【投稿】揺れ動く核燃料サイクル政策と福井県

【投稿】揺れ動く核燃料サイクル政策と福井県
                        福井 杉本達也

 「核燃料サイクル見直し」「増殖炉実用化を断念」・2004年5月11日付けの日本経済新聞の見出しは原発県にとってはショッキングなものであった。原子力委員会は「使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策を抜本的に見直す。使用済み燃料から取り出したプルトニウムを燃やす高速増殖炉の実用化は当面断念し、通常の原発で使うプルサーマル発電を主軸にする方針」で今年の11月までに結論を出すという。
 1995年12月の事故以来運転停止している高速増殖炉「もんじゅ」を最後のカードに“地域振興”を図ろうと打ち出したのが福井県の『エネルギー拠点化構想』である。「これまで不十分とされてきた原発と地元企業との共生を探る目的で、産学官連携による研究推進や地元企業への技術移転、技術者交流などの地域貢献」(福井:2004.4.27)などを計画しており、そのためわざわざ県組織を再編し、新たに電源立地地域振興課を設置した。もんじゅは「高速増殖炉国際研究開発センター」として拠点化構想の中核的役割を果たすとされており、その柱が断念されれば、福井県の“地域振興策”は夢幻となる。西川福井県知事は日経の記事発表後あわてて中川経済産業相と川村文部科学相を訪問し、国の真意を問いただした。福井新聞によると文部科学相は「報道されている核燃料サイクル見直しの方針が決まった事実はなく…もんじゅの重要性は変わらない」と説明した(福井:2004.5.27)というが、経済産業省は消極的なようで、「『何か確実に進む状況でないのに大臣を出すべきだったのか』との意見が強い」(福井:5.27)と報道されている。
 そもそも、福井県の打ち出した『エネルギー拠点化構想』というものの実態は不明である。エネルギーの1つである原発はもんじゅを含め15基も立地し、十分すぎるくらいに“集積”している。立地地域に交付される電源三法交付金は1974年から2002年までに1,930億円を超える。にもかかわらず福井県・立地市町村・経済界とも地域振興に貢献していないとしてさらなる拡大を求めている。地元は原発の工事=地元企業の受注を“期待”しているが、「棚からぼた餅」のような都合の良い経済活動が果たして期待できるものであろうか。「地元企業への技術移転」という言葉が空虚に響く。福井県内には既に日本海側屈指のサイクロトロンを設置した(財)若狭湾エネルギー研究センターという研究組織があるが、地元への貢献となると疑問符がつく。稼働率は5%という。研究センターを立ち上げる際、陽子線による金属工学への応用や農作物の品種改良などの農業分野への応用などという夢物語のサクセス・ストーリーを並べたものの、どれ1つとしてまともな成果を上げなかった。現在は当初構想を根本的に塗り替え、施設の設計変更をして陽子線照射によるガン治療が行われている。
 「原発の技術を地元の中小企業に移転しよう」という発想自体が眉唾ものである。原発は巨大エネルギーを生み出し、投資額も数千億円と大きいため技術も最先端だろうと“シロウト”は考えるが、それ自体は新しい技術ではない。日本の既存技術の集合に過ぎない。原子炉容器それ自体も圧力容器としてボイラー技術の延長にある。蒸気発生器も高圧ガスなどの熱交換機と同様の技術の延長線にある。原子炉から熱を取り出す各種配管も同様であり、SUS316等のステンレス鋼など多少取り扱いにくい金属が使用されているだけである。放射能により検査が困難な場所はロボットによる検査が行われているが、それも既存ロボット工学の応用である。福井県内の地場産業を振り返ってみても金属材料についてはそれほど秀でた中小企業は見当たらない。ステンレス鋼などの金属溶接についてもしかりである。ボイラーを製造する企業は多少あるが、原発の圧力容器のような大物を扱う企業は存在しない。ロボット工学を扱う企業も少ない。地元に受け入れるだけの技術集積が少ないのに技術移転といっても所詮無理がある。一方、福井大学は独立行政法人化後の生き残り策として、今期から大学院に原子力・エネルギー安全工学の分野を拡充し、産学官での共同研究に狙いを定めているが、英国BNFL社製のMOX燃料の品質管理をまともにできなかった電力会社に安全工学のイロハがあるとも思えない(この件については、以前に「原子力発電所の設計条件を厳密に把握しているのは原子炉メーカーのエンジニアだけであり、関電のようなプラントのオペレーターに設計条件や品質管理の細部について要求しても無理がある」と指摘しておいた(ASSET266号))。問題は原発の技術を「最先端技術」と捉え、あたかも全てが解決する魔法の杖ように世論をミスリードしている福井県や大学、一部研究者、文部科学省などにある。
