【コラム】ひとりごと —貧困ビジネスの蔓延と社会保障—-

【コラム】ひとりごと —貧困ビジネスの蔓延と社会保障—-

○景気は底を打ったという表現が、時々新聞などで使われている。確かに、3半期の企業決算などでは、業績の復調という企業もある。○しかし、業績は売り上げの増加でも上向くが、固定費縮減すなわち人減らし等による賃金負担を少なくするコストダウンを実行しても業績は上向く。現在の状況は大量の失業者を生み出し企業は生き残ろうとしているのである。○景気が上向いているというが、大量の失業者・求職者が存在し、有効求人倍率は、0.5前後である。今年春の大学新卒者の内定率は73.1%(2009年12月現在)で、4人に一人が卒業しても仕事がないという状況である。○派遣やパートなど非正規労働者が、全勤労者の3分の1になろうとしている現在、最後のセーフティネットである生活保護制度に頼らざるをえない人々が急増している。○昨年1年間で、生活保護受給世帯数は、大阪市の15000世帯増をトップに都市部で軒並み10%を越える伸びとなった。保護率でも大阪市の6.59‰の伸びをトップに上昇している。○大幅な保護世帯の増加に対して全国の福祉事務所では人員の補充が追いついていない。本来、自立助長のための指導・支援が求められているケースワーカーも、新規相談の対応だけで手一杯という。○そうした中で急増しているのが、「貧困ビジネス」である。ホームレスになった人を、無料低額宿泊所(届出がある場合も、ない場合もある。)などに、入居させ、家賃・食費・管理料などの名目で、生活保護費のほとんどを「搾取」する「囲い屋」が第一に挙げられる。さらに、広く考えると、貧困高齢者を取り込む「介護付高齢者アパート」があり、この場合は、医療費と介護費がセットで、「ビジネス」の対象となる。○「過剰な医療」と「過剰な介護」を行い、収益を上げるのである。高齢者をターゲットにした「貧困ビジネス」だが、こちらの方は別の意味で質が悪い。認知症や体の自由が利かない高齢者を「囲いこみ」対象にして、生活保護の医療扶助・介護扶助を食い物にしているからである。○奈良県大和郡山市の山本病院での「過剰診療」「違法診療・手術」には司直の手が入ったが、残念ながら、それに近い医療機関は数多いと思われる。○保護受給者の急激な増加は当然福祉予算の膨張を生み出す。地方自治体の単独負担分も増加する。○蔓延する「貧困ビジネス」は、失業者・高齢者など本来福祉の対象者の弱みに付け込み、福祉予算を食いものにする。○一方、こうした生活困窮者や貧困高齢者が、かくも大量に生み出されてきた背景に目をむける必要がある。○90年代以降のバブル崩壊を機に、企業は一方で過酷なリストラを強行するとともに、正規職員の比率を引き下げ非正規の派遣や期間労働者の比率を引き上げてきた。○それまで、特に製造業を中心に工場労働者は終身雇用による職歴形成・技能の向上を基本とする雇用慣行により比較的安定した雇用関係の下にあった。国際競争力云々の大義により、賃金総額を引き下げ労働分配率は以来、低下し続けている。○能力の高いものには高い報酬を、単純労働には低額の報酬を、すべては自己責任とする「新自由主義」の横行は、労働の在り方から社会の構造をも変えてしまったのである。○企業福祉は削減された。家庭の在り方も、都市部では核家族化・単身化が進行し、企業内福祉システム・家庭内共助システムは、先細ってしまった。○住む家さえ失った人々、支える家族のない単身高齢者が、大量に生み出された。○「貧困ビジネス」は、日本社会が大量に生み出した貧困層を、再び企業利益の対象にしようとする、二重三重の搾取者なのである。○民主党政権は、「生活が第1」のスローガンで、貧困・困窮者対策を強めている。昨年末には、ワンストップサービスデイの取り組みや、越年・年末対策に積極的に取り組んだ。○これまではNHKの「ワーキングプア」報道もあって、派遣切りで住宅を失った失業者一般には、世論も一定の共感と理解を示してきた。○しかし、悪徳「貧困ビジネス」の脱税摘発や、過剰・違法診療の医療機関の摘発、生活保護関連の摘発報道が多くなり、貧困問題に対して異論が生じている。○「派遣村」での、飲酒や就労努力をしない人などに、石原知事が右翼的発言を繰り返すなど、「自己責任論」による「過剰福祉批判」の逆風が吹き始めたのである。○しかし、すでに述べたように、失業者や高齢者は、彼ら自身がまず社会が生み出した弱者であり被害者である。確かに就労努力や老後の備えは、一定の自己責任が求められるし、当事者もそうしたかったのであろう。○不正や悪徳業者の摘発は当然としても、今後も長期不況から失業者・貧困高齢者は増加していくのである。○民主党政権内にも、自己責任論や新自由主義に片足を突っ込んだままの人物も多数存在している状況の中、選挙マニフェストからの後退を許さず、徹底した社会保障こそ必要であるとの勢力の伸長が求められている。(2010-02-15佐野)

【出典】 アサート No.387 2010年2月20日

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