【投稿】在住外国人の増加と多文化共生

【投稿】在住外国人の増加と多文化共生

<急増する在住外国人>

 法務省入国管理局の発表によると、2006年末現在の外国人登録者数は208万4,919人で、200万人を突破した05年末に引き続き過去最高記録を更新した。この数は、05年末現在に比べ7万3,364人(3.6%)の増加、10年前(1996年末)に比べると66万9,783人(47.3%)の増加で、10年間で外国人登録者数は約1.5倍になったことになる。日本の総人口(1億2,777万人 総務省統計局06年10月1日現在推計人口)に占める割合は1.63%になっている。
近年の日本在住外国人の増加は著しい。1990年の入管法改定により、日系南米人、特にブラジル人の増加が著しい。この間の増加によって、在住外国人の内訳は大きく変化している。その大きな特徴の一つは国籍の多様化である。入管協会の在留外国人統計によれば、1995年末の国籍別外国人登録者数では、「韓国又は朝鮮」が57%だったが、2004年末では、その割合は30%に減少し、中国25%、ブラジル15%、フィリピン10%と様々な国の人たちが在住してきていることがわかる。第2の特徴は在留資格の多様化である。同じ統計で、95年末には特別永住者(いわゆる旧植民地出身者)が最も多く、約40%であるが、04年末には約25%程度に減少し、変わって一般永住者が大きく増え、定住者(日系人等)も増加している。
これらの外国人の増加は地域的に偏在しているのも特徴である。特に南米出身者は愛知県・静岡県・群馬県等の製造業等の盛んな地域に集住し、群馬県の大泉町では、人口の15.8%が外国人登録者という状況になっている。(2006年4月1日現在)

<在住外国人増加の背景>

 日本の在住外国人増加の原因は決して、日本固有のものではない。冷戦体制崩壊以降の世界の急激なグローバル化、それに伴う世界的な経済格差の拡大によって、人口移動が世界的な規模で起きている。お隣の韓国でも在住外国人が急激に増加し、その対応を迫られている。問題は、このような必然的な流れをどのように受け止め、どのような対策をとるかである。この点では、国による差は大きい。
 日本政府の外国人受け入れ施策は非常にいびつでその場しのぎ的であり、現状に正しく対応できていない。そのことによって様々な矛盾と問題を生んでおり、結局そのしわ寄せは日本に住む外国人の上に重くのしかかっている。
 1980年以降、在日韓国・朝鮮人等の旧植民地出身者とその子孫(オールドカマー)に替って、その他の国からのニューカマーが急激に増加していくのだが、その波は大きく3つあったと言われている。第1は、遅ればせながら日本が難民条約に加入した1981年以降のインドシナ難民の受け入れである。第2は、日中国交正常化から9年後の1981年にようやく始まった中国残留日本人の帰国である。第3は、1990年の入管法の改定による日系人と研修生・技能実習生の受け入れである。そして、これらの外国人、特に第3の日系人、研修生・技能実習生は、いわゆる3K職場、日本人の忌避する仕事の空席を埋めるような形で日本の労働力構造に組み込まれていった。もちろん、外国人流入には当然その家族、親戚が伴っており、労働力としてだけではなく、地域での生活者として定住していっているのである。
 しかし、これらの受け入れは、いわば外圧によってやむを得ず門戸を開放し、無理やり制度をつくった性格が強く、定住化する外国人のニーズと実態に適合しておらず、その不十分さは在住外国人への人権侵害を助長している。
 日本政府の外国人受け入れの基本方針は、「専門的・技術的分野の労働者は積極的に受け入れ、単純労働者の受け入れは慎重に」というものである。しかし、この方針はすでに破綻しているといっても言いすぎではない。専門的・技術的分野の積極意的受け入れと言いながら、日本にはそのような労働者を育てる環境も生かす体制もなく、むしろ優秀な日本人の知識労働者がどんどん海外に流出しているのが現状である。在留資格でこの分野にあたる入管法別表一の二のうち、一番多いのが「興行」なのはなんとも皮肉である。
 一方、国内の労働力需給ミスマッチで、資本側から単純労働者の受け入れが要求されているが、政府は表向き受け入れができない。そこで編み出されたのが1990年の入管法改正による日系人への活動制限のない在留資格の付与と、「労働者」ではない研修生・技能実習生受け入れというウルトラCである。しかし、十分な受け入れ体制を作らない中での中途半端な施策は、日本の産業に不可欠な労働力を間接労働者として低賃金層に沈め、偽装請負等の違法労働を生み出し、日系人が日本で人間らしく生きていくための条件を全く保障していない。研修生制度は、賃金未払い、残業強要、劣悪な労働環境など深刻な人権侵害を引き起こしている。政府の方針にもかかわらず、外国人の単純労働者は益々増加しており、トヨタ等の空前の利益も彼らによって支えられているのである。

