【コラム】ひとりごと–日朝首脳会談に思うこと–
○編集真っ最中の9月17日、歴史的とも言える小泉首相の北朝鮮訪問・金総書記との日朝首脳会談が行われた。○直後の事なので性急な評価はまだ早いだろう。共同宣言によれば国交正常化交渉のテーブルに着くこと、ミサイル実験の凍結、核査察などの国際的合意の遵守など、従来ならば考えられない内容となった。○一方、テレビ報道では、拉致され亡くなった家族の悲痛な叫びを伝えている。小泉首相は明日以降厳しい世論にさらされることになるだろう。特に訪朝前に、今後の政局を巡って、何をもって成果とするか、高いハードルを設定する議論が横行していたからだ。そのハードルからは、安否確認はできたとはいえ、余りに衝撃的な内容となった。北朝鮮は、犯罪国家だとの意識は一層強まり、国民の間には拒否反応が蔓延するに違いない。今後明らかになる、引き上げられた「不審船」に関する調査結果も拍車をかけることになる。○北東アジアの緊張関係の緩和が進むとすれば、8月に発表された防衛白書の「対テロ戦争」という設定にも大きな政策変更が必要となり、日本の防衛政策にも大きな変更が必至となる。小泉政権がそもそも、アメリカに追随するのみで独自のアジア政策を持っていなかった点からも、今回の会談の成果が緊張緩和に寄与するとしても国民の中での少なからぬ共感も拉致問題からの衝撃の前にかき消されてしまうだろう。そういう意味で「歴史的成果」を誇れない不運な首脳会談とも言える。○海外の論調は、北朝鮮の変化を示す会談の結果を評価するものが多い。特にEUは高い評価だ。○小泉首相は記者会見の中でも、政治家としての決断という表現を使っている。その決断が今後の政局に与える影響は大きい。○自民党の中でもかなり深刻な対立を生み出すだろうが、私は、緊張緩和とアジアの平和的環境の実現に向けた日本の平和政策への根本的転換を期待したいところだ。(佐野)
【出典】 アサート No.298 2002年9月21日