【投稿】原発震災への画期的な警告

【投稿】原発震災への画期的な警告
                   —金沢地裁・志賀原発運転差し止め判決—

<<驚きと衝撃>>
周知のとおり、先月の3月24日、金沢地方裁判所は、志賀原発2号機の運転差止訴訟において、「被告(北陸電力)は、石川県羽咋郡志賀町赤住地区において,平成11年4月14日付通商産業大臣許可に係る志賀原子力発電所2号原子炉を運転してはならない。」という主文の、画期的な判決を出した。
問題の北陸電力・志賀原発2号機は、老朽化した旧来型の原発ではなく、最新型の改良型沸騰水型炉=ABWRで、出力135万8000キロワットは国内2番目の大きさであり、この3月15日に国内55基目の商業用原発として営業運転を始めたばかりであった。
この志賀原発2号機に対して、金沢地裁は、1、直下地震の想定が小さすぎること、2、考慮するべき断層による地震を考慮しなかったこと、3、耐震設計の際、地震動の想定に使われている「大崎の方法」に妥当性がないこと、などを主たる理由として「電力会社の想定を超える地震動が原子炉の敷地で発生する具体的な可能性があるというべきだ」と認定し、「被告の耐震設計は、地震によって予想される本件原発周辺住民が受ける被害の内容や規模に照らして相当と評価し得る対策を講じたものとは認め難い。よって、人格権侵害の具体的危険が認められる原告らについて、その本件原子炉運転差止め請求を認容すべきことになる。」として、「原子炉を運転してはならない」という主文の判決を結論としたのである。
営業運転中の原子炉の運転差し止めや原子炉設置許可の取り消しを求めた訴訟で、原告の訴えが認められたのはこれが初めてであり、なおかつ地震動が原発運転差し止めの主たる理由として認められたのは歴史上初めてのことである。
電力業界はもちろん、原発政策を推し進める政府にとっては、この判決そのものが巨大地震の「激震」と受け止められ、その衝撃に今も揺さぶり続けているといえよう。
判決当日出された北陸電力・永原功社長名のコメントは、「今回、志賀原子力発電所2号機の安全性について、裁判における当社の主張が認められなかったことは、誠に遺憾に思う。まさに不当な判決であり、驚きをもって受け止めており、準備が整い次第、直ちに控訴したい。」と、あわてふためき、「志賀原子力発電所2号機は、今月15日に国の最終検査に合格して営業運転を開始しており、現在も安全・安定運転を継続している。志賀原子力発電所2号機の安全性は十分に確保されており、今回の判決をもって運転を停止することはない。」と、判決を真摯に受け止める姿勢までかなぐり捨てて、むしろ挑戦的でさえある。
判決の第一報を聞いた経済産業省原子力安全・保安院の広瀬院長も、「判決の内容をよく見てみないと分からないが、まったく予想していなかった」としてその驚きぶりを隠せなかったほどである。

<<「隙(すき)を突かれた」>>
3/25付読売社説に至っては、[志賀原発判決]「科学技術を否定するものだ」と題して、「原子力に「絶対安全」を求めた問題判決と言えるだろう。あり得ない状況まで想定していては、どんな科学技術も成り立ち得ない。」と反発している。しかしその一方で耐震設計審査指針について、「現在の指針は20年以上前に作られた。最新の知見に合わせて、もっと安全に余裕を見込み、分かりやすいものにすべきだ、という声は多い。」ということは認めざるをえず、「政府の原子力安全委員会は5年近く前から見直しを検討中だ。だが、専門家の間で議論がまとまらない。今回の判決はその隙(すき)を突かれた、とも言える。」と述べて、判決の根拠を逆に証明し、自身については最新の科学技術の知見の成果をかえりみない態度を暴露してしまっている。
今回の判決ははまさに、相当に詳細な最新の科学技術の知見の成果とその分析にもとづいて、「電力会社の想定を超える地震動が原子炉の敷地で発生する具体的な可能性があるというべきだ」との評価に至ったのである。
判決は、現行の原子力施設の耐震基準が、1978年に策定された古い地震学の知見に基づくもので、近年次々と発生している地震で確認された諸事実から、基準の不十分さが明確になったとして、2000年10月6日の鳥取西部地震では活断層が未確認の地域でマグニチュード7.3が観測されたが、島根原発の安全審査では直下地震としてマグニチュード6.5しか想定していないこと、2005年8月16日の宮城県沖地震は女川原発の安全審査の想定より遠くて小さい地震であったが、想定以上の揺れを観測したこと、政府の地震調査推進本部が想定する地震規模に比較して原子力施設の設置許可時の想定する地震規模が小さいこと等に具体的に言及して、安全審査で想定した地震での揺れの推定が、実態と合わないことを厳しく指摘している。
そして、これまでの原発の耐震設計について、実質的に日本にあるすべての原子力発電所、再処理工場などの核燃料サイクル施設の耐震設計に用いられ、国も妥当な方法と認めている「大崎の方法」は観測結果と整合していないことが、裁判所によって確認され、原発の耐震設計の元になる基準地震動の計算方法に妥当性がないとされたのである。
原発と地震動の関係についてこれほど詳細に論じ、分析した判決はこれまでになかったことである。

