【映画紹介】「戦場のピアニスト」を見て
2月の下旬、ロードショー公開1週間後だったが、話題の映画「戦場のピアニスト」を見に行った。平日だったが、映画館には行列が出来ており、年齢層は結構年配層が多いようだった。上映が始まる頃には、すでに満席状態となった。
話題の多い映画である。一つには、ポーランド・ワルシャワでゲットー生活経験のあるロマン・ポランスキー監督作品であるということ。一方的なナチスドイツの侵略面・ユダヤ人抑圧の描写だけでなく、ワルシャワにおいてナチスドイツに協力したユダヤ人もいたことや、さらにドイツ軍の中にも主人公のピアニスト・スピルマンを助けた軍人が存在した事などを描いているように、目線が極めてフラットで、淡々と実像に迫ろうとしている。そして、ピアノで始まり、ピアノで終わるというように、ピアノ以外に音楽は登場しない点などが挙げられる。
主人公は、ワルシャワに住むピアニスト、スピルマン。ラジオ放送局でピアノを演奏中にナチス・ドイツのポーランド侵攻の砲撃が始まり、ビルから脱出するシーンから映画は始まる。スピルマンはピアニストというだけで、反戦活動家でもなければ、レジスタンスメンバーでもない。
ポーランド侵攻後、ワルシャワの一角、ユダヤ人ゲットー街区への強制移住が行われる。預金の凍結、財産の没収、無差別のテロの恐怖が襲う。そして、侵略者に協力しているユダヤ人警察官の計らいで、家族の中でただ一人、強制収容所への移送から逃れたスピルマンは、ポーランド人音楽家の協力で、アンネの日記のような、アパートの一室に閉じ込められた生活をすることになっていく。
段々と狭められるゲットー。その中での息の詰まる生活、容赦ない殺戮と死への恐怖。隠れ家のアパートから、彼はワルシャワ・ゲットー蜂起を目撃するが鎮圧されてしまう。この場面でも、ハリウッド映画のような「アクションシーン」としてではなく、隠れ部屋の窓から見える風景のようなシーンが展開され、観客自身がその体験者となるような描き方が取られている。やがて、ワルシャワのポーランド人も立ち上がり、ワルシャワ蜂起が起こり街は廃墟となっていく。その中で、スピルマンはドイツ軍将校トーマスに見つかってしまう。スピルマンがピアニストだと分かると、トーマスは何か弾くことを命じる。廃屋に残されたピアノで、2年ぶりに弾いた曲はショパン。動かない指もやがて蘇った。そして、トーマスとスピルマンの関係が生まれていく。
ついにナチス・ドイツは敗れ、トーマスも捕虜となる。スピルマンは、トーマスが捕らえられたことを知り助命を嘆願するが、既にソ連へ送られていた。
ラストシーンは、ポーランド解放後のピアノコンサート場面となる。主人公のスピルマンが自由に演奏する場面である。最後までピアノが主人公で、ピアノを引く手と鍵盤を背景にエンディングとなるのだが、音楽に余り素養のない私も含めて、ほとんどの観客が静かにスクリーンと演奏に浸っていた。
3時間近い長編であるが、本当に静かな映画である。一人のピアニストの奇跡的な経験を通して、戦争が人それぞれにもたらした悲惨を淡々と描いている。是非、ご覧になることをお薦めしたい。(佐野秀夫)
【出典】 アサート No.304 2003年3月22日