【投稿】98春闘を元気出して闘おう!

【投稿】98春闘を元気出して闘おう!

98春闘がいよいよ本番だ。大幅な賃上げと減税など制度政策要求の前進を実現して、労働者の生活を守るとともに、経済低迷を打破していくことが労働側に求められている。以下では98春闘を取り巻く情勢の特徴と連合の方針、春闘全体を貫く課題について整理をしてみたい。

<実質賃金低下が生み出した消費不況>
98春闘の特徴の第1は、各種の統計が示しているように、勤労者の賃金が実質的に低下している中で闘われることだ。97年度は所得税特別減税が廃止され(98年2月に補正予算化されたが)、これにより手取り賃金は2%減少したと言われている。さらに健保2割負担化(97年9月)・厚生年金UP(96年10月)など社会保険負担が増し、合わせて3%は手取り賃金が減少したことになる。
この点をまず確認しておくことが重要だ。減税ストップと消費税のアップと医療費負担増で約9兆円が国民全体から奪われた。試算によると国民一人あたりの年間負担増額は8万9千円になり、標準4人世帯では年間36万円と言われている。
相次ぐ金融機関の倒産・廃業などの先行き不安から消費が低迷している、とのマスコミ報道が盛んで、「日本経済の先行き不安と消費税2%アップ」が消費不況の原因のように言われているが、本当の原因は実質賃金の低下にある、という認識が大切である。
消費税アップ等により消費者物価は昨年の4月以降、2%を超える上昇をしており、昨年の賃上げ(加重平均8727円、2.9%)は赤字補填にもならず、今年3%程度の賃上げなら、昨年並みの生活以下ということになるわけだ。
消費不況と言われる状況は深刻で、昨年5月に家計消費支出が前年比5.8% 減になるなど、昨年度の個人消費は戦後初めてのマイナスになるのは確実と言われている。百貨店等の販売額も昨年は3月に消費税アップ前の駆け込み購入による前年比増があった以外は、2%から4%の前年比減となっている。

<政策不況・政府企業の責任を追及する春闘>
特徴の第2は、大型減税要求・労働法制規制緩和に反対するなどの政策・制度要求を一層強く打ち出す必要がある春闘だということ。消費不況は、実質賃金の低下が根底にあるわけだが、緊縮予算と金融政策の誤りによる政策不況という側面も存在している。
低金利政策で国民から利子収入を減少させる一方で、自ら招いた不良債権に喘ぐ金融機関のみを救済し、さらに消費税アップ・減税を廃止するという政府の政策の貧困が生み出したものであることだ。昨年秋のアジアバブルの崩壊・通貨危機に端を発した金融不安の深刻化・大蔵省官僚の金融機関との癒着、所謂護送船団方式を続けてきた自民党政府の責任を追及する必要がある。勤労国民は怒りの声を挙げなければならない。
昨年秋以降の「日本沈没」的状況の中で、2兆円の特別減税を決めるなど財政構造改革路線との矛盾を生み出しつつも、財政出動なしには危機的状況を招く事態となり、自民党内部にも、野中副幹事長の6兆円景気対策などの路線の揺らぎが起こってきている。参議院選挙の年であること、さらに3月期決算対策もあり、自民党幹部は盛んに「口先介入」を行っているが、大型減税の継続実施をこの春闘で実現しなければならないし、その可能性は十分にある。

<経営側は相変わらず賃上げゼロ主張>
日経連は1月末に労働問題研究会報告を発表したが、相変わらずのベア=ゼロを主張し、雇用か賃上げかと主張している。今年の中心は、むしろ構造改革問題に割かれて労働法制の規制緩和などを強調している。労働法制の規制緩和の動きについては、すでにアサート1月号で民守氏から詳しいレポートが出ているの詳しくは触れないが、中央労働基準審議会からの答申を受け、政府による法案づくり・国会審議という段階になっている。時間外・深夜業の女子保護規定の撤廃、裁量労働制の適用拡大・変形労働制の要件緩和・労働契約期間の上限延長などいずれをとっても、労働者に不利益をもたらし、企業側の利益第一の論理の貫徹を許すものである。連合は国会対策を強めるとともに、「怒りの行動」として大衆行動の強化を決めているが、連合の存在意義そのものが問われている。

<企業・産業に格差・ばらつく可能性>
さらに、企業業績という点で、産業間・企業間に二極化の動きのあることは懸念材料である。製造業では4年連続・非製造業でも3年連続の経常利益の増益が見込まれているのに対して、製造業大企業と非製造業中小企業では、はっきりと二極化の傾向となり、企業規模による賃金・労働条件の格差はこの3年間で一層拡大している傾向にある。
格差解消へと「連合中小共闘センター」がスタートし、大企業の労使に対して「下請け価格」のアップを要請するなどの取組みが行われているが、まだまだ緒に就いたばかりという印象は否めない。

