【投稿】東電の原発点検記録改ざん(その2)

【投稿】東電の原発点検記録改ざん(その2)
          -気密試験のデータ操作疑惑について– 

 東電福島第一原発1号機の原子炉格納容器の気密試験についてデータを不正に操作した疑いがでている(2002.9.26「福井新聞」、9.30「日経」)。気密試験は内部に(あるいは外部から)圧力のかかる機器の定期検査の最後に行うものであり、最も基本的・基礎的な検査である。原子炉格納容器においては最高使用圧力の1.125倍の気圧で耐圧試験を行い、この状態を30分続けた後、圧力を下げ、最高使用圧力の0.9倍の圧力をかけた窒素ガス(窒素ガスは比較的安価で安全であり、原発においては液化窒素ガスのタンクローリーを数台並べて行う)によって漏えい検査することとなっている(放射能の漏えいを防ぐため原子炉格納容器は負圧に維持されているが、検査においては内部から圧力をかけても結果は同様である。「発電用原子力設備に関する構造等の技術基準」(告示))。それを国の係官立ち会いのもとで行うというのが一般的である。これまでの新聞報道は事の重大性を認識していないためか、きわめて扱いが控えめであるが、もしデータ操作が事実であれば、原子炉等規制法・電気事業法違反というばかりでなく、「原子炉格納容器は、放射性物質の外部への漏えいに対する最終障壁であるということから国の安全審査において安全評価された漏えい率が実際に確保されているかどうかを気密試験により確認する必要がある」(「技術基準を定める省令」解説)という位置づけからしても、日本の原発の定期検査の信頼性を根底から突き崩す重大な不正である。
 0.9倍の気圧で所定の数値以上の漏れが発生していたとすれば、本来は原子炉格納容器と各機器・配管の継ぎ手・溶接部等を含め、どこに漏れがあるかを確認しなければならない。高圧ガスの場合には片手に石けん水を持って、漏えいしやすい場所に吹きかけて泡がでれば漏えいが確認されるという方法が一般的である。一見原始的方法であるが、どんなに微細な漏えいでも発見する事が可能であり、検査としては確実な方法である。「技術基準」でも原子炉格納容器底部ライナ部分については「石けん水による局部漏えい試験」を例示している(そのとおり行っているかどうかは定かではないが)。これは数ヶ月の定期検査を最初からやり直すに等しい時間と費用がかかる。高圧ガスにおいては原発ほど構造が複雑でないため、バルブ部分のボルトの締め直しや溶接部の点検などでおおかたの漏えいは止まるのであるが、それでも、保温材で保温してある配管は、保温材を剥がさなければならない。
 原発のような圧力容器や熱交換機、各種弁類、ポンプ類、配管が絡み合う複雑な機器の場合、各機器においてどのように漏えい試験を行っていたかはわからないが、全部を一発で行うことは不可能であるから、部分ごとにバルブを閉めて限定された部分に窒素ガスを入れて(あるいは水圧で)圧力をかけて漏えいがないが確認していたのではないかと推測される。この場合、係官の立ち会いは機器全体のうちのごく限定された部分の漏えい試験であったと考えられる。つまり、漏れが大きいような都合の悪い部分の漏えい試験は抜かされていた可能性がある。その部分は事前に業者が行ったということになるのであるが、そのデータも偽造していたのかどうか。いずれにしても、圧力容器の使用にあたっては水やガスなどの漏えいがないようにすることが検査の前提であるから、もし漏えいがあったとすると検査は不合格であり、検査をごまかして不合格品を使用していたということになれば、いつどこでどのような重大な事故が発生しても不思議ではない状態にあるということになる。
 なぜ、気密試験(漏えい率試験)がこれほど重要かというと、これまでボイラーは2百数十年にわたり、石油化学・高圧ガス等においても百年から数十年にわたりで重大な人身事故が繰り返されてきた、その事故対策・安全管理の蓄積の上に今日の技術が乗っかっているということであり、こうした事故を防ぐための最低の検査ルールが気密試験であるということである。もし、東電が試験データを不正に操作していたとするならば、その百年・2百年にわたる圧力機器の事故対策に関する技術蓄積を全て葬り去るということである。(福井:R)

 【出典】 アサート No.299 2002年10月26日

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