【投稿】危機からの脱出策・・民間と自治体(その1)

【投稿】危機からの脱出策・・民間と自治体(その1)

巻頭の生駒さんの投稿にも書かれていたように、民間でのリストラはこれからが本番ということだが、同様に地方自治体においても、地方財政危機を背景に、賃金抑制や人員の削減などが顕著になっている。今秋の自治体の賃金闘争でも、大阪の例だが、賃上げというよりも、昇給延伸の提案などが相次いだ。
民間の実態を見ても、人員の削減とともに、複線化賃金体系や年俸制など賃金システムの変更などが急速に進んでいる。私は、自治体の立場だが、民間のやり方と公務の場合全然違う、という立場よりは、民間の論理の一部は、むしろ公務の側にも適用は可能だし、労組が強いうちに、取り込める部分は、組合側は取りいれるべきだ、という立場だ。
もちろん、地方分権の時代ということで、中央政府と地方自治体(政府)での、税財源の配分問題など、統治と配分という大きなシステムの変更が求められていることは言うまでもない。しかし、本稿では、人員や賃金などの面に限っての議論としたい。そういう意味で限界のあるのは承知の上ということにさせていただく。

<大阪府の地方自治体の状況>
98年度の大阪府内自治体の普通会計決算が10月に公表された。特徴は、実質収支の赤字団体が8市に増加し、経常収支比率も98.9%と前年より2%上昇し、財政の硬直化が進んでいることである。(100%を越える自治体は、15団体)
これらの原因は、地方税の減税、高齢者福祉関係の歳出増・公債費(過去の起債の償還金等)の増加など。かなり硬直化が進んでいるわけである。
一方、人件費(賃金)は、過去最低の人事院勧告などを反映し、全体で0.1%という低い伸びである。
こうした財政危機は、景気の回復による地方税の回復や税財政構造の抜本的な改革が実施されない場合は、今後数年継続すると考えなければならない。特に今後、景気浮揚策として単独建設事業などをこの間実施されてきた公共事業にかかる起債(借金)の償還がピークを迎えることなどから、来年度予算が組めない、という悲鳴のような話が飛び支うことになる。
こうして、人員の5%カットや、昇給の延伸などが軒並み出されてくることになったのである。

<従来の手法では対応できない>
80年代なら、賃金合理化に対しては自治体当局の経営責任を追求して、最終的に合理化を受入れる場合も、何らかのホテン措置を確保して、表向きは、賃下げが行われたように「見せつつ」、実際は何とか実損をふせぐことが出来ていた。しかし、今後そんな余裕はなさそうである。
さらに、自治体における事情を複雑にしているのは、民間において「日本の雇用システム」が急速に変化してきていることである。すなわち、終身雇用・年功賃金・企業別労使関係のいずれにおいても、変化が進んでいることである。
逆に言えば、公務職場は、よくも悪くも、この3つが純粋に生き続けている「産業」である。そうだからこそ、自治体労働運動への攻撃の標的がここに集中してくる可能性が高い。特に、終身雇用(雇用保険の対象外)、年功賃金の二つの要素は、今後、公務職場において、段階的であろうとも、また手法は民間とは違った独自の形になると思われるが、民間の動向に追随していくことは間違いがない。

<終身雇用と年功賃金>
この分野では、公務は決定的に遅れている。例えば、年功賃金に対して能力や成績という評価基準で賃金を決定することは、「不平等である」「やる気をそぐ」「公務にそぐわない」などの反論のもと、強い組合の存在という盾もあって、踏み込んでこなかった。しかし、今後、民間での上記のような傾向が強まる中では、これだけでは決定的に不十分となる。
対抗する方針としては、地方分権の中で問われる公務労働の特性・労働者が獲得すべき知識や職務遂行力を明らかにし、さらにそれが獲得される過程をも明確にした上での「公平な評価基準」の確立と、評価作業そのものの公平性・客観性の確保を実現することであろう。

<雇用を確保するためには賃金格差も>
最近、労働関係の講演会で、松下電工の労務担当重役の話を聞く機会があった。松下では、現在雇用は維持するが、賃金体系を複線化する労使交渉が進んでいる。例えば、転勤できる人と地元での就労のみの人とは、同じ労働であっても賃金に格差を付けるなどの制度も含まれている。彼は「日本の民生電機製品は、80年代までは、90%程度国内生産だったのが99年現在は、国内生産が45%、それ以外は、国外での生産という事態になった。この傾向はもう後戻りすることは、不可能になっている。 80年代以降、90年代にかけて、成長は、バブルと円高のマッチの中で、日本は「敗戦」を迎えたわけだ。
松下の場合、95年以降、マルチメディア分野以外の社員は受け入れておらず、さらに、自然減によって、9万人の社員が8万人体制になっておる。今年の決算がこうした状況を受けて、大幅な利益減となった。 マスコミからは、松下が「人員」や「賃金」に手をつけていない、と批判されるが、生首を切って、どうして「組み立て産業」が維持できるのか、と考えている。連合の皆さんももっと怒ってほしい。
長期雇用の原点、それは、組み立て型産業の基本だった。社内で技術を継承し、高めるという点では、長期雇用は対応しているが、現在の技術の革新状況の中では、外から新しい技術を持った人が必要。そういう意味で長期雇用は、今後、変容せざるをえないと考える。
しかし、結果として、7割程度が、長期雇用として、残っていかないと、会社はなり立たないのでは、ないか、と思う。ただし、長期雇用ではあっても、年功賃金は、もはや、成り立たないと考えている。30年前に、 松下では、画期的な仕事別賃金制度をつくったけれど、それは、仕事別年功賃金となっている。現在、マルチメディアの先端で開発を行っている30代の人よりも、50代のライン従業員よりも賃金が低い、というのでは、大競争時代では、成立しないのでは。
仕事に賃金が対応しない、というのは、問題であり、それを作ったのが、年功賃金制度だった。」と語った。
少し長くなったが、労使関係が健在な企業のトップの発言として、私も納得できる議論だった。
仕事に見合った賃金体系が公務の中でどう実現できるか。10年くらいのスパンで考えるならば、労働組合も準備することが必要だと思う。
少し、まとまらなくなってきましたし、また、紙面の都合もあるので、次号に続く、ということで、お許し願いたい。(未完、1999-12-13 佐野秀夫)

【出典】 アサート No.265 1999年12月18日

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