【投稿】日本地図から「福島」の抹殺を図る「原子力帝国主義」

【投稿】日本地図から「福島」の抹殺を図る「原子力帝国主義」
                         福井 杉本達也

1 福島の「黒い近未来」をデッサンする悪人たち
 福島原発事故の長期間の低線量被曝の健康影響を検討する政府の作業部会(前川和彦東大名誉教授・長瀧重信長崎大名誉教授)は、12月15日に、現在避難基準となっている年間20ミリシーベルト(mSv)の低線量被曝のリスクは低く適切であるとして容認すると提言した。つまり、現在の20mSv以下の地域の住民は避難せずに住み続けろと命令したのである。20mSv以下の地域に住民を住まわせようというのは、除染して放射線値を下げることが不可能であること、国が11月11日に除染対象として閣議決定した1mSv以上の地域の住民を避難させるには150万人(福島県内)~300万人の移動が必要でありあまりにも厖大で事実上不可能として責任を放棄したこと、賠償をできるだけ支払いたくないことがあげられる。
そのため、東大付属病院の中川恵一氏は毎日新聞や『週刊新潮』などで「年間5mSvではがんは発症しない」「内部被曝と外部被曝は同様であり、健康への影響は同じである」「日本人は医療被曝が多いので6.5mSvまでの被曝は許容される」「ヒロシマは被爆者への医療体制を充実したので放射線被爆のマイナスよりもプラス面が上回る」「甲状腺がんは検査すれば多くに人に見つかるが命にかかわらない」「大規模な避難は精神的なストレスなどで逆効果になる」という論理を一所懸命に展開している。飯舘村では原子炉が爆発してから2週間も経った3月29日になって始めてヨウ素131(半減期8日・甲状腺に蓄積する)の緊急被曝線量の調査を行ったが、幼児の最大被曝線量は35mSvであったという。20mSvの地域に強制居住を勧める国は、数年後にがんが発症しても、「命にかかわらない」とし、「不要な手術はするな」「検診をやみくもに受けてはならない」などと諭し、「『健康都市』フクシマ」を宣言するであろう。

2 放射線業務に当たる一般労働者の被曝限度
 放射線による被曝災害を避けるため放射線業務従事者には『放射線障害防止法』(文部科学省)、『労働安全衛生法』(厚生労働省)、『医療法』(厚生労働省)が適用される。また、公務員に『人事院規則』(人事院)が適用される。
3月14日まではどの法律でも5年間で100mSvを超えないこと(ただし、1年間に50mSvを超えないこと)、妊娠可能な女子の場合は3ヶ月間に5mSvを超えないこと、人命を救助するとかの緊急作業の場合でも100mSvを超えないことが定められていた。ところが、福島第一原発が1号、3号、4号、2号機と危機的状況に陥る中、3月14日に保安院と労働基準局長の協議により、3月14日から福島原発での緊急作業の場合に250mSvへ引き上げられた(毎日:2011.7.15)。ところが、同時に改正すべき『人事院規則10-5』の改正はすっかり忘れ、3月17日施行となってしまった。通常「忘れる」などということはない。いかに国家・官僚機構が無能であり慌てふためいていたかが分かる。
地方自治体の職員である消防職員は労働安全衛生法が適用される。しかし、国家公務員である自衛隊員には人事院規則が適用される。この「忘れた」3日間(実際は労安法が15日に決定し、14日に遡って施行されたので2日間)によって、3月16日に実施するはずだった米国に日本の“本気度”(忠誠心)を見せるための陸上自衛隊ヘリによる上空からの3号機への水の投下作業(わずか7.5トン)は17日へと1日遅れてしまった。この政治ショーを昼間に見せるため、東京消防庁による本格的な注水作業はわざと困難が伴う18日の夜にずらして行われることとなった。深夜に行った東京消防庁の映像は事後会見を除きほとんど放映されることはなかった。「国民の生命と国家の存亡」「首都圏3000万人避難」も予想される事態となっていてもなお政治ショーを優先したのである。
さらに17日に250mSvを500mSvに引き上げる案も議論されたが、自衛隊側の反対により挫折した。100mSvへの引き下げは事態が落ち着き始めた11月1日から施行された。しかし、既に福島原発内で作業に従事している労働者などは被曝量が多く限度を超えることから、引き続き250mSvの限度が適用されるという変則的なものとなっている。厚労省規則改正の資料では8月末現在で100mSvの被曝限度を超す労働者は137人となっている。

3 ほとんど認定しない放射線被曝の労働災害
 厚労省は4月27日に、がんになった原発労働者のうち、過去35年でたった10人しか累積被曝線量から労災認定していないことを明らかにした。うち白血病が6人、累積被曝線量は129.8~5.2mSvだった。このほか多発性骨髄腫が2人で、それぞれ70.0、65.0mSv、悪性リンパ腫も2人で、それぞれ99.8、78.9mSvだった。『労働基準法施行規則』では対象疾病を狭く限定している。急性放射線症、皮膚潰瘍等の放射線皮膚障害、白内障等の放射線眼疾患、白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、甲状腺がんなどである。さらに『電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準』は対象の疾病であってもそれぞれ被曝線量や発症時期などの要件を細かく規定している。たとえば、白血病の場合は、「相当量(5mSv × 従事年数)の電離放射線に被ばくした事実があること。」などが要件となっており、こうした細かい規定が労災認定を困難にしている。

4 「冷温停止宣言」によるフクシマ棄民政策
 12月16日、野田首相は記者会見を開き、福島第一原発の原子炉は「冷温停止状態に達した」と宣言した。メルトダウンを起こし、圧力容器を貫通し、格納容器のコンクリート床まで浸食した原子炉は何の覆いもなく無惨な姿をさらしたままでいまなお放射能を放出し続け、大量の注水と引き換えに大量の汚染水を太平洋に流し続ける現実を全く顧みることなく事故収束宣言をするというのはいかなる感覚を持っているのか。
12月14日付けのNYT紙は「政府の勝利宣言は事故についての国民の怒りを和らげるためだけのもので、原子炉の安全性を脅かす危険から注意をそらすのではないか、ということである」との見方を紹介する。収束宣言をすることにより、福島から国民の注意をそらし、忘れさせ、一方で20mSvの地域に強制的に居住させ、避難させないことにより賠償金を払わないことこそ政府の方針である。今後、放射線によるがんなどの疾病が多発してきても科学的因果関係はないといって切り捨てる。この方針は既に労災認定で実証済である。
年間20mSvの地域に5年も居住すれば100mSv(5年間)は楽に超えてしまう。そもそも当初のヨウ素131をどれだけ浴びたかも不明であり、食品や水の摂取による内部被曝も不明である。一般住民ではなく放射線を取り扱うことを仕事とする放射線従事者に適用される労働安全衛生法上の被曝限度を楽に超えてしまうであろう。さらに「妊娠可能な女子の場合は3ヶ月間に5mSvを超えないこと」とされている。妊娠可能な女性とは10歳から60歳までである。妊婦の場合にはとんでもない被曝量となる。しかも、この規定は18歳以上の者に適用されるものであり、福島県内36万人の子供はもちろんこうした制限値の極めて下でなければならない。今、政府は何本もの法律による厳格な被曝限度を決めながら、一方で、自らが作ったこうした法律を全く無視して子供を含めて高濃度汚染地域に封じ込めようとしている。これを棄民政策といわずしてなんというのか。 

 【出典】 アサート No.409 2011年12月24日

カテゴリー: 原発, 杉本執筆 パーマリンク