民学同文書 No.1
【方針】「現情勢と当面の任務」・・・・民主主義学生同盟常任委員会
民主主義学生同盟第1回大会 1963年9月15日
1、現在の世界情勢は、基本的には緊張緩和平和共存の方向に動きつつある。キューバ事件が、ソ連政府の柔軟かつ理性的な政策によって収拾されて以降、ケネディ政府は熱核戦争の志向に対するソ連等社会主義を先頭とする平和勢力の強力な反対と、経済・軍事両面の行き詰まりにより、アメリカン大学での演説で「平和戦略」を宣言せざるを得なくなり、「大気圏内、宇宙、水中での核実験禁止協定」(以下、部分核停と略す)の調印に応ぜざるをえなくなった。
2、米・英・ソ三国による部分核停協定は、原水爆禁止を要求する平和と社会主義勢力の成果であり米英ソ三国による大気圏内での放射能汚染、並びに部分的ではあれ軍拡競争と核拡散を制限し、全面核停・核禁止への足がかりとなるが故に、われわれはこれを支持し、それを全面核停・全面禁止へと発展させねばならない。
われわれは、独自の核兵器開発を推進している西独の独占ブルジョアジー、アメリカのゴールドウォーターを中心とする極反動冷戦グループのような反動的好戦的ブルジョアジーが、依然として平和共存の方向に逆行して緊張激化への方向を追求しようとしていることに最大の注意を払い、彼等を孤立させなければならない。
我々は、今秋核実験を強行しようとしているフランス帝国主義者に対して、実験阻止闘争を起さねばならない。我々は、更にアメリカの地下核実験阻止のために闘う。
3、全世界の平和勢力は、部分核停の成果に基ずいて、今こそその統一を強め、戦線を強め、拡大しなければならない。とりわけ、現在平和の確保の決定的勢力である社会主義国の統一が必要である。
にもかかわらず、「キューバ事件」におけるソ連の措置に対して、「第二のミュンヘン」だときめつけた中国の指導部はソ連の部分核停協定調印に対して、その不十分さを理由に、「ペテンだ」「欺瞞だ」等々騒然ともいえる反ソ宣伝を行っている。
部分核停協定、第九回原水禁大会は、中国の民族主義的、冒険主義的政策が平和と民主主義運動の発展と統一に最大の障害となっていることを極めて明らかにした。
日本共産党幹部会生命(八月四日アカハタ)は、部分核停の問題で中国の見解を明確に支持しているーー部分核停支持の広範な大衆の正しい感情と下部の動揺を恐れて一定のマヌーバーを装ってはいるがーー。われわれはこれらを理論的、政策的に批判すると同時に、実際行動の上でこの誤りを克服し、平和運動の統一の実現を図る。
4、第九回原水禁大会は、①部分核停の意義を明らかにし、全面核停の展望を明らかにすること、②平和を願うすべての人々を広汎に結集する平和運動の統一を実現すること、③原子力潜水艦・F105戦闘機配備反対闘争を強化すること、を客観的に要請されていた。
大会準備の経過が示すことは、中国共産党と日本共産党の一部指導者の民族主義的、冒険主義的政策は、原水禁運動、平和運動に混乱と分裂を持ち込み、大会の成功を一貫して妨害したことである。総評の一部指導者と彼らに引きずられた総評社会党は、大会の成功と運動の統一に真剣な態度をとらず、「いかなる国の核実験にも反対」という下部の真面目な人々の正当な要求の影にかくれて、大会の不参加に至るまで一貫して、大会から自己の勢力を切り離し、分裂させる方向に活動した。総評、社会党はソ連をはじめ社会主義と平和の勢力がかちとった第一の成果=部分核停について正しい評価を示しながらも、大会をボイコットした事は決定的な誤りであった。 にもかかわらず、下部の大衆、良心的で真剣に平和を願う人々の力は、森滝報告に反映した。森滝報告は左右の分裂主義により一定部分骨抜きにされたが三つの決議をかちとった。それらは、部分核停の評価の棚上げに見られるように、不十分さをもってはいるが、当面の平和運動における統一の基礎になりうるものである。
注意しなけばならない事は、森滝報告や大会の三つの決議を現実の活動の上で踏みにじり、平和運動の方針を見失わせる見解が大会を指導した責任ある政党の機関紙(アカハタ)に公表されている事である。過去我々が幾度となく経験した事であるが、今後もその方向が顕在化してくるであろう。大会決議を具体化するための実際活動の上で、彼等の発揮するセクト主義、分裂主義と闘うことなしに運動の発展と統一は実現しない。また、総評、社会党の右翼的指導者の「原水禁運動を守る連絡会議」にみられるように、自然発生的な、おくれた大衆の気分と一時的な反共ムードにのって、平和運動を右から分裂させる策動も封じ込めなければならない。
