【投稿】「オリーブの木」戦略を考える
最近、民主党の菅代表が「オリーブの木」という言葉を良く使っている。私も勉強不足のため、あまり気にしていなかったが、イタリアから代表を招いての全国連続フォーラムが大阪でも開催され、参加する機会を得て、少し勉強することができた。関連する著作も読む事ができたので、簡単な紹介と私の意見を述べてみたい。
<イタリアの経験から>
言うまでもなく、「オリーブの木」はイタリアの中道左派「政党連合」の名称である。その構成政党は、左翼民主党(イタリア共産党主流派が前身)、人民党(旧キリスト教民主党から分岐した中道政党)、緑の党などであり、共産主義再建党(イタリア共産党内左派が前身) は閣外協力して、ブロディ政権を支えている。94年に行われた総選挙は、日本の自民党のような政権与党であったキリスト教民主党の閣僚経験者などのほとんどが汚職で摘発されるという状況の中で、左翼連合、中道連合、右派連合という三つ巴選挙となった。しかし、ベルルスコーニの「フォルツア・イタリア」が大きな右派連合を選挙直前に実現して、僅差で右派連合が勝利した。
96年になって、ベルルスコーニの関連企業の犯罪摘発を契機に、総選挙が行われることしなったが、左翼民主党を中心とする左派連合は、さらに中道派も巻き込む中道左派連合を形成して、総選挙に勝利する。
<小選挙区での政権戦略>
詳しくは、後述する文献や、インターネットでの「オリーブの木」戦略研究会のホームページを参照していただくとして、箇条書き的に、この戦略を整理する。
1)「オリーブの木」戦略は、小選挙区選挙における政権交代を可能にした構想であり、イタリアの「オリーブの木」は、すべての小選挙区で政党連合の候補者を一本化した。あるところでは左翼民主党、あるところでは、人民党、他では共産主義再建党というように。それは「休戦協定」と呼ばれ、勝てそうな政党候補がいる場合、他の政党は候補者を立てない、という調整が行われた。
2)その一致点は、「ブロディを首相に」と政権担当者と4年間で行う政策の中身であった。
3)さらに、政党連合とともに、全国に「ブロディ首相実現の委員会」という自発的市民団体が4000以上結成され、政党連合と連動して活動された。特徴的な活動は、「政党が政策を国民に押し付けるのではなく、国民が自分たちの要求を政党に実現させる」という立場で、市民団体が政党への「FAX攻勢」をかけて、政党を監視した。
<「鼻をつまんででも、統一させる」>
大阪のフォーラムには、イタリアから「オリーブの木」国際報道担当のピオ・デミーリア氏が参加し、日本でのオリーブフォーラムが、東京・仙台・横浜・京都・札幌・長崎・岡山・名古屋を受けた最後であったため、日本の事情にかなり詳しい講演が行われた。
上述の3点なども含めて話され、特に休戦協定に触れて、3月の東京4区の補選でも、休戦協定があれば自民党に勝てた、選挙民の70%は自民党森田を選んでいないこと。選挙で勝つためには「休戦協定」が不可欠、ということを力説された。特に日本では、日本共産党を考えると、とても考えられないことは、よく分かるが、しかし、これは必ず必要になる。「無理をしても休戦協定を、鼻をつまんででも統一させる」ことが必要だと。
イタリアの場合は、むしろ左翼民主党が先頭になって政党連合を引っ張ったことを考えると、日本の場合は共産党がむしろ問題とのフロアー発言も出たが、デミーリア氏は、どちらが先か、という問題ではなく、ほんとうに自民党政治を終わらせたいかどうか、休戦協定にかかっていると述べていたのが印象的だった。
<参議院選挙でこそ、政権選択を迫る必要>
さらに、名古屋大学の後房雄教授(「オリーブの木」戦略研究会の主催者) も講演され、新民主党の結成という事態は、すこし拙速であるが、新民主党も実態はまだ、政党連合に近いものであり、総選挙の前哨戦という位置づけでは不充分であり、参議院選挙で過半数をめざして、総選挙実施を迫る、という戦略が必要。98参議院選挙までに如何に「政権選択肢」が出せるかが求められること。社民党伊藤茂も「オリーブの木」云々と言っているが、「独自路線」というのでは話しにならない。むしろ、社民・さきがけは「自社さ連合」で、政権選択肢を明確にした選挙を行わないと、国民を裏切ることになる、と語られた。
<政党連合という考え方>
こうした議論を受けた私の印象は、中々良い戦略だな、ということ。小選挙区で二大政党制・政権交代可能な政治の実現、と言われたものだが、そんなに簡単に実現することはないだろう。それなら、自民単独過半数を阻止する、そのただ1点でも「休戦協定」を結ぶぐらいの「大胆な戦略」が求められていると思う。
しかし、選挙はすでに動き出している。マスコミの争点も新「民主党」への国民の支持がどうなるか、という点に絞られている。もちろん、問題も多く、一筋縄では行きそうもない。4月27日に結党される新民主党の動向を「政党連合」という視点で、注目していきたい。( 佐野秀夫)
【出典】 アサート No.245 1998年4月24日