【投稿】朝鮮半島情勢と麻生総理のお気楽 

【投稿】朝鮮半島情勢と麻生総理のお気楽 

<一気に緊張激化>
 5月25日、北朝鮮は朝鮮中央通信を通じ、「2006年10月に続く2回目の核実験を、前回を上回る規模で成功裏に実施した」と発表した。これを受け、国連安保理は直後に緊急理事会を開催、ロシア選出のチュルキン議長が「核実験は2006年の安保理決議1718の明確な違反」とし「この問題に関する安保理決議の作業を直ちに始めることを決定する」との議長談話を明らかにした。
 日米両国は、決議には武力行使も辞さない貨物検査(海路および陸路での臨検)の義務化を盛り込むことを主張、武力衝突を危惧しこれに難色を示す中国、ロシアとの間で長期間の駆け引きが続いた。
 この間アメリカや韓国のマスコミが「北朝鮮が長距離弾道ミサイル(ICBM)、さらには日本を狙った中距離弾道ミサイルの発射準備に入った」と報道。さらに6月8日、北朝鮮は先に中朝国境地帯で拘束したアメリカ人女性記者2人に対し、労働教化12年の判決を下すなど、金正日政権は対決姿勢を一層エスカレートさせている。
 一方、韓国政府も核実験を受け、PSI(大量破壊兵器拡散防止構想)への全面参加を発表、さらにクリントン国務長官は「テロ支援国家再指定」の検討に言及するなど、朝鮮半島情勢は危うい状況のまま推移している。

<麻生首相の「戦う覚悟」>
 こうしたなか、麻生太郎首相は6月7日、東京都武蔵野市で都議選応援の街頭演説を行い、北朝鮮に対して「戦うべき時は戦わなければならない。 その覚悟を持たなければ国の安全なんか守れるはずはない」と発言、聴衆を唖然とさせた。
 発言を素直に解釈すれば、戦争を想定したものに他ならず、自民党国防部会等が主張する「敵策源地先制攻撃論」と相まって、北朝鮮メディア風に言えば「宣戦布告」に等しいものである。「敵基地先制攻撃可能論」については、1956年に鳩山一郎内閣の政府統一見解として出されたものである。
 米ソ冷戦時代の想定と現在の情勢の変化を考慮することなく、「法理上は可能」などと一般論で開陳した口も渇かないうちに、唐突に北朝鮮攻撃という具体論に飛躍させてしまうのは、北朝鮮が過去繰り返している「○○○を火の海にしてやる」などの過激発言と同レベルの、思慮を欠いた軽率きわまりないものだ。
 ただこれが口先だけであるのは、万人の知るところで、選挙戦を闘う覚悟もない人間が、国民に対して戦争の覚悟を説くなど、笑止千万である。
本人は「国際的な空気を読んだ」つもりなのだろうが、国連などを舞台に、心理戦も含めた丁々発止の駆け引きが展開されている最中に、あまりに単純な発言は、事実上日本政府が蚊帳の外に置かれていることを、自ら証明したものとも言える。

<妥協の「国連決議」>
 日本国内閣総理大臣が世界中にその浅はかさを見せつける中、国連安全保障理事会は6月13日(日本時間)、北朝鮮の核実験に対する制裁決議案を15理事国の全会一致で採択した。
 決議は貨物検査と金融制裁、武器禁輸を主な内容とし、「安保理決議1718」と合わせ、北朝鮮の核兵器、ミサイル開発および核拡散阻止のため、関連物資と資金の遮断をめざすものとなっている。
 同決議では5月25日の核実験を「最も強い表現」で非難し、安保理各国が、国連憲章7章のもとで行動し、同章41条が定めた経済制裁などをとるとしている。これに従い人道支援目的以外の金融、援助は大幅に制限されることとなった。
 米中の間で焦点となっていた、貨物検査に関しては、禁輸物資積載疑惑がある場合、国連加盟国に「公海上では当該船舶が所属する国の同意を得て検査する様に求める」とされ義務化は見送られた。
 要は米中の妥協の産物であり、中国が本気で履行しなければ実効性は保障されないものであるが、麻生政権は日本外交の成果と自画自賛している。

<強硬姿勢の裏側>
 しかしこれに対しても北朝鮮は、同決議が採択された会議を欠席するなど、反発を強め「国連脱退」「3回目の核実験強行」も一部では取りざたされている。
 この一連の瀬戸際外交の背景には、病身の金総書記の後継者問題、「核保有国の権力者」として三男正雲氏に箔をつけるため、など様々な憶測が為されている。金日成誕生100年を迎える2012年までには、「強盛大国」と世襲の実現を図りたいのは確実といえる。
 逆に見れば、残された時間はあまりなく、昨年夏の健康悪化という想定外の事態に焦りを深めた金総書記が、矢継ぎ早に「ミサイル発射」、「核実験」という強硬手段を打ち出しているのは、動揺の反映とも言えよう。
 そしてここに来て、これら北朝鮮が喧伝する一連の成果に大きな疑問符が付き始めている。4月に発射された「テポドン2号改」は、北朝鮮の発表に寄れば、地球の周りを回っているはずである。しかし実際は、飛距離こそ以前よりは伸びたものの、予定された「人工衛星」の軌道投入はおろか、2段目3段目の分離にも失敗し、太平洋に落下したことが明らかとなっている。
 さらに2回目の「核実験」についても、核爆発にともなう特有の放射性物質が、日米韓の採取、測定活動にも関わらず、いまだに大気中から検出されていないことから、「失敗」もしくは、通常火薬を大量に爆発させた「偽装」だったのではないか、との見方が出てきている。
 第1回目の時は、米韓の測定で放射性物質が検出され、核実験の裏付けとなった。しかし今回は、そうした物的証拠がないため、このような疑惑が持ち上がっているのである。

<最後まで「まんが太郎」か>
 考えてみれば、北朝鮮が核実験に失敗、あるいは実施しなかったというなら、その方が、近隣諸国はもとより国際社会にとって良いに越したことはない。そもそも「拉致問題」でも「総書記健康問題」でも「北朝鮮の言うことはみんな嘘である」という姿勢を崩さない勢力が、なぜ「核、ミサイル」だけは素直に信じてしまうのか不思議ではある。
 北朝鮮自身は何があっても「失敗でした」「やっていません」とは言えないだろうし、アメリカもおかしいと気付いていながら、不問にしていた方が日本などをコントロールしやすいことから、「核実験はあった」ということで、問題は推移するのかも知れない。
 この期に及んでも麻生内閣は正確に事態を把握していないようだ。日本政府は国連決議に船舶検査の義務化を盛り込むよう主張していた。にもかかわらず、日本にはその体制が無く、公海上で実施するには新法が必要なことが露呈してしまい、ソマリア沖派兵とはうってかわって「とりあえずは領海内で海上保安庁に任せる」という無責任ぶりである。
 麻生首相には、同じくまんが好きと言われる金正雲氏を日本に招待し「国立まんが喫茶」で一緒にアニメに興じる姿が似合っている。そのほうが平和でいいかもしれないが、残された宰相としての日々を安穏として過ごさせてくれるほど、内外情勢は甘くはないのである。(大阪O)

 【出典】 アサート No.379 2009年6月21日

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