<早急に求められる対策>

 このような状況の中で、外国人が集住している都市では、公立小中学校における日本語指導体制の問題、不就学の問題、社会保険加入の問題、労働環境の問題、外国人登録制度の問題等様々な問題が生じてきている。前述した群馬県の大泉町をはじめ、愛知県豊田市(人口に対する外国人の割合3.6%)、岐阜県美濃加茂市(同9.6%)、静岡県浜松市(同3.8%)、三重県鈴鹿市(同4.6%)等、日系南米人を中心とする外国人住民が多数居住する18市町が2001年5月に「外国人集住都市会議」を結成し、同年に「浜松宣言」、2004年に「豊田宣言」、2005年に「規制改革要望書」「よっかいち宣言」を出し、地域共生、教育、社会保障、労働、コミュニティー、教育に係る提言を国、県に発し、また外国人登録制度の改善等を要望している。また、経団連も2004年に「外国人受け入れに関する提言」を発表し、資本の立場から、国と地方自治体が一体となった整合性ある施策の推進、新しい就労管理の仕組み、外国人の生活環境整備等を提言している。
 このような動きに対し、外国人をあくまで管理の対象としてしか扱ってこなかった国もようやく「経済財政諮問会議 骨太の方針2005」でこの問題を取り上げ、「生活者としての外国人」ということを言い出すようになった。
 この動きを受けて、総務省では2005年に「多文化共生の推進に関する推進に関する研究会」を設置し、2006年に「コミュニケーション支援」「生活支援」「多文化共生の地域づくり」を柱とした、報告書と多文化共生プログラムをまとめた。「多文化共生」という言葉は、川崎市の先進的な取り組みや阪神・淡路大震災で立ち上がった「多文化共生センター」の活動から作り出され広がったものである。自治体やNPOの運動の中で作られた言葉が、政府の文書に用いられているのは画期的なことだ。逆に言えば、この分野について、政府は何もしてこなかったということだろう。「多文化共生センター」は「①基本的人権の実現 ②文化的・民族的少数者の力づけ ③相互協力できる土壌づくり」を活動の理念としている。
 また、政府は2009年に入管法の改正を行おうとしている。この動きは、一方で在留許可制度と外国人登録制度のばらばらな運用の統一により、在住外国人の雇用実態把握を行って、社会保険未加入等の労働現場での問題を解決すると言っているが、他方で、廃止された指紋押捺を、特別永住者を除くすべての外国人に復活させようというとんでもない人権侵害の内容である。結局、政府は本当の意味での多文化共生を全く理解していないということではないだろうか。

<日本の将来と多文化共生>

今後、日本の少子高齢化は益々進行し、一方で、外国人の受け入れの圧力は国内からも国外からも強くなってくる。このような中で、どのように外国人を受け入れ、日本社会の一員として定住させていくかは日本の将来にとって最も重要な課題の一つになってきている。しかし、現状を見る限り、日本政府の対応は全く時代錯誤で矛盾だらけとしか言いようがない。
この点、歴史的・地理的な条件が違うとは言え、ヨーロッパにおける外国人受け入れ施策はかなり様相を異にする。
ヨーロッパ最大の移民受け入れ国であるドイツでは、移民政策と社会融和政策を組み合わせた総合的で戦略的な政策にもとづいた移民の受け入れが行われており、新規移民が教育機関や労働市場にアプローチすることを容易にする当初研修や、イスラム教徒のアイデンティティーを守るためのイスラム教の授業の取り入れなど、移民の定住を前提とした様々な施策が実施されている。ドイツにおいて、外国人労働者は「国民総生産に毎年1000億ドイツマルクの貢献をする」と言われている。ドイツの企業の中には、外国人労働者の割合が40%を超える企業もあるとのことで、各地で共生を目指した様々な施策が展開されている。しかし、厳しい財政事情で、州政府、地方自治体などは処遇方針の見直しや予算の削減を行わざるを得ない状況にあり、状況は必ずしも楽観できるものではない。
いずれにしても、ヨーロッパ各国は様々な試行錯誤を繰り返しながらも、少子高齢化を視野に入れた社会統合をめざす戦略的な外国人受け入れ施策を展開しており、内外人平等原則に基づく国際人権規約を批准したにもかかわらず、相変わらず排外主義が見え隠れする、場当たり的な日本の外国人受け入れ施策とは根本的に違うように思える。
すでに、新たな外国人の流入の波が押し寄せてから25年以上が経っている。国が有効な政策を打ち出せず、十分な対応がされない中で、当初入国した子どもは大人になり、子どもが生まれ、成人は高齢者になってきている。在住外国人の問題は出生から、教育問題、労働問題、高齢者対策まですべてのライフステージの問題になっており、それは日本の労働政策や福祉政策に大きな問題提起を投げかけている。今後、先進国は生き残りをかけて外国人の受け入れをうまくできるかどうかの競争の時代に突入するという人もいる。「多文化共生」は日本の将来にとってのキーワードとなるかもしれない。
しかし、少なくとも、現在の自民党政権の排外的・差別的な政策の延長には真の「多文化共生」は実現しないだろう。自治体が実施したアンケートの回答で、あるベトナム人研修生は、期待に胸ふくらませてやってきた日本で、賃金はまともに払われず、休日まで働かされ、その上雇用者に差別され、もう二度と日本には来ないと書いていた。これが「美しい国」の実態である。
(大阪 若松一郎)
 追記:ドイツの移民政策については、(財)自治体国際化協会、(財)国際貿易投資研究所のHPを参考とした。

 【出典】 アサート No.355 2007年6月16日

カテゴリー: 人権, 思想 パーマリンク