【投稿】崖っ淵の政治的経済危機
<<「日本売り」>>
あらゆる景気指標が深刻な経済恐慌の様相を呈し始めている。1/29公表の失業率は5.6%と、4ヶ月連続過去最悪を更新し続けているが、3月までには6%台への上昇が当然視されており、早晩、10%台に突入する事態も予測されている。リストラ・解雇の波は続々と控えており、これまでパート化で隠されていた女性の失業率上昇が顕在化し、「構造改革なくして景気回復なし」という小泉内閣の空文句とそれへの甘い期待は完全に打ち砕かれようとしている。雇用・労働形態の流動化・自由化といった浮ついた議論の余地もない事態が進行しているのである。当然、企業倒産件数も戦後最悪の記録を塗り替えようとしており、二万件突破が見込まれ、自己破産件数も昨年度16万件以上、前年比15.2%もの増である。昨年の鉱工業生産指数はマイナス7.9%となり、75年以来の下げ幅である。個人消費は初めて4年連続の減少となり、今春闘はベースアップどころか「昇給ゼロ」を起点に、「雇用確保」を名目とした賃下げラッシュをめぐる攻防と化している。
さらに問題は、「株・債権・円」のトリプル安に歯止めがかからなくなってきたことである。小泉内閣発足時、1万4500円台であった平均株価は9420円に下落、1万円割れが常態化し、3月決算を目前にした銀行・生保・大企業の持ち合い株解消売りで、これがさらに8000円割れに突入、それでも8000円台を維持できればまだましとまで予測される事態である。大手都銀の株価は連日、バブル後の最安値を更新しつづけており、「公的資金の投入が決まるまで売られる」と見られ、いくら小泉内閣がその可能性を否定しても、金融恐慌の脅威の前には公的資金投入不可避論が台頭してこよう。円安も1ドル=135円を通過点に140円台が時間の問題とされ、一部には160円台にまで下げ、債権も暴落する可能性が取り沙汰されている。その焦点の一つに、解約が殺到し破綻の危機に瀕している朝日生命が、解約資金捻出のために保有している国債1兆7000億円、地方債2100億円を「投げ売り」するのではないかという問題が浮上している。すでに大手の一部銀行では国債を徐々に放出し始めており、「日本売り」がいよいよ現実のものとなりつつある。
<<期待と希望が落胆と絶望に>>
日本経済は明らかに深刻な経済恐慌の事態に直面していると言えよう。しかもこの経済危機は、小泉内閣発足とともに、そのデフレスパイラル放置政策によってよりいっそう悪化し、深化させてきたところに最大の特徴があろう。小泉首相の言う「改革の痛み」は、「改革」を中身のない決意と空文句で飾り立てただけ、「改革」どころか、雪印と同様、ラベルを張り替えただけで旧態依然たる利権政治を温存し、この重大な経済的危機の最中に社会保険本人負担割合を3割に引き上げることに最大の精力を傾けるという、まるで基本的な政治感覚まで喪失した無能ぶりをさらけ出している。この間の事態は、掛け声だけの改革先送りや「隠れ借金」をごまかした「国債発行30兆円枠」の帳尻合わせを、さも前進したかのように自画自賛し、虚勢を張り、その一方で庶民には「痛み」をのみ押し付け、経済をますます危機的な状態に深化させただけであったことを如実に示している。
こうして、田中外相の解任を契機に、今や小泉首相への期待や希望が、落胆と絶望に変わろうとしている。外相更迭で一夜にして支持率が急落したのである。「女の涙は最大の武器だ」とまるで次元の低い差別発言で、「われ関せず」と他人事のように振る舞っていたつもりが、「聖域なき構造改革」や「自民党をぶっ壊す」もどこへやら、「抵抗勢力」に完全に取り込まれ、裏で手を組む無定見さがはしなくも暴露されたのである。ODA利権にしがみつき外務省を牛耳る抵抗勢力の旗頭・鈴木宗男議員に首相自ら「あなた一人を辞めさせることはしません」とわざわざ屈服の電話を入れたというから、何をかいわんやである。後任外相が「女の涙を使いたい」という環境相では、「改革」どころか、自滅路線そのものであろう。決意、決断、断行、ツッパリ、虚勢、その背後にある無思想・無定見、そしてクリアーな右派、これら一体となったものが小泉首相のカラーであったが、今回これらにダーティな裏取引が加わった。誰もが事態の本質を見せ付けられたのである。一気に支持率が急落したのも当然であろう。これまでのような高支持率・人気頼みの政権運営の手法が急速に力を失いつつあることは間違いないと言えよう。
<<「日本が最大のリスク」>>
世界の資本主義世界のリーダーが集って注目される「ダボス会議」(2/1~4)では、日本の政治経済政策への批判が集中、「今年の世界経済で最大のリスクは日本だ。1930年代以来の危機ではないか」(ゴールドマンサックス・アジアのカーチス副社長)との懸念が表明されたという。
1930年代、世界大恐慌時の米・フーヴァー大統領は、深刻な経済状況にもかかわらず常に楽観的な見通ししか語らず、「経済恐慌の原因は国外にある」として農産物価格の暴落・デフレを放置し、積極的な恐慌対策に乗り出すことを頑強に拒否し、アメリカの大都会の至るところにホームレスの掘立て小屋の集落が出現、大統領の名を取って「フーヴァーヴィル」と名付けられる事態を招来した。現在の日本の東京や大阪の公園や駅周辺にどんどん拡大し、壮年・若年層まで流入している青いテント群がさしずめ「小泉テント村」として呼ばれる事態とも言えよう。
フーヴァーに対して、時の民主党の大統領候補ルーズベルトは恐慌対策としての「ニューディール政策」をもって対抗し、救済・復興政策から、「資本の利益の擁護を中心とする再建から一般大衆の福祉を重視した社会政策」としてのニューディール政策を打ち出し、大胆な転換を成功させた。果たして現在の日本の民主党や野党側にそうした現在の新しい事態に対応した恐慌対策を期待できるであろうか?はなはだ心もとない限りである。野党側の奮起を強く求めたい。(生駒 敬)
【出典】 アサート No.291 2002年2月16日