【投稿】原子力安全委員会の背信行為

【投稿】原子力安全委員会の背信行為

<<パブリックコメント>>
本紙4月号で「原発震災への画期的な警告—金沢地裁・志賀原発運転差し止め判決—」としてその画期的な意義を紹介した判決は、今年の3月24日であった。その際、翌日の読売社説などはこの[志賀原発判決]を「科学技術を否定するものだ」と題して「原子力に「絶対安全」を求めた問題判決と言えるだろう。」と反発はしたものの、原子力発電所の耐震設計審査指針については、「現在の指針は20年以上前に作られた。最新の知見に合わせて、もっと安全に余裕を見込み、分かりやすいものにすべきだ、という声は多い。」、「政府の原子力安全委員会は5年近く前から見直しを検討中だ。だが、専門家の間で議論がまとまらない。今回の判決はその隙(すき)を突かれた、とも言える。」と述べて、判決の根拠を逆に証明してしまっていることは、すでに指摘したとうりである。
その後、問題の原子力安全委員会・耐震指針検討分科会は、判決直後の3/28、4/7、4/8と審議を急ピッチで進め、しかもしばしば長時間にわたって行い、5/23には「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(案)」、「原子力安全基準・指針専門部会の見解」、「各種指針類における耐震関係の規定の改訂等について(案)」を発表し、これに対する意見募集を、行政手続法に基づいて公表し、その際、この「パブリックコメント」という意見募集について、「本意見募集に応募いただいた意見のうち反映すべきものは、原子力安全委員会の調査審議に反映させるとともに、その反映状況をとりまとめ公表いたします。」と内閣府原子力安全委員会名で明らかにした。
そしてこのパブリックコメントへの公募には、実に726通もの多数の意見が寄せられ、しかもそのほとんどは発表された原案の見直しを求めるものであった。とりわけ、中田高・広島工業大教授ら活断層研究の専門家から「指針に基づいて決められた活断層調査の基準は不十分。過小評価につながる恐れがある」との厳しい問題点が指摘され、同時に原案発表後の今年5-6月には、中田高教授らによる調査によって、島根原発近くで中国電力による調査を大幅に上回る活断層が見逃されていたこと、その活断層ではM7級地震が起こる可能性があることが判明、指針や改定案の不十分さが浮き彫りとなり、耐震指針検討分科会においても、この最も重要な活断層の扱いが大きな論点となったのであった。何しろ新しい指針案は耐震設計の最大震度を電力会社が容認するM6.8にとどめることを至上命題としていたのである。

<<石橋委員の辞任>>
そして、耐震指針検討分科会は、パブリックコメントを受けて7/4、7/19、8/8、8/22と開かれたが、「議論を蒸し返さない」ということだけがしきりに強調され、これらの意見募集の結果に対して「調査審議に反映させる」どころか、十分な審査・検討をほとんど行わず、結果的にはこれらの意見募集を単なるアリバイ作りとして位置づけることになったのである。8/22には鈴木篤之・原子力安全委員長自らが分科会論議で発言し、「修正はできれば必要最小限にしていただきたい」と露骨な圧力をかけ、「指針改訂案をできるだけ早期に確定いただくことを何としてもお願いしたい」として、議論に終止符を打たせ、とにかく幕引きを急ぎ、事務局の主査に一任して検討分科会が閉じられたことが明らかになった。
その耐震指針検討分科会の結論を決定し、改定案を取りまとめる最終日の8/28、会議の冒頭、神戸大の石橋克彦教授が原子力安全委員会・耐震指針検討分科会の委員辞任を表明したのであった。
議事録によれば、石橋委員は次のように述べている。
「本分科会の5年に及ぶ審議のなかで、「活断層」の心髄に迫る議論や外部専門家の解説は、行われなかった。したがって、分科会関係者全員が「活断層」のことを正しく知らないまま改訂指針案がまとめられた、といっても過言ではない。」
「私が一番残念に思う点は、活断層研究の第一線にいる変動地形学者の生の説明を分科会で聴けなかった、聴かなかったことであります。複数の外部専門家による貴重な活断層問題の解説があったわけですけれども、そのときに同時に変動地形学者にも来ていただいて、彼らが、地形発達史というようなものも論理的によく考えながら活断層をどのように認定して実証しているか、そこにどんな困難や問題点があるか、そういう話を直接伺っていれば、もちろん私を含めて分科会の委員、それから原子力安全委員の先生方、事務局、関係各省庁、民間の関係者の方々の理解が恐らく格段に深まって、意見公募で指摘された大きな問題点を事前にクリアできたのではないかと思います。」
「きょう提出されている震分第48-2号の事務局から出された修文案は私としては非常に納得しがたいものであります。つまり、これは7月4日以来、特に19日以来、私が非常に強く主張している2つのこと。つまり、改正行政手続法に基づいて意見公募を行ったその提出意見を十分に尊重すべきであるということ。それから、島根原子力発電所の近傍で6月に生じた活断層の大きな問題、これが一般的な、根本的な問題であるということ。原子力と活断層の問題をきちんと反省するというか振り返ってみること。その2つを根本にすえて修文を考えるべきであるということも私、主張していたわけですけれども、その2つともが全く理解されなかったというか理解しようとされなかったという結果、こういう修文案が出てきたんだ、と私は理解しております。」