我々は、三つの決議を採択させた、分裂を最小限にくいとめている地方原水禁、科学者、宗教者、学生の独自活動等に依拠し、下からの大衆運動を展開し、左右の分裂主義、セクト主義を克服し、平和運動の統一のために努力する。
5、世界的な過剰生産傾向の増大の中で資本主義経済は大きな危機に直面している。
まずアメリカの国際収支の悪化とドル地位の弱化は頂点に達しようとしている。かかる事態を前にして、ケネディ政府は特別教書を発表し、新たなるドル防衛強化策を打ち出した。それは公定歩合を引き上げる事によって短期ドルの流出をくいとめ、「金利平衡税」により、長期ドル流出を防ごうとするものである。
アメリカ国内ではインフレ傾向の増大、失業者の拡大により大企業労働者のスト、黒人の「職業と自由」を求める運動が頻発している。ケネディは、極反動グループと人民の間に立って、黒人の問題では煮え切らない態度をとっている。平和勢力は更に運動を前進させ、ケネディ政府をして極反動グループから明確に一線を画させなければならない。
また帝国主義諸国間の矛盾と対立は、一月のブリュッセル交渉決裂以降いよいよその厳しさを増している。それは就中、社会主義に対する態度、戦争と平和の問題に対する態度における対立となって反映している。その象徴的な例が、部分核停に仏がガンとして応じない事、アメリカの対ソ大口径送油管の禁輸要請に対する英、伊の反対等である。
この中で西独がNATO間の矛盾を利用して自国の核武装化を図り、西ヨーロッパの軍事力、経済力を自己の報復主義的侵略的目的に利用する事を狙う危険な動きに特に注目しなければならない。
全世界の平和勢力の関心は、帝国主義諸国間の対立、支配層内部の対立を利用して、最も反動的、好戦的独占ブルジョアジーに集中砲火をあびせ、彼らを孤立させ平和運動の前進をかち取ることに向けられなければならない。
6、帝国主義諸国間の矛盾、対立の激化は、日本帝国主義に特に鋭く現れている。過剰生産と自由化に苦しんできた日本経済は、アメリカのドル防衛強化策によって、とりわけ金利平衡税によって非常な困難に直面している。即ち経常収支の赤字を資本収支の黒字によって埋め、どうにか国際収支の黒字を保ってきたにもかかわらず、金利平衡税が実施された場合、アメリカの対日投資の減少額は総計三億五千万ドルに達するーー政府の見積もりにおいても。かかる情勢の中で高度成長政策は破綻しようとしている。
7、第四次池田内閣は、ドル防衛の新段階と国内経済の重圧の下で、改造当初より動揺を深めている。池田内閣は経済危機の顕在化と民主勢力の統一の前に総選挙を行うべく機を狙っている。それまでの極めて暫定的なものである。佐藤の入閣は佐藤の完全屈服と言うことはできないが、右派勢力の縮小の中で、完全なる孤立を恐れた佐藤の一定の譲歩を意味している。池田の基盤は不安定であるが、その基調は現在では依然として池田ー三木ー河野路線、即ち新保守主義である。池田政府は暫定的であり、総選挙を控えているが故にあらゆる政策で極めて優柔不断な方向が追求するであろう。
8、内閣発足後、10日もたたないいちに、アメリカのドル防衛政策に直面した池田内閣は、曲がりなりにも高度成長政策の旗をかかげてきた。だが高度成長政策を続けるための財源はなくなり、その破綻は決定的になりつつある。更に市場問題においてもアメリカ、西独等の輸入規制により、ソシアル・ダンピングによる切り込みか、社会主義国との貿易の拡大以外に逃げ道はなくなっている。
池田政府はついに高度成長政策を「健全安定成長」に変えざるを得なくなった。「公債発行は絶対にやらない」(田中蔵相)といいつつも、政府保証債、公社、公団債、地方債、外国債といろいろな形での借入政策によるインフレ政策を今後も続けるであろう。が公定歩合を引き上げなければならなくなる可能性はますます増大している。公定歩合の引き上げは、池田内閣の生命にかかわるが故に、総選挙後は、買いオペによる資金供給方式への移行と、増税、物価値上げの方向が追及されるであろう。
9、憲法改悪を頂点とする反動攻勢は、依然として、依然として反動的諸法律の拡大適用、反動立法の制定、イデオロギー攻勢を中心とした実質的改憲の方向ーー在日米軍の公然たる核武装、F105戦闘機配備、原子力潜水艦寄港、自衛隊強化、核武装、海外派兵、労働基本権の弾圧、治安立法の強化(公安条例、新暴力法、刑法改悪)、大学の権力支配等ーーが基本的なものである。
