【投稿】公務員バッシングの嵐が吹き荒れる

【投稿】公務員バッシングの嵐が吹き荒れる

 総選挙は、予想を超えた自民党の圧勝となり、自公の超安定・権力集中型政権の誕生となった。どうしてこの結果が生み出されたのか。多面的な分析が必要になると思われる。
 
 <民主党、都市部で敗退>
 選挙結果に注目すべきは、自民党が都市部の小選挙区で圧勝したことである。東京都では、菅ただひとりが小選挙区で当選、他はすべて自民党、公明党が占めた。神奈川、千葉、埼玉、大阪、福岡でも同様であり、都市圏の無党派層が小泉自民党に流れた結果である。
 これまで、民主党が基盤としてきた都市部有権者が自民党に投票したこと。同時に比例票についても、自民党が民主党を圧倒してしまった。
 先にあげた、6府県の小選挙区は、東京23(自民21、公明1、民主1当選、以下同様)、神奈川18(自民16、公明1、無所属1、民主0)、千葉13(自民12、民主1)、埼玉15(自民12、民主3)、大阪19(自民13、公明4、民主2)、福岡11(自民9、無所属1、民主1)であり、都市部99議席のうち、自民党が83議席、公明6、無所属2、民主8という結果である。
 民主党敗北の背景は、この都市部での完敗と言っていいと思われる。
 何故勝てたのか、であり、何故負けたのか、ということになる。
 
 <マスコミが、小泉に肩入れ>
 選挙中のテレビ報道が、余りに自民党寄りに傾斜していた事は、だれもが感じたことである。気分が悪くなるほどであり、私は選挙中はテレビを見ないようにしていたほどである。
 さらに、郵政反対派を切り捨て(公認しない)、「刺客」を送ったことで、それらが「注目選挙区」とされ、マスコミの報道は、ほぼこうした選挙区の動きにのみ集約され、選挙の関心は、「刺客」が勝つか、反対派が勝つか、に収斂されていく。これらの過程は、8月8日の解散以降、告示の8月30日まで、延々と続くことになる。
 森田実氏は、「体制翼賛報道」と指摘しておられるが、まさにマスコミが自民党に加担したことは、犯罪的といえるほどである。こうした「無分別」なマスコミの「特性」を熟知した上で、選挙戦略を打ち出した事は、残念ながら「敵ながらあっぱれ」と言わざるをえないのかも知れないが。
 
 <小泉の4年間を思い起こせば>
 自民党内の対立を、自公対民主の対抗以上に煽りたてたマスコミの今回の所業を我々は忘れるわけにはいかない。こうした報道姿勢に良心的な視聴者の非難が集中したのは当然であり、選挙終盤になって、申し訳のように、「郵政以外にも争点はある・・」のような報道も一部に見られたが、それは言い訳に過ぎない。
 本来小泉の4年間を総括する、という番組があってもいい。そうすれば、日朝会談は実現したものの、拉致問題は膠着。日朝関係は凍結状態。特殊法人改革として「道路公団民営化」を進めたものの、計画道路の建設継続、橋梁談合の発覚、国連常任理事国入りを宣言したものの、国際的支持得られず。靖国参拝に対するアジア諸国からの批判続出、ブッシュに追随してイラク自衛隊派遣したものの、不正義の戦争であることは明らかになり、泥沼化。そして所得税・消費税の引き上げが否定もされず既定路線化。市場主義・能力主義への肩入れから、ニートの増大、年金「改革」と言ったものの、負担増の給付減で、年金不信払拭できず。医療改革など手も付けられず・・・と何の成果もないことが明らかであろう。
 
 <予想外の大勝に、危惧広がる>
 憲法改正の発議も視野に入った自公政権だが、予想外の巨大与党の出現を受けて、今度はマスコミも「独裁政権」への危惧を口にし始めた。それは後の祭りというものだ。しかし、また、巨大与党故に自らの責任も大きくなったということでもある。民主党が年金、増税、子育てとマニュフェストで「真面目に」提起したように、この巨大与党が、何らの解決策を持っているとは思えない。公共事業の縮小にしても、年金の統合問題にしても、霞ヶ関官僚政治からの脱却にしても最初に提起したのは民主党であった。そういう意味でも、小泉の「政策」は、民主党からのパクリが多いのである。ここにまた、2大政党とは言え、違いがすっきりしない原因ともなっている。
 
 <自民党と民主党の違いは?>
 旧自民保守派と支持基盤の郵政族を切り捨てて、郵政民営化・構造改革を断固進めると訴えて小泉は圧勝した。確かに小泉は、旧来の自民党をぶち壊したのかもしれない。市場主義・自由主義に純化したかに「振舞って」である。
 市場主義・自由主義は、民主党内に根強い傾向でもある。新進党・自由党・日本新党の流れの民主党議員達は、社会民主主義よりも、「公平性のある自由主義」という主張を持っている。今回の選挙では、郵政民営化を材料に、自民党の方が、より改革的であり、民主党の方が「保守的」に写しだすことで、「日本を何とかしなければ」という、国民の中にある不安や期待を、自民への投票に結びつけることができたのである。
 そこで、民主党の課題は何かということになる。市場主義・自由主義の競い合いをする限りは、自民党と違いが曖昧なままということになる。対抗政党として、何を訴えるのか、民主党に問われているのである。
 
 <公務員バッシングが強まる>
 公務員削減、人件費削減は、自民も民主も掲げた。民主はマニュフェストで、公務員に労働基本権を認めることを銘記した上で、人件費の削減を掲げていた。
 そして、自民党であるが、「郵政民営化」では、実際に借金国家を抜け出すことはできないばかりか、「受験生に同行する教育ママ」よろしく、民営化過程で、追加支出を公言してきた。財政再建は増税でしか行えないことを隠してきた自民党は、当然財政削減の目玉として、「公務員の人件費削減、人員削減」を強行してくるだろう。
 自民党のテレビCMを覚えていますか。小泉は「郵政公務員27万人の既得権を守って、財政再建ができるんですか」と訴えた。背景、服装は、8月8日の参議院郵政法案否決後の記者会見と同じであった。小泉の決意を印象付ける映像であったが、その中で、「公務員の既得権」を守らないと宣言したわけである。大阪市職員厚遇問題などを発端にした「反公務員キャンペーン」、労組への弾圧など、公務員を槍玉にすることで、労組を支持団体に持つ民主党への「悪印象」を植え付けつつ。
 日本の公務員の数が、先進国の中でも、最低の水準維持会費あることは誰でも知っている。財政破綻の原因が人件費にあるはずもなく、ここでもデマゴギーを撒き散らしている。「大きな政府」か「小さな政府」か、と言えば、日本は十分に「小さな政府」なのである。
 公務員攻撃を強めて、そして増税。何をやるかは見えている。それでも、国民は自公政権を支持し続けるだろうか。(2005-09-17佐野秀夫) 

 【出典】 アサート No.334 2005年9月24日

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