【コラム】ひとりごと—「孤独死」と「自立死」の違い— 

【コラム】ひとりごと—「孤独死」と「自立死」の違い— 

〇福祉事務所に勤務していることもあり、最近孤独死が話題になることが多い。自室で亡くなって発見されたのが数日後、みたいな話が1月に1件程度はあると思う。当然自治会や民生委員さんなどは、ひとり暮らしの高齢者の見守り活動などに尽力されている。それでも「孤独死」は増え続けている。〇主に都市部での発生が多い。そして、女性よりも明らかに男性の比率が高い。さらに、意外に思われるが、50才台・60才台の男性が多い事はあまり知られていない。〇女性の場合は、ご近所付き合いも自然と生まれるが、男性の場合は、職場から離れると地域の付き合いや関係を持たずに、そもそも普通の生活からして「孤独」に暮らしているケースが多いのだろう。〇今から半世紀程前(?)だが、私も生活保護のケースワーカー時代に、単身の糖尿病患者が自宅で亡くなっているのを訪問して発見した事がある。高齢者が多くなったこと、単身世帯が増えたこと、そして何よりも貧困が蔓延していることが背景にある。〇行政と地域で何ができるのか、そんな問題意識を持っていたところ、興味深い本に出会った。「ひとりで死んでも孤独じゃない<「自立死>先進国アメリカ」(矢部武著 新潮新書2012-2-20)である。矢部氏は米国での生活歴が長く、米国内の高齢者住宅や支援センターでの取材を基にこの本を書かれた。〇表題にあるように、ひとりで死んでも孤独じゃないとアメリカ人は考えているということである。まず、アメリカ人は、子育ての段階から、自立して生きることを徹底して子どもに教えるという。子どもが成長して結婚した場合、親との同居は少なく、子どもは独立して家庭を持つのが当たり前で、親は夫婦、または単身生活となるが、「子どもの世話にはならない」と考えるのが普通だという。〇先ほど述べたように、日本では単身高齢者が増えているという認識だが、著書の中で、筆者は、日本、そして欧米の単身世帯率を比較している。2010年のOECD調査によると、単身世帯の割合は、日本29.5%に対して、ノルウェー37.7%、フィンランド37.3%、デンマーク36.8%、そしてアメリカ・ニューヨークのマンハッタン地区では半数以上が単身世帯だという。しかし、欧米でもアメリカでも、「孤独死」などが問題になっていないのである。「自宅でひとりで死ぬ」ことが「問題」になっているのは、とりあえず「日本」だけというのが現実なのである。〇本書では、まずカリフォルニア州バークレーの高齢者住宅に住む、ワウフさんの話ではじまる。この方自身も単身高齢者であるが、高齢者への配食サービスのボランティアでもある。アメリカ全土では100万人がこのサービスを受けており、ミールズ・オン・ホィールズ(車で温かい食事を運ぶ、MOW)と呼ばれている。ボランティアの手で各戸に配られ、安否確認もかねているが、事業は行政の補助と本人負担、そして寄附や募金で行われている。補助金の枠があるがニーズはもっとあると言われている。ニューヨーク市全体では1万6000人が利用。(市の人口は817万人)〇次に紹介されるのは、住宅である。ホームレスや低所得者を対象にした政府支援の独居者専用住宅(SRO)があり、部屋は一人あたり6畳ほどだが、ソーシャルワーカーが訪問し支援する(全米でSRO居住者は1万3000人)。同じく、政府支援の高齢者専用住宅もあるが、こちらはアパートのようなもの。いずれも年収の30%を家賃としている。〇さらに、ホームレスや貧困層が多いといわれているアメリカで、餓死者や「孤独死」が少ない理由の一つに、フードスタンプ制度についても触れられている。最下層の貧困者が餓死するのを防ぐ目的で創設された制度だが、2011年8月では全米で4700万人が利用していると言い、毎月150ドル分の食料品を購入できる。〇弱肉強食の資本主義社会という印象の強いアメリカだが、高齢者対策については日本と違った施策が行われているのがよく分かる。〇そこで、日本との対比についてだが、アメリカや欧米では、一人暮らしを肯定的に捉えていること、個人も社会もだ。離婚についても、肯定的である。日本の場合、死別ケースは別として、離婚や中高年の男性の一人暮らしを否定的に見てはいないか。〇単身生活を否定的に見ていた個人と社会であった日本では、近年の単身世帯の増加に対して、必要な施策の実施が遅れていると考えられる。一人暮らしを積極的に支援するシステムが未整備であるため、「中高年男性の孤立」に対して、目だった対策は行われてこなかったのである。〇その残念な結末こそ「孤独死」なのである。〇介護保険制度で不十分ながらも、高齢者の生活支援システムは出来上がった。さらに、単身世帯を前提にした生活支援システムが求められている。個人についても、単身生活を肯定的に考える意識改革が求められているし、それを支える様々な支援システムも求められているのではないか。〇支援の仕組みは、行政だけではなく、NPOや自治組織など、様々な供給者を想定し、システムの構築が必要だろう。〇本書の指摘するように、「ひとりで死んでも孤独じゃない」社会にするために、個人と社会の意識改革を前提にして、新たな「生活支援システム」が求められているように思う。(2012-12-16佐野)

 【出典】 アサート No.421 2012年12月22日

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