憲法調査会は、改憲強硬派の「意見書」で一波生じたし、今後更に彼等の巻き返しは強力になるであろうが、極東に熱戦の火の手が上がるというような事態に立ち至らない限り、大勢としては高柳会長を中心とする「慎重派」の方向で進むであろう。
我々はかかる方向に対して、それぞれの攻撃と具体的に対決する中で、憲法の平和的、民主的条項の完全実施の方向を追及しなければならない。
更に民主勢力に対して、内部からの切り崩しの方向が強く志向させている。
我々は、民主勢力の統一の方向を強く追及し、ILO国内関係法の改悪、新暴力法制定等の反動的立法阻止闘争、公安条例の拡大適用反対闘争を、6.15公判闘争と結合して組織しなければならない。
と同時に、新保守主義を基調としたイデオロギー攻勢に対しても反撃を準備しなければならない。
10、東南アジアの情勢は、アジアの平和にとって大きな危機となりつつある。南ヴェトナムでは政府のファショ的性差うに反対する仏教徒、学生、ベトコンの反政府運動は連日の如く行われている。南ヴェトナムの事態は、後進国に於いては経済危機の深化と、それによる民族解放運動の昂揚に対して、ファッショ的弾圧体制をしく事なしには反動政権を維持する事が出来ない事を示している。
ゴ一家によるファッショ的やり方に対する全世界人民の激怒の中で公然と支持もできないまま、アメリカのヴェトナム政策は、完全に行き詰っている。
更に韓国の経済危機、政情不安等々の中で、アメリカの東南アジア政策は全く打つ手なしとなり、「中国封じ込め」政策は、破綻を余儀なくされようとしてきた。
かかる情勢の中で、アメリカ政府は「中国封じ込め」の準備を進めつつも、一方に於いては中国を利用して中ソの軍事的衝突を起させ、社会主義の権威と信頼を一挙に失墜させ、より有利な形で冷戦挑発政策を遂行しようと考えている。
11、日本政府は、大平発言、外務省声明に見られる如く、中国に対する態度に変化を示し、日中貿易を拡大し、自己の利潤を増大させる方向で、その要求に答えようとしている。ジェット・エンジンガソリンの中国への大量輸出はその事を見事に物語っているのではないだろうか。
池田政府の外交政策は、基本的には、対米依存的政策をとり続け、アジアにおける火薬庫になろうとしている。芸視力潜水艦の寄港、F105D配置を承認することにより対米協調政策をとり、日本の核武装化を計り、東南アジアへは日韓会談妥結の方向に端的に示されるよう如く、帝国主義的進出を図っている。我々はこのような日本の核武装化への方向を断固阻止し、非武装宣言、非核武装地帯等を要求すること、原子力潜水艦寄港阻止、F105水爆機配備反対、日韓会談妥結阻止の闘いを組織し、日ソ日中貿易の拡大、平和条約締結等を含む全面的な対米依存政策の転換を要求してゆかなければならない。
12、核潜艦寄港阻止の闘いは、初期の段階に於ける民主勢力の立ち遅れと戦いの焦点が明確にされない中で、学生戦線に於いては、関西に於ける先進的な闘いが全国的に継承されず、安保共闘の統一行動に於いても闘争の拡大・大衆化が不十分にしかなされなかった。
しかし、その一方、原子物理学者をはじめとする科学者の闘いは、政府独占の圧力にもかかわらず、その反動政策にはっきりと対決し、積極的な役割を果し、闘争の進展に大きく貢献した。
政府は、寄港承認の正式回答を、7月から8・6大会以後、更には大平外相外遊以前にとの態度をみせながら、未だになしえていないでいる。しかし臨時国会、総選挙或いは日韓会談との結びつきを恐れ、それに好機を狙っている。われわれはこのような方向を断固阻止しなければならない。特に9・1横須賀・佐世保の統一行動は原水禁運動に於ける左右のセクト主義、分裂主義者の指示とは別個に、今後の統一行動の可能性を増し、共同宣言を出しえたことは大きな意義をもつ。我々は今後、この統一行動をより拡げ発展させ、はっきりと政府独占の反動政策に対決し、これを粉砕しなければならない。
13、日韓会談をめぐる情勢は、八月二十九日に朴一派は昨年の大平・金会談によって妥結した対日請求権無償3億ドル、長期低利借款2億ドル、経済協力1億ドル以上の資金を早期に日本から引き出し”政局打開”に当てるため、民政移管前に全般的結末をつける方針を最終的に決定しており、日本政府にもこれを知らしている。即ち、10月15日大統領選挙で朴の当選、11月26日の国会議員選挙を経て、12月の民政移管までの間に妥結してしまうという方向である。佐藤、福田等に代表されるグループは、これを急速に押し進め、冷戦反動化への道の一つの足がかりを築こうとしている。我々はこの方向を阻止し彼らを孤立させねばならない。
