【書評】「会社本位主義」の崩壊
奥村宏著「会社本位主義は崩れるか」岩波新書
この本は、「青年の旗」NO164(1991年6月)に紹介された、同じ著者の「新版法人資本主義の構造」(現代教養文庫)の普及版であるとともに、この間のバブル
経済崩壊の情勢を、「会社本位主義」の崩壊という流れの中で具体的に分析している続編でもある。
<日本の会社本位主義>
著者は前著で、日本の全上場会社の発行株式の約7割もが、株式の相互持ち合いを通じて法人所有になっている現実から出発し、現在の日本が「法人資本主義」だと規定した。アメリカやイギリスの個人資本家本位の資本主義に対して、経営者も、従業員も会社のために忠誠を尽くし、会社のために一生懸命働くという、この「法人資本主義」の原理が「会社本位主義」である。それは、資本家と労働者ではなく、法人と個人との富の格差を大いに拡大した。
<パフル経済の崩壊と会社本位主義の危機>
奥村氏は次のように言う。
「日本は世界の中で、唯一、「会社本位主義」が成功した国であり、法人資本主義が確立した国なのだが、そこには重大な、そして基本的な難問が隠されている。というのは、いくら法人資本主義が強いといっても、それは自然人である個人を完全に排除することはできない。なぜなら、資本主義であろうと社会主義であろうと、どんな体制もしょせんは人間が作ったものであり、国家も法人も元はといえば自然人が作ったものであるからだ。・・・・・・いま、日本の法人資本主義はそのような無理が露呈し、人間による反逆によって復讐されようとしている。法人資本主義は、こうしてひびわれを見せ、解体しはじめる。」
バブル経済の崩壊はまさにこの解体のはじまりであろうか?「株式所有の法人化によって、株式の需給関係のコントロールが可能となり、これが株高をもたらした。その株高を利用した時価発行増資や転換社債、ワラント債の発行が行われ、発行会社は巨額の資金を低コストで調達した。これは単なる投機でなく、管理され、仕組まれた投機であった。仕組んだのは発行会社と証券会社であるが、この仕組まれた投機をあおったのが政府である。」そしてその結果は、株価暴落、証券スキャンダル、銀行スキャンダル。貯金をはたいてNTT株を買った、職場の友人の顔を思い出す。
土地の問題についても同様である。 国土庁が発表した91年度の「土地の動向に関する年次報告」(土地自書)によれば、90年1年間の全国の土地取り引き総額59兆1000億円のうち、法人による土地購入は27兆1000億円と全体の46%、その結果、私有地のうち法人所有地の比率は、70年代の8%台から、91年1月1日現在で13.7%に達しているという。この構造が地価の高騰と下落をもたらした。 1990年からのバブル経済の崩壊と1989年からの日米構造協議との進展の中で、法人資本主義は内と外から両方の圧力をかけられている。現在マスコミを賑わしている政治腐敗の問題も、根底には、会社本位主義を貫くための企業献金があり、世論も企業に対し、厳しい日を向けるようになってきた。
<新しい企業像と社会>
それでは「会社本位主義」にかわって人間本位の社会を作るためにはどうすべきか? 法人資本主義にかわるべき社会はどのようなものなのか?
著者はここで、資本主義か社会主義かの体制論を排除する。観念的な体制論より、まず新しい企業像を打ちたてることこそ必要だと主張する。それはまず第1に大企業の解体であり、具体的には株式所有の法人化、相互持ち合いを解消し、企業集団・企業系列の解体である。第2には、大企業を解体したあとの所有関係として、従業月所有か協同組合所有のようなものを考えている。
これらの解決策はいわゆる近代主義で、新味に欠くようにも思うが、現在のソ連の状態を見ていると、以前のように軽々しく社会主義、大企業の国有化とは言えない。従業員持ち株制度等を通じて社会のあり方を徐々に変えてきたスウェーデン等をむしろ見習うべきかもしれない。
読み易い本で、ベストセラーにもなっているようなので、ぜひ一読をすすめます。
(大阪 N)
【出典】 青年の旗 No.182 1992年12月15日