【投稿】東日本大震災の津波で格納容器のない「むき出しの原子炉」が突然出現した福島原発

【投稿】東日本大震災の津波で格納容器のない
           「むき出しの原子炉」が突然出現した福島原発
                                福井 杉本達也
                            
1 地震・津波による原発のドミノ倒し
 3月11日に発生した東日本大震災により福島第一原発(1~6号機)・第二原発(1~4号機)が大きな被害を受けた。福島第一原発はチェルノブイリ原発事故クラスあるいはそれを上回る危機的状況にある。特に3号機の使用済核燃料プールに対し自衛隊・東京消防庁などによる決死の注水作業が行われている。消防庁の19日未明の注水では隊員は27ミリシーベルト(mSV)という厳しい放射線を浴びている。しかし、19日午後からの10時間連続注水では約1000トンの注水を行っている。
 今回の大事故は地震と津波により発電所内の全ての電源が一気に失われたことにある。緊急炉心冷却装置(ECCS)は機能せず、再循環ポンプや使用済み核燃料プールを冷却するポンプもダウンし、全原発の全ての設備の冷却ができなくなっている。原発は制御棒を挿入して運転を停止しても、燃料棒自体は高温で発熱している。燃焼により作られた核燃料内の核分裂生成物は放射線を出す。その放射線エネルギーの大部分は原子炉内で熱に変換される(崩壊熱)。下り坂で車のエンジンを切ってもブレーキがなければ止まらないことと同様である。燃料温度が上昇すると冷却水が蒸発し、炉心が溶融(メルトダウン)し、最終的には外部に放射性物質を大量に放出することとなる。原子炉が冷却が出来ないため、燃料表面温度が上昇し、水蒸気と燃料被覆管のジルコニウムとの化学反応により水素が発生し原子炉建屋上部に溜まった水素が1号機、3号機。4号機と次々と爆発し建屋を破壊した。一部炉心溶融が起こっていると思われる。また、使用済み燃料の上部が空気中に露出して高温となり、水と金属との化学反応で発生した水素が燃えて3号機、4号機で使用済み核燃料プールの火災が引き起こされた。
 ここまでの大災害となった原因は国・東京電力のこれまでの地震災害に対する過小評価にある。新潟県中越沖地震により東京電力柏崎刈羽発電所で大被害があったにもかかわらず、国・東京電力は想定地震動をほとんど変えることはなかった。福島原発の想定の基準地震動は1938年の塩屋崎沖地震=最大マグニチュード7.5を採用し、マグニチュード8.3はあったと推定される869年の貞観の地震はなぜか無視された(2009.7.13 総合エネルギー調査会原子力安全・保安部会への東電回答)。国・電力会社の自然と科学的知見に対する傲慢さこそ今回の大災害の元凶である。

2 使用済み核燃料プールの危険性の過小評価
 今もっとも危険な状況にあるのが福島第1原発3号機の使用済み核燃料プールである。なぜ、使用済みの核燃料プールがこれほどの熱をもつのか。使用済み核燃料の貯蔵プールには使用済み燃料体が1号機:292本、2号機:587本、3号機:514本、4号機:783本、5号機:946本、6号機:876本もある(2011.3.15 毎日)。100万Kw級の原発では緊急停止後1時間での熱出力は5.2万Kw、3か月で4351Kw、5年経っても1430Kwもある(2011.3.16小出裕章ブログ)。5年後の使用済み核燃料でも4℃の水を1秒間に600g=時間2.2トンも蒸発させる能力がある(2011.3.13 ブログ「Ledの日記」参照)。3号機の燃料集合体は548本で、昨年9月の定期検査で136本を交換している。残り378本は1年以上貯蔵されているものと思われる。この燃料棒から仮に2500Kwの崩壊熱が出て6トン/時の水(事故時40℃)が蒸発していると1日に144トンもの水が無くなっている。1千トンの水も7日で空になる。しかも、この「むき出しの原子炉」には遮蔽物である圧力容器も格納容器もコンクリート構造物もない。放射性物質は容易に大気中に飛び出している。米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は議会証言で、福島原発事故による住民の健康への最大の脅威は、プールに保管されている使用済み燃料だと警告した。米ロスアラモス研究所のロバート・ケリー氏は露出した使用済み燃料棒は発火して溶け、大気中に放射線を出す恐れがあると指摘した。使用済み燃料プールは原子炉とは異なり、鋼鉄やコンクリートで包まれてはいない。「ウランが水中で溶ければ、ある種の原子炉を作ってしまうことになる。こうした状況でこの原子炉は制御不能となり、核分裂を始めることになる」(再臨界の可能性)と回答している(2011.3.17 Bloomberg)。再臨界になれば大量の中性子線が出て、薄い鉛板などで遮蔽することはできず、分厚いコンクリート壁か水で遮蔽する以外になく建屋に近づくことは全く不可能になる。
 しかも、各原子炉建屋の核燃料プールの貯蔵量は、4号機の場合、燃料本数548本の1.4倍もの本数を詰め込むなどしている。これは使用済み核燃料の再処理が行き詰まっているために無理矢理各原子炉建屋に押し込んでいたものである。ロシア人原発事故専門家ユーリー・アンドレーエフ氏は「日本人は、非常に貪欲で、使える空間を全て利用します。しかし、プールに使用済み燃料をぎっしり詰め込めば、水がプールからなくなったら火事になる可能性は非常に高くなります」(2011.3.17「マスコミに載らない海外記事」)と福島原発における日本の対応を批判している。福島第一原発には原子炉建屋以外にも中間貯蔵施設(共用プール)に6375本もの使用済み核燃料が貯蔵されているが、そこも冷却機能は失われている。膨大な量の放射性物質が原発構内に蓄積されている。そのどれもが全く管理できない危険な状態におかれている。75万Kw級原発25基分の膨大な原発ドミノ倒しが今、我々の目前で始まっている。福島第二原発も管理できなくなるであろう。
 これまで、原発反対派も原子炉本体の危険性については空だきによる炉心溶融の危険性を指摘してきたが、使用済み核燃料プールの崩壊熱の作用についてはほとんど注意を払ってこなかった。突然の「裸の原子炉」の何基もの出現は予想を遙かに越えるものである。