<問われる連合のたたかい方>
2月12日には自動車総連の大手組合が賃上げ要求書を提出し、13日には造船重機、19日には電機連合といよいよ98春闘も本番を迎えている。しかし、自動車総連の中でも、好調なトヨタ・本田に対して、経営不振の日産・三菱などと要求にバラツキが生まれているし、電機関連も消費不況の影響を受けて昨年来の大量の在庫を抱え、一時帰休を実施する企業もある中での交渉本番という事態は、先行きが案じられる。
連合は賃金要求15000円(4%)、生活維持向上8900円+定昇2%6100円=15000円と個別賃金要求として、高卒35才勤続17年316700円を要求、公正分配と積極政策で生活改善と景気回復、雇用分野でのワークルールづくり、個別賃金要求で格差是正・1800労働時間・未組織労働者への波及などの春闘要求と減税など制度政策要求の春闘方針を決定している。
成長率2%には、4%の賃上げが必要という要求根拠の一つになっているが、これら大企業労組でさえ、連合の要求基準、昨年より2千円アップの15000円要求以下の1万3千円という低額要求に留まっているのは大きな問題だ。
さらに、大企業労使の責任は重大であり、労働分配率も大企業ほど93年を境に大きく低下している。賃上げ余力がない、などの議論は論外で逆に民間主要50社の別途積立て金はどんどん増えているのが実態だからだ。昨年秋以来の円安も輸出関連製造業には大きなプラス要因でもある。
格差是正という意味で、連合が打ち出した「個別賃金要求」方式もまだまだ定着していない。年齢別最低保障や初任給から定年前までの賃金ラインの一致、また同一産業間での統一要求という段階には程遠いものがある。しかし、経営側は逆に労働法制の規制緩和に見られるように「個人賃金」化の方向を強めており、個別賃金方式の徹底した展開が求められていると考えられる。

<問われる労組の存在意義>
特徴的な情勢と連合の課題を述べてきたが、加えて、労働組合の存在すら問われかねない問題がある。まず、失業率は戦後最悪の3.5%(97年5月以来)となった。失業者数では、93年度175万人、94年度194万人、95年度216万人、96年度225万人と増え続け、97年10月には236万人(連合調査)となっており、企業スリム化進行・倒産などの事態の進行が予測されるなか、今後の回復は一層不透明と言わざるをえない。
さらに低下し続ける「労働組合組織率」の問題がある。昨年12月に発表された「平成9年労働組合基礎調査結果速報」によれば、労働組合員数は1228.5万人で前年より16万6千人減少し、3年連続の減少となった。推定組織率は22.6%。団体別では連合が8万5千人減の757万5千人(組織労働者全体の61.6%)、全労連が1万5千人減で84万4千人(6.9%)、全労協が7千人減の27万5千人(2.2%)となっている。
産別組合で見ると、自動車総連(ー14000人)、電機連合(-25000人)、生保労連(-14000人) 、日教組(-5000人)、CGS連合(-7000人)、金属機械(-3000人) など軒並み減少しているのが分かる。増えたのは、ゼンセン同盟の+10000人くらいだ。もはや繊維産別から複合産別化して、商業系などパート労働者の組織化を進めるゼンセンの健闘のみが目立っている。
しかし、総体として、雇用労働者数が増えているなかで、労働組合員の総数が減少する事態はまさに労組の存在意義そのものが問われていると言える。、
確かに連合は毎年のような組合員の減少に「組織拡大実行計画」を打ち出し、構成産別に組織拡大を昨年から呼びかけている。けれど、未組織労働者の組織化は具体的には地域の中、工場の外でしか組織化はできない。産別よりも基礎組織である、県連合、地域連合の課題と言えるのだが、一番大事なところで、まだ「寄合所帯」という状況では、組織拡大は課題が多いといわなければならない。

<とにかく元気を出して>
私自身も労働組合の現場役員として、労働組合の存在が問われる98春闘、また98年の労働運動を闘い抜きたいと考えている。「厳しい・厳しい」というだけが能ではなく、そこからどう抜け出すか、智恵を出し、組合員参加で状況をどう突破するかを考えなければならない。とにかく元気を出して98春闘を闘いたいと思っている。( 98ー02ー17 H)

【出典】 アサート No.243 1998年2月21日

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