<<「積極的な反論は乏しく」>>
さらに判決は、石川県能登半島の原子炉施設立地についても詳細に言及し、「石川県が我が国の他の都道府県と比較して,地震の数が少ないことは公知の事実であり、歴史時代において記録が残されている地震で本件原子炉敷地周辺が受けたと推測される震度は、強震以上が5回、烈震以上が2回で、激震はないことが認められる。しかしながら、他方、我が国において、過去の地震活動性が低いと考えられていた地域で大地震が起こった例が珍しくはない上、むしろ従前地震が起こっていない空白域こそ大地震が起こる危険があるとの考え方も存在する。その上、前記のように、近年,東へ動くアムールプレートの存在を指摘する学説があるところ、証拠(甲717)によれば、この考え方によれば,サハリン、北海道、東北、北陸、山陰付近がその東縁変動帯に当たり、大地震の発生が予測される地域に当たるというのであるから、件原子炉敷地周辺で、歴史時代に記録されている大地震が少ないからといって、将来の大地震の発生の可能性を過小評価することはできない。そうすると、被告が設計用限界地震として想定した直下地震の規模であるマグニチュード6.5は、小規模にすぎるのではないかとの強い疑問を払拭できない。」と述べる。
さらに続いて、国の地震調査委員会が公表した原発近くの邑知潟断層帯に対する評価を詳細に述べ、「本件原子炉施設の耐震設計については,その手法である大崎の方法の妥当性自体に疑問がある上、その前提となる基準地震動S2の設計用模擬地震波を作成するについて考慮すべき地震の選定にも疑問が残るから,本件原子炉敷地に,被告が想定した基準地震動S1、S2を超える地震動を生じさせる地震が発生する具体的可能性があるというべきであり、原告らは、本件原子炉が運転されることによって、本件原子炉周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的可能性があることを相当程度立証したというべきである。」と結論付けている。
そして当事者、被告・北陸電力側の態度について、判決は、「これに対して、本訴において被告がした主張立証は、耐震設計審査指針に従って本件原子炉を設計、建設したことに重点が置かれ、原告がした耐震設計審査指針自体に合理性がない旨の主張立証に対しては、積極的な反論は乏しく、現在調査審議が継続中の耐震設計審査指針の改訂が行われれば、新指針への適合性の確認を行うと述べるに止まった。」と厳しく断じている。

<<全原発に共通>>
本来ならば北陸電力は、判決が提起する問題点に真剣に対処する姿勢を示し、速やかに志賀原発2号機の運転を停止し、閉鎖の準備を開始するべきなのである。ところがこれに反発するかのように「今回の判決をもって運転を停止することはない」とする態度である。これを見越したかのように、判決はこうした姿勢についても以下のように述べている。
「本件原子炉の運転は私企業の経済活動であるが、被告が本件原子炉で生産しようとしているものは電気という公共財であり、その運転が差し止められれば、我が国のエネルギーの供給見通しに影響を与えかねないということはできる。しかしながら、証拠(甲955)によれば、平成16年秋には本件原発1号機の定期検査が約2か月間延長されたが、被告の電力供給にさしたる問題がなかったことが認められるから、本件原子炉の運転が差し止められても,電力需要が伸び悩む中,少なくとも短期的には,被告の電力供給にとって特段の支障になるとは認め難い。他方、被告の想定を超える地震に起因する事故によって許容限度を超える放射性物質が放出された場合、周辺住民の生命、身体、健康に与える悪影響は極めて深刻であるから、周辺住民の人格権侵害の具体的危険は,受忍限度を超えているというべきである。」
つまり判決は、志賀原発2号機の運転を停止しても北陸電力の電力供給に何ら問題はないことを認めており、事実においても北陸電力は、電力需要の伸び悩みから、余剰電力としてほぼこの原発一機分の電力を他社に売却しているという。
判決は最後の部分で、「原子力発電所のような先端の科学技術を利用した設備や装置は、常に事故の危険を孕んでおり、その可能性を零にすることは不可能であるが、その設備や装置を設置して利用することについて社会的合意が形成され、かつ設置者が、想定される事故及びこれによって予想される被害を回避するために、その被害の内容や規模に照らして相当と評価し得る対策を講じたのであれば、それでもなお残存する危険については、社会的に許容されていて違法性がないとみる余地があると解せられる。しかしながら、既に詳細に説示したところによれば,被告の耐震設計は、地震によって予想される本件原発周辺住民が受ける被害の内容や規模に照らして相当と評価し得る対策を講じたものとは認め難い。」と述べている。
この結論は、地震列島である日本に位置するすべての原子力関係施設についても言えることである。判決が指摘する耐震設計の欠陥は、小手先で覆えるようなものではなく、日本中の全原発に共通する欠陥でもある。取り返しのつかない惨事を招かないためにも、とりわけ地震頻発の巣の中に位置している中部電力浜岡原発や六ヶ所村の再処理工場・核燃料サイクル施設は直ちに運転を中止し、閉鎖に着手すべきである。
今回の金沢地裁判決は、原発震災への画期的な警告として受け止められる必要があるのではないだろうか。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.341 2006年4月22日

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