【投稿】大阪ダブル選挙が示した「民意」の意味

【投稿】大阪ダブル選挙が示した「民意」の意味
 
 「大阪秋の陣」は、橋下-松井の「大阪維新の会」候補が圧勝した。大阪市長選挙では、共産党が候補者を取り下げ、「反ハシズム統一戦線」が構築されながら、接戦どころか大差がついた。大阪府知事選挙では、半数もの市町村長が反維新候補を支持しながら、共産候補の票数を加えても、知名度の低い松井の足元にも及ばなかった。
 マスコミは例によって「既成政党にNOが突きつけられた」「政治不信の表れ」などと評価し、あたかも大多数の有権者が維新の会の政策を支持したかのように報道している。
 実際のところはどうなのか。大阪府南部の某市投票所では、以下のような「異様な」投票行動が繰り広げられた。今回の選挙の象徴的なエピソードなので紹介したい。

 投票開始早々、ある女性有権者が知事選挙の投票を済ましたあと、怪訝な表情をしてキョロキョロと佇んでいる。そして、選挙立会人にこう尋ねた。
「あのぉ…、もう一つの選挙の投票用紙は…」
 一瞬の戸惑いの後、職員がすぐに気がつき、女性に答えた。
「ここは、大阪市ではありませんから、大阪市長選挙はありませんよ」
女性は「あ、そうか。そうですね…」と気恥ずかしそうに投票所を後にした。
職員や立会人たちは「勘違いしてる人がいるもんなんですねぇ」と苦笑した。あれだけ「ダブル選挙」と報道されれば、選挙の基本的な仕組みが分かっていない人が稀にはいるだろう。みな、そう軽く考えていた。
しかし、事態はもっと深刻だった。
「なんで一つしかないの?」「もう一つの用紙は?」…
次から次へと、ひっきりなしに同じような行動をとる有権者が現れたのだ
 職員に尋ねる人だけではない。記載台の候補者名をじーっと眺め首を傾げる人、辺りを見渡し二つ目の投票箱がないのを確認して遅ればせながら気がつく人…。口に出さずに戸惑う人達を含めると、相当の数の有権者が大きな「勘違い」をしていたのである。恐らく、その大半は「橋下」と書きたかった人たちではないのだろうか。
 投票事務も終わり、開票所に集まった職員たちは口々にその「異様な」光景を語っていた。これは、この市だけの特異な傾向ではなく、大阪市以外のどの市でも見られた光景ではなかっただろうか…。

 誤解を恐れず敢えて言うならば、「大阪都構想は信任された」といっても所詮この程度の「民意」なのである。基本的な選挙制度の仕組みすら理解されていない中で、政令市の課題や二重行政の問題点が十分に認識された上での選択であるとはとても思えない。
 もちろん、大多数の有権者がそうだったと言っているわけではない。熟慮に熟慮を重ねて冷静に投票された方も多くいたであろう。しかしながら、大きな流れをつくってしまうのは、「何かしてくれそう」「歯切れがいい」といった「リーダー」像に引っ張られ、公務員や「既得権益」への感情的な反発を煽るムードに乗せられる、静かな不満層であることは事実である。
 政策や中身への評価ではなく、イメージが優っていることは、咲州庁舎の被災という、橋下のみならず「大阪維新の会」そのものの大失策の責任が全く問われることなく、連勝していることからも明かである。むしろ、パフォーマンスをすることも、マスコミに取り上げられることもなく、着実に改革を進め地道に行政に取り組んでいる現職が、維新候補あるいは「若くて歯切れがいい」というだけの候補にあっさり敗れるという、「現職受難」の時代なのである。
 橋下新市長は、早速次から次へと「改革」案を打ち出し、マスコミもそれを受けて「スピード感」を演出している。迎える大阪市役所も「迎え撃つ」どころか、官僚の本分をキッチリと発揮し、柔軟かつ従順に橋下新体制を築こうとしている。大阪府庁がそうであったように、そのうちに様々な矛盾が生じ、それは職員へのしわ寄せとなって現れるだろう。
 国政選挙への影響を恐れた既成政党は、早速秋波を送り、大阪都構想への「理解」を示し始めている。情けない限りである。
 私自身、小泉郵政選挙や橋下維新の会選挙と同じポピュリズムの観点で、民主党の政権交代選挙を捉えていたが、今回の結果とも比較して考えると、当時の民主党が個人の際立ったカリスマ性がない中でマニフェストに依拠して勝利したことは、有権者が政策を選択したものとして、健全な選挙だったと言える。民主党は今一度、市民、労働者の視点に立った政策本位という原点に帰るべきであろう
 個人のカリスマ性のみに依拠した勢力は、小泉チルドレンの末路を見るまでもなく、必ず飽きられ、自壊していく。今の「冬の時代」は、決して悲観することなく、格差の拡がりや将来への不安感など、選挙結果の背景に何があったのかを冷静に分析しながら、職場や地域で地道に活動を積み重ね、来るべき反撃のときに備えなければならない。
(大阪 江川 明)
 
 【出典】 アサート No.409 2011年12月24日

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