 今、原子力委員会では核燃料サイクルをめぐって原子力推進派間においても熾烈な議論がなされている。電力会社は電力の自由化を契機に新規参入者との競争で、従来の総括原価主義に基づいた電気料金の決定方法を根本的に見直さざるをえなくなっている。使用済み核燃料からプルトニウムを抽出し、混合酸化物(MOX)燃料を作る青森県の六ヶ所村の再処理工場がほぼ完成した。しかし、工場が完成してもMOX燃料を主要に使用するはずだった高速増殖炉もんじゅは止まったままである。プルトニウムが貯まって核拡散防止条約に違反しないために再処理したMOX燃料を通常の原子炉の燃料に使おうというのがプルサーマルであるが、価格はウラン燃料の8倍にもなる。工場が40年間稼働すると再処理費用が18.8兆円かかると試算されており、このコストを電気料金にどう上乗せして誰がどう負担するかが問題となっている。総合エネルギー調査会の中間報告ではコストをガス事業者やコージェネなど電力供給の新規参入者にも負担させようという案であるが、核燃料サイクルは経済的にも社会的にもきわめて割高なのではないかという疑問はぬぐえない。
東京大学の山地憲治氏は朝日新聞紙上で「プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料は、『ウランを購入、濃縮、加工』してつくるウラン燃料よりも高くつく。…プルトニウムの経済的な価値はマイナスだ。…プルトニウム利用に特段のメリットはなく、それに踏み出すのは得策ではない…今必要なのはこの認識を共有し、原子力委員会が政策変更に舵を切ることではないか。少なくとも使用済み核燃料を『全量再処理する』という建前の旗を降ろすべきだ。これがすべての第一歩。…この議論は、六ヶ所工場に使用済み燃料を入れて放射能で汚染される『アクティブ試験』の前にする必要がある。」(朝日:2004.5.12)と述べている。もっともな議論である。
 ところが電力会社関連では無責任な議論が横行している。「やっと完成した再処理工場の凍結や使用済み燃料の全量再処理路線の変更を考えるべきではない。…将来、どうしても経済的に成り立たなければ政策変更もあり得るが、今はその状況でも時期でもない。プルサーマルで技術を磨きながら高速増殖炉をめざすべきだ。」(朝日・2004.5.12)と宅間正夫日本原子力産業会議専務理事は答えている。使用済み核燃料が原子炉サイト内に満杯となって原子炉がストップしてしまう。ともかく厄介者の使用済み燃料を六ヶ所村に持ち出さなければという目先の思惑からである。
7月3日の各紙は一斉に「核燃料サイクル 国94年に『割高』把握 試算公表せず」(朝日:20040.7.3)と報道した。国内で再処理する場合は1キロワット当たり2.30円と直接処分1.23円の2倍かかるというのである(98年の試算では4倍)。その後さらに原子力委員会や電事連・旧動燃も同様の試算を行っていたことが明らかとなったが、情報を公開せず既成事実の積み重ねによって既定路線を突き進もうとする国の核燃料サイクル政策はここにきて完全に破綻した。5月14日佐藤栄佐久福島県知事は核燃料サイクルの一時中断を近藤駿介原子力委員会委員長に要請している。そうした福島県や新潟県の動きとは異なり、何の技術的判断もせず、国の原子力政策に無批判に追随してきた福井県の地域振興策もここにきて完全にシナリオが狂い失速した。国の原子力政策が揺れ動いている現実を直視せず、ほんの少し先も読めず「もんじゅ」をカードにひたすら地域振興を声高に叫び、「エネルギー拠点化構想計画策定委員会委員」に今年3月の参議院で福島瑞穂議員の質問に対し、核燃料サイクルの試算はないと虚偽答弁した日下一正元資源エネルギー庁長官を人選し、県庁組織の衣替えまで行った西川知事の責任は厳しく問われなければならない。 福井県も目先の利益ではなく中長期的な立場に立つ判断をすべき時期である。

 【出典】 アサート No.320 2004年7月24日

カテゴリー: 原発, 杉本執筆 パーマリンク