【投稿】今、政治の変革が始まった
—市民参加で民主主義の狼煙を上げ—
<自民党も社会党も同じ土俵で行き詰まり>
92年12月24日、社会党の田辺誠委員長が辞任を表明した。委員長に就任してわずか1年5カ月後に辞任を表明することになろうとは、本人も思いも拠らなかったことであろう。記者会見で否定してはいるが、自民党の金丸信の辞職が、客観的には大きな影響を与えている。佐川急使疑惑の中心人物である金丸信、竹下登等との長年の国対政治の付き合いから、疑惑が田辺氏周辺にまで付きまとい、国会での証人喚問を始めとした疑惑追求の甘さが、委員長不信に輪を掛けていった。
一昔前までの自民党政権の相次ぐ汚職事件とは異なり、日本の政治を牛耳ってきた国対政治の中枢部分そのものに対する不信、疑惑であるという事が、政治家は全て信用できないというような深刻な政治不信に国民を導いている。リクルート疑惑は、政、官、財の癒着構造を白日の下に晒し、国民の政治への関心を高めたが、今回の佐川疑惑は、国民の既成政党への不信と政界再編への関心を高めたと言えるかも知れない。
<ソ連邦の崩壊と西側世界の変化と>
ソ連邦の崩壊と東西冷戦構造の崩壊は、西側世界に「目標の喪失」という新たな難題を突きつけた。アメリカは湾岸戦争でイラクのフセインを悪の権化として戦争を仕掛け、一時的には大勝利を納めたが、その勝利者であったブッシュ大統領は、わずか1年半後には敗者となった。第2次世界大戦の勝者であったイギリスのチャーチル首相が、戦後初の選挙で敗北したように、冷戦後の世界を生き抜く指導者としては、ブッシュよりも若くて将来性の豊かなクリントンが適任と判断された。
日本では、冷戦構造の崩壊にともなって、それまでの日米安保体制や非武装中立といった争点が争点でなくなり、逆に既成政党の存立基盤であった政策そのもの、例えば護憲でさえ、見直しが必要となってきた。そこに佐川急便疑惑が炸裂したが故に、政治の根本的な問い直し、洗い直しが必然的に起こってきたわけである。
<新しい勢力の相次ぐ誕生>
息が詰まるような政治の閉塞状況を最初に打ち破ろうとしたのは、日本新党だった。地方分権を最も大きな旗頭にして諷爽と登場し、夏の参議院選挙で惨敗の連合を尻目に4議席を獲得した。その後も元ニュースキャスターの小池百合子の「金丸ほめ殺しパフォーマンス」等国民に次第に支持層を広げつつある。11月25日現在、党員、「支える会」会月あわせて約6000人。目標の10万人には程遠いが、政党支持率は朝日新聞の調査で7%と野党第2党(12月23日)、読売新開の調査で2.5%と民社党とほぼ肩を並べて公明党に肉薄している(12月24日)。
11月25日に発足した「平成維新の会」には、150人以上の国会議員から次期総選挙での推薦依頼もしくはその打診が来ているという(12月25日読売)。主宰するのは、経営コンルタントの大前研一で、①道州制の導入による地方分権化(②アメリカー辺倒からアジア・太平洋重視の外交への転換③規制緩和と自由競争などを基本政策としている。公認候補は擁立せず、生活者重視の政策に共鳴する改革派の候補者を党派に関係なく推薦する。その資金となる年間1万円の会費を納める会員(賛同者)は、現在すでに2~3000人に達しているという(11月23日日経)。
既成政党の中からも改革派が動きはじめた。11月3日には、社民連の江田五月が超党派の政策集団「シリウス」を発足させた。メンバーは当選1回組の社会党の若手議員を中心に連合参議院まで含めて現在28人(11月20日朝日)。①政治腐敗防止法の提案②選挙制度、地方分権、国際化、農業問題など政治課題への積極的な取り組み③議員立法の推進④市民団体や業界団体などあらゆるグループとの対話などを当面の課題としている。今後、民社党や日本新党など他の野党へも参加を呼びかけていく方針だ。
<崩壊の危機=自民政治>
