【コラム】ひとりごと–小泉支持率上昇の怪–
○小泉政権支持率が上昇している。とても奇妙な事だと感じる。失業率は高率で推移しているし、景気がよくなったわけでもない。大企業の3月期決算は軒並み黒字だというが、減収増益でリストラなどでの固定費の圧縮が主因とも言われている。経済的には、何も良いところはない。むしろ一層不透明感が強くなっている。○「破綻」ではなく「再生」だと強弁してみせた、りそな銀行の公的資金投入・実質国有化など経済運営では、評価できるところはないはずである。○あるとすれば、皮肉な事に自民党の中に「まともな」総裁選の対抗馬・人材が皆無であり、対抗勢力である民主党の影が薄くなって「菅人気」も下げ止まりと言う状況の中での、「何かはやってくれそう」という期待だけということになる。○しかし、そんな小泉政権の下で、やりたい放題がまかり通っていることこそ、一番危険なことだと思える。○その一つは、外交・安保問題である。特にミサイルが飛んできたらどうなるのか、と専守防衛の枠を超え、先行攻撃論に近い防衛の基本方針の変更が叫ばれだした。本誌に投稿いただいた大阪Oさんの諸論考で明らかにされているが、北朝鮮脅威論なる虚構の危機感を煽り立て、地に足の着かない議論が公然と行われている。○昨年9月の日朝首脳会談は、ある意味で対アジア外交におけるアメリカ主導からの脱却の側面を持ってはいたが、アメリカ抜きに激怒した一喝によって、何が何でもアメリカ追随との姿勢に転換した小泉政権は、イラク戦争への無条件賛同から、自衛隊のイラク派遣のための新法制定の動きまで、アメリカとの同盟関係からのみ結論を出すという主体性のまったくない、追随外交の道を歩んでいる。○次に、企業献金の枠の拡大に見られるような「政治改革」のなし崩し的な後退がある。汚職議員や疑惑議員が議員辞職もせず、国会に居座っている中、経団連は企業献金の公然たる配分を再開することを宣言している。支持率の高い小泉政権のうちに、そして公明党が与党病・大臣病にどっぷり浸かっているうちに、そして対抗勢力たるべき民主党が低迷しているうちに、何でもありと思っているのだろう。○「骨太の改革」も今や完全に色褪せ、自民党を潰すどころか、官僚のエゴにも断を下せず、彷徨う小泉政権に対して、年末とも言われる解散総選挙では、支持率の高さにも関わらず、与党に厳しい選挙結果を予想するのは、私だけではあるまい。(2003-06-17佐野秀夫)
【出典】 アサート No.307 2003年6月21日