14、教育政策においても、大管法の国会上程見送り以降、政府と独占の主要な攻撃の方向は、教職員と学生との分離、学生層の分断等の内部からの、大学の自治の切り崩し、大管法の実質化をはかろうとしている。中でも最近の著しい特徴は、独占の地域開発政策にたいする大学教授の積極的強力姿勢であり産学共同の一層の進展である。このようにして大管法に反対した教職員を独占の政策に巻き込む一方、学生自治会の権威の低下に伴って右翼(体育会)民社イデオローグを動員しての自治会の無力化をはかっており、かなり功を奏している。東大教養部自治会の委員長の選挙はこの典型的な一例である。寮則や学館規定に際しての学生の補導強化、学長の非民主的選挙の維持等の反動的攻勢も打ち出されている。
かかる独占の攻撃にたいして市大懲戒委員会問題で顕著になった社学同のアナーキーな方針では絶対に対抗できない。ブンドのバリケード戦術、その後の「処分反対闘争」は大学の権威と秩序=民主主義を否定し教職員との共闘を拒否することから大学の自治を守る上で自ら墓穴を掘っているものである。われわれの基本方向は、学内に於ける広汎な民主主義の確立、共闘関係の強化の方向である。
15、既述した課題の成功的遂行にとっての最大の障害は全学連の解体、学生運動内部の思想的、政策上の極度の混乱、その結果としての全国的に統一された広汎な闘争が存在していないということにある。分裂後三年半全学連大会、全学連中執、全学連中委は全く存在していない。全学連の下部組織である地方学連も、大阪府学連、兵庫県学連、京都府学連、愛知県学連、九州学連を除いては存在していない。地方学連の民主的再建が要請されている。特に東京においては都学連はおろか、自治会が存在していない大学が多数ある。全学連の中心である都学連再建のために我々は最大の努力を払わなければならない。まず、闘争の中で自治会を事実上の再建からはじめなければならない。
全学連分裂の原因は、共産主義者同盟、社学同、革共同、マル学同等次々登場した諸党派によって、全学連中執、地方学連、自治会に諸党派の「革命」路線が、しかもまったく勝手気ままな間違った「革命」路線が、直接おしつけられた事に、そしてそれら極左小児病的、セクト的路線を承認しない自治会の代表を大会その他から暴力的に排除した事に、組織内民主主義の極端な破壊に、即ち諸党派の大衆組織の私物化にあった。これら諸党派は浮き上がり、ますます細分化し、政治的に堕落した投機分子の小集団となっている。しかしこれらによってもたらされた被害は甚大なものがある。かかる組織分裂と思想上、政策上の大混乱は全国の広汎な学生の中に自治会不信を生み出している。独占と政府はこの大混乱と学生の反政治的な気分を利用して新保守主義ー出世主義、バラ色の資本主義、似非合理主義ーをつぎこむと共に国民協会等彼らの手先を学生層内部に送り込んでいる。更に我々は、創価学会の動きにも警戒しなければならない。
1962年7月結成された平民学連はこの混乱に拍車をかけ、全学連の分裂をますます押し進める方向に作用している。平民学連はその指導部をセクト主義民族主義的冒険主義的分子によって占拠された日本共産党、民主青年同盟によって直接指導されている自治会、サークル、個人の連絡組織として結成され、1963年7月、自治会連合としての平民学連となったが依然としてサークル、個人が参加している。平民指導部は意見の異なる他の自治会の代表者を修正主義者、トロッキスト、ケネディーライシャワー路線の手先と規定し、彼等の分裂主義の合理化に利用している。彼等は「だれでも、どこからでも」「どんな要求でも」という全く無内容な身のまわり主義的スローガンをかかげつつ、他方自己の民族主義的、セクト的政策を直接自治会に押し付け、意見の違う人々を全て敵視し、修正主義者、トロッキストを追放しない限り全学連の統一はありえないとして、「修正主義者」「トロッツキスト」狩りに狂奔している。彼等は 学同と同じ、否それ以上の自治会私物化を行っており、平民学連はいかなる意味でも全学連再建の母体になりえないし、その最も大きな障害である。
我々の任務は、都学連を含む地方学連の民主的再建、諸党派の私物化とセクト的方針及び思想的混乱を、平和と民主主義のための統一行動を強化する中で、科学と民主主義の見地から厳しく克服していかねばならない。
我々は、そのための最も先進的部隊となるであろう。(一九六三・九・一五)