3 放射線と退避距離
 3号機周辺では3月15日・400ミリシーベルト(mSV)/時(という途方もない放射線の値が観測された。500mSVで血中のリンパ球が減少するなどの急性疾患をきたし、4SV(4000mSv)を浴びれば短期間で死亡する。政府は11日に原発から3キロ圏内の避難指示を、12日にはこれを20キロまで拡大し(第二原発は10キロ)、さらに15日には20~30キロ圏内の屋内避難指示を出した。しかし、15日には原発の北部21キロ地点の浪江町で330マイクロSV(0.33mSV)/時が観測された。1日に直すと7.92mSVでありそれほどの量ではないように見えるが、そこで生活しているわけで、1ヶ月間その場所に留まると237mSVも被爆する。屋内にいれば被曝量は減るとはいうものの100mSV近くまで被曝してしまう。原発の危険が増した場合、30キロではとても逃げ切れる距離ではない。特に福島県浜通りは主要には国道6号を中心とする南北二方向にしか逃げることができない。西は山道である。人口の多い地域ではいざというときに大混乱に陥る。今回の避難でも病院・役場・警察・自衛隊間の連絡が旨くいかず10キロ圏内の双葉病院(福島県大熊町)で寝たきりなどの入院患者130名が置き去りとなってしまった。その後21名の患者が搬送中や避難先で相次いで死亡している。米軍は避難距離を80キロ(50マイル)としたが、政府は即刻50キロ圏内の避難勧告をすべきである。50キロあれば、風向きが不利な状況でも致死的な放射能を浴びる危険性は少ないであろう。風向きが関東地方を向いた15日の観測値では、茨城では年間そこに住んでいると8.9mSVを被曝することとなる。健康に影響する量ではないが、原発の危険性が増した場合にはリスクとなる。東京では年間で3.12mSVとなる。最悪の事態となれば東京も安全圏とはいえない。気象庁は毎日の福島・宮城の風向きを報道するだけでなく、放射能の流れをシミュレーションして報道すべきである。風上であれば落ち着いた避難も可能である。

4 原発を抱える他の自治体の緊急対策
 福井県・新潟県・静岡県を始め原発を多数抱える自治体は、国・電力会社に対し今すぐ次のことを要求しなければならない。まず、非常用電源の複数ルートの確保である。次に原発建屋からある程度冷却された使用済み核燃料は全て出すことである。原発建屋からできるだけ離れた位置に鋼鉄・コンクリート遮蔽の中間貯蔵施設を分散して設置すべきである。もし、何とか福島原発の危機を切り抜けることができた場合には、即、浜岡原発を停止しなければならない。太平洋プレート・フィリピン海プレートの活動は活発であり、「大地動乱の時代」(石橋克彦)を迎えており、次は東海地震が目前に迫っている。そして、中越沖地震で痛めつけられた柏崎刈羽原発も停止しなければならない。高速増殖炉「もんじゅ」は炉内中継装置の落下によりプルトニウムのMOX核燃料を抜くことさえできない状況に陥っている。しかし、もんじゅは停止中にもかかわらず電気でナトリウムを温め続けなければならない。今回のような電源喪失事故が起こった場合、液体ナトリウムは固化し冷却材の循環が止まりプルトニウムを大量に含んだ炉心はナトリウムとともに吹っ飛ぶであろう。その災害は今回の福島原発の最大級の被害を上回るであろう。神に祈るのみである。 

 【出典】 アサート No.400 2011年3月26日

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