冷戦構造の崩壊は、日米安保体制の下でソ連邦を始めとした東側と対決しつつ自由社会、資本主義社会を発展させるという日本の政治=自民党の基本戦略の崩壊を意味する。新しい国際秩序に対して、日本がどのような役割を果たそうとするのか、そのビジョンと哲学が世界中から注目されているにも関わらず、自民党政権はビジョン、政策を示すどころか政治改革の矢面に立たされている始末である。リクルート事件をきっかけにして政治への目を大きく開きはじめた国民は、ボーダーレスの時代に日本が世界からどのように見られているのか、世界の政治と日本の政治のどこが違うのか等々について政治家が考えている以上に学びはじめているのではないか。社会主義を崩壊させた一因である情報のボーダーレス化に伴う学習効果が、日本にも現れてきたとき、アメリカのプッシュ大統領があっけなく敗北したように、自民党が予想以上に敗北し、日本新党を始めとした改革派=日本版ベレストロイカ派ともいうべき勢力が大きく議席を伸ばす可能性がある。先述の読売の世論調査では、現在の政治に満足している人は2割しかいないが、不満を持っている人は77.8%にも達している。
<政治改革の成功は国民一人ひとりの行動から始まる>
国民の怒りの質が、確実に変化している。以前は日本の中で国民が自民党に鉄槌を下し、溜飲を下げることで事が足りたが、この冷戦後の世界では通用しない。日本がアメリカや統合ヨーロッパとともに世界のリーダーとして国際間題の解決に貢献していくことが期待されている時代に、政治が何の指導性も先見性もましてや公平性も持ち合わせていないという惨憺たる状態では、国民の納得を得られない。久々の本格政権とかすかな期待をいだかせた宮沢政権にして支持率20%という惨状である。国民は、「保守本流で国際通の宮沢でさえダメなのか」という思いであり、自民党に見切りをつけ始めているのではないだろうか。
このような中で新秩序にふさわしいリーダー探しが始まった。もはや憲法改正もその重要な争点になりつつある。アメリカのクリントン新大統領は、対日要求を議会と一体となってわかりやすい形で突きつけてくるだろう。もはや裏取引は通用しない。国会内でも、佐川疑惑の追求が進めば、国対政治や談合政治が明るみに、ますますわカモりやすい政治への改革の声が大きくなるだろう。金丸を辞職に追い込んだ世論が、今度は政治改革に向かうのか。それとも政治不信にとどまるのか。日本の政治は今重大な岐路に立っている。
希望は、身近な政治への関心が高まっていることである。中央政治の腐敗は、地方自治の中にも浸透しつつある。最近にわかに問題になっている「カラ出張問題」は、その一例である。市民は情報公開条例を武器に立ち上がり、ベールに包まれた政治の実態を少しずつ明らかにしつつある。どのような政治が行われ、税金がどのように使われているのか。不況で手取り収入が減り、かさむ教育費や老後の費用をどのようにして捻出するのか頭を悩ましているのに、議員が税金をむだ遣いすることは許せないというのは、当然の怒りである。このようにバブル経済の崩壊で誰もがエリザベス女王のように「ひどい年」と叫びたいときこそ、その怒りを自分の生活を楽しくし、豊かにするための知恵を働かせ、政治への怒りへと結び付ける絶好のチャンスである。まさに地方政治は、民主主義の学校として大いに参加して行くべき場である。
週休2日制が浸透しつつある今日、生産現場やサービス現場の生産、供給サイドのポリシーに全身染められていた勤労者が、人間として、消費者としてあるいは生活者としての自分を取り戻す機会が増えてきた。1日しか休みがないときは、ごろ寝を決め込んでいた「働き蜂」も、2日もごろごろ寝ているわけにはいかない。そもそも家族が放っておかないだろう。外へ出て、地域や行政を少しでも良くする活動に参加していくことを大いに期待したい。そんな住民運動や市民運動が増えていけぼ、地方に権限と財源をもっと配分するという大きな政治課題が、早晩日程に上ってくるのではないだろうか。今、一人ひとりの民主主義への地道な行動が必要なのである。 (大阪K.N)
【出典】 青年の旗 No.183 1993年1月15日