<<分科会の正体・本性>>
ことここに至って、石橋委員は最後に「私は地震科学の研究者として自分の知識や考え方を極力その社会に役に立てたいという気持ちでこの会に参加してきたわけでありますけれども、このような分科会のありさまでは、このままここにとどまっていても私は社会に対する責任が果たせないと感じます。むしろ今これだけのパブコメが寄せられてそれを取り上げて議論している中で、この状況ではむしろ私としてはパブコメを寄せてくださった方に対する背信行為を行いつつあるような感じすらいたします。ですので、今ここで私は原子力安全委員会の専門委員を辞任いたします。耐震指針検討分科会の委員をやめさせていただきます。これまで4年9カ月ぐらいですけれども、分科会の委員の先生方、それから原子力安全委員の先生方、それから事務局の方々、あと外部の専門家の方々から非常に多くのことを学びました。それは大変感謝しております。しかし、最後の段階になって、私はこの分科会の正体といいますか本性といいますか、それもよくわかりました。さらに日本の原子力安全行政というのがどういうものであるかということも改めてよくわかりました。私がやめればこの分科会の性格というのが非常にすっきり単純なものになるだろうと思います。ですので、そこであとは粛々とこの審議を進めていただいて合意をなさったらよかろうと思います。」と述べている。
石橋氏は、退席後、原子力安全・保安院、原子力安全委員会のこれまでの活断層調査が現在の活断層研究の常識からみて、あまりに不合理であり、「原子力における活断層研究は異常。非常に特殊なごく一部の人が牛耳っている」と報道陣に述べている。
石橋氏が一貫して原発震災がもたらす重大で悲惨な結果に警鐘を鳴らし、原子力安全委員会の専門部会においても「少しでも良いものに」という真摯な姿勢がついに受け入れられなかったのである。それは原子力安全委員会なるものの正体・本姓が、石橋氏の警告を受け容れられなかったことを示している。

<<「残余のリスク」>>
原子力安全委は今月中にも開く本委員会で改定案を正式決定する予定であるが、原案通りとなることが見え透いている。これまでの耐震基準は全国一律に最大マグニチュード(M)6・5と想定していたものを、M6・8程度に引き上げるが、全国一律とはせず、また旧指針では「過去5万年間に動いた活断層」を対象にしていたが、「過去12万年間」に広げてはいる。
しかし、この「M6・8」という基準は、電力業界が「新たな目安」として国に要望していた数値であり、既存の原発に適用しても、巨額の経費がかかる耐震補強工事は必要ないと強弁しているものである。
だが現実には、阪神大震災ではM7・3を記録しており、00年の鳥取県西部地震では、活断層が見つかっていない地域でM7・3の地震が起き、05年には宮城県沖でM7・2の地震が起こり、原発が建つ岩盤上の揺れが設計上の限界を超えている。パブリックコメントでも多くの意見がM6・8の基準では不安が残るという声を寄せているのは至極当然のことと言えよう。
新指針案は、サラ金規正法における金利上限審議と同じく、いやそれ以上に業界寄りの妥協値なのである。
これと関連して新指針案でもう一つ指摘しておきたい重大な問題は、今回新たに「残余のリスク」の存在なるものを言い始めたことである。新指針案によれば「残余のリスク」とは「策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより、施設に重大な損傷事象が発生すること、施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること、あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被爆による災害を及ぼすことのリスク」というものである。「この残余のリスクを十分認識しつつ、それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきである」としている。
これは明らかに、彼らが低く見積もった想定の震度を上回る現実的可能性を排除できないが故の逃げの論理である。しかも「合理的に実行可能な」とは、これまた低い震度までは最大限の努力をしてきたのだから、それ以上の震度による被害に関しては責任を負えないという責任回避の論理である。そもそも「施設に重大な損傷事象が発生すること、施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること、あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被爆による災害を及ぼすことのリスク」が存在するのであれば、原発の建設は即刻中止すべきであり、認めるべきではないのである。ここにも重大な原子力安全委員会の背信行為が行われていると言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.346 2006年9月23日

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