【コラム】ひとりごと—愛国心だけが焦点か—

【コラム】ひとりごと—愛国心だけが焦点か—

○教育基本法改正案が、自公与党による協議会でまとまったという。報道によれば、自民党が「愛国心」の盛り込みを主張し、公明党が「戦時中の国家主義を想起させる」と反対し、折衷案として「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という表現にまとめられたという。○あたかも、公明党が自民党の主張を止めたかのような報道だが、マスコミ向けのポーズにすぎない。よくもまあ、非公開の会議を70回もやって、国民的議論もなしに、通常国会中に成立させようというのだからあきれた話だ。○「国家権力の不当な教育支配」を排除し、学問と教育の自由を保障し、平和と個人の尊厳を尊重するとした現行教育基本法の精神を骨抜きにしようとしているのである。○与党の最終報告案を読んで思うのは、教育を保障する公的責任を放棄して、家庭と個人の自立が大切だ、と言う内容になっていること。不当な支配が、国家権力ではなく、あたかも日教組であるかのような印象であること、現行教育基本法の文言を一部残しつつも、新自由主義的な主張をちりばめ、且つ国家主義的に「道徳心」や「国の発展」を強調している。○要するに、支配する側の危機感を背景にしているのであって、国民的な関心をよべるような中身ではない。官僚は、きっちり「教育振興基本計画」の文言をすべり込ませて、予算の確保を担保しようともしている。○すでに明らかになっている格差社会の広がり、教育機会の不均等、一方における拝金主義的傾向など、国民の多数が教育に対して抱いている不安に応える内容ではない。○こうして考えると「我が国と郷土を愛する」文言だけが自公の対立点だったなどというのは茶番にしかすぎない。公明党も納得したのだから、自民党だけで決めたわけではない、というポーズにすぎないのである。○「障害者問題」にも盛り込まれたというが、すべての文脈とはかけ離れ、唐突に出てくる。国際化社会の点から、また共生の社会という点からも、単一的な発想ではなく、多様性と寛容の立場、相互理解の立場が求められているのである。○国を愛せよと言うのではなく、愛することのできる社会や国にすることが先ではないか。中国韓国と、靖国問題で対立を煽り、偏狭なナショナリズムを撒き散らしている小泉政権による教育基本法改正は、許してはいけない。(佐野秀夫)

 【出典】 アサート No.341 2006年4月22日

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