポジションは急速に高まっている。高止まりするLNG価格を下げるためにも、天然ガスを始め資源開発でロシアとの関係改善を急がざるを得ない。しかし、対米従属・売国を国是とする日本の支配層にとってはロシアとの関係改善は不都合である。国民にはその現実を知らせたくないのである。シェール「革命」?は実態の目眩ましの役割を果たしている。
安倍首相はロシア訪問に引き続きUAE、サウジ、トルコを訪問に原発技術の売り込みに回った。何のエネルギー確保手段も持たず、シェール「革命」詐欺を振りまき、国内では電気料金を上げて負担を国民に転嫁しつつ(電力に限れば石炭火力の利用を図ることが現実的である)、海外では米仏核企業の提灯持ちとして核の売り込みを図ることとは全く整合性はとれない。いかに現政権が売国的であるかを象徴している。
【出典】 アサート No.426